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(……そう思っていたのは、わたしだけだったみたいね)

 少しの胸の痛みを自覚しながら、思う。一方的に別れを告げられ、パティはわがままだったと言いながらも、きっぱりと拒絶をしなかったリッキーの考えが、シャノンにはまるで理解できなかった。

(それだけ好きだったってことなんでしょうけど……もしリッキーがパティと付き合うためにわたしとの婚約をやめるなら、婚約破棄……慰謝料は免れないわね)

 もともと、パティとの付き合いをよく思っていなかったチェルニー伯爵がそれを許すとはとても思えない。流石にそれぐらいのこと、リッキーだって承知しているはずだ。

 ──やっぱり無理だと断る? それとも、例えチェルニー伯爵家から除籍されようとも、愛を貫く?

 シャノンは、はあとため息をついた。何だか考えるのも馬鹿らしくなってきたからだ。

「……帰りましょ」

 一人呟き、シャノンは学園の外に出た。待機していたグルエフ伯爵家の従者が「お帰りなさいませ」と、腰を折りながら、小さく小首を傾げた。

「リッキー様は、ご一緒ではないのですか?」

「ええ。とても大事な用があるとかで」

 従者は「さようでございますか」とあっさりそれを信じ、馬車の扉を開けた。最近の登下校はリッキーと一緒のことが多かったから、一人で帰るのは久しぶりだった。

 外の景色をぼんやり見送りながら、自身の胸に手を当てる。

(もうあまり痛くないわね)

 それよりも、リッキーに対する呆れの方が強くて。


 芽生えかけていた恋心のようなものはもう、ほとんどなくなっていた。

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