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「シャノンは、全然ぼくに甘えてくれないね」

 学園の帰りの馬車で、ふとリッキーが呟いた。シャノンは、思わず苦笑した。

「わたしはパティじゃないから。甘えられても、嬉しくないでしょう?」

「そ、そんなことないよ。パティのことはもう、忘れるって決めたんだ。これからは、シャノンのことだけを思うよ」

「無理しなくていいのに」

「してない! だから、もっと甘えてよ。服が欲しいとか、課題やってとか。人気のスイーツの店にだって、きみが望むなら何時間でも並ぶよ!」

「……そんなことしてたの?」

「? うん」

「それは甘えとかじゃなくて、わがままって言わない?」

 リッキーは、え、と目を丸くしたあと、そっか、と小さく呟いた。

「……わがまま、か。そっか。いま思えば、そうだったかも」

「でも、愛するパティのためなら、何だって苦じゃなかったんじゃない?」

 少しの嫌味を言ってみる。怒るかな。それとも素直に肯定するかしら。そう考えていたシャノンだったが、リッキーは、そうでもないよ、と薄く笑った。

「実を言うと、よくへこんでいたんだ。デートプランも、いつも一生懸命考えるんだけど、ほとんどがセンスないって呆れられたり、怒られたりしてね。お肉が食べたいっていうから、お肉を出す店に行ったのに、気が変わったとかいってすぐに帰りたがったり……」

 いま思い返すと、本当にわがままだね。リッキーは、はは、と笑った。

 そこまでとは思っていなかったシャノンは目を見張ったが、パティのことについてはもう、何も口には出さなかった。


「──明日、お休みね」

 シャノンの言葉に、リッキーが「うん、そうだね」と返す。

「二人で、何処かに行きましょうか」

 婚約してからひと月経つが、実はまだ、二人で出掛けたことはない。お互いに、自分とデートなどしたくないだろうと思っていたから。

「……ぼくでよければ、喜んで」

 リッキーの答えに、シャノンは小さく微笑んで見せた。



 互いの了承があったとはいえ、親が決めた婚約者にかわりはない。けれど、幼いころから気心が知れた二人は、少しずつ、少しずつ、婚約者としての距離を縮めていった。


 ──と、思っていたのだが。

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