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 グリエフ伯爵の娘であるシャノンには、二人の幼馴染みがいた。父親の友人の息子のリッキーと、母親の友人の娘のパティだ。

 先に出会ったのは、シャノンとリッキー。けれどその半年後に会ったパティに、リッキーが一目惚れしたのだ。パティもベタぼれされていることが嬉しかったのか、やがて二人は付き合いはじめた。

 リッキーの父親であるチェルニー伯爵は、伯爵令嬢であるシャノンとの付き合いを望んでいたが、あまりにリッキーがパティに惚れ込んでいたため、一時はそれを諦めていた。けれど付き合いは認めても、婚約はまだ早いと認めず。

 リッキーが三男だったこともあり、学園を卒業するまで付き合いが続いていたら、認めてやる。その言葉に歓喜したリッキーだったが──。


 王立学園に同じ年の三人が同時に入学してから二ヶ月ほど経ったころ。パティは運命の出会いをした──と、本人は思っている。

 一つ年上の侯爵令息と、廊下の曲がり角でぶつかったとき、よろけたパティを、侯爵令息が支えたそうだ。端正なその顔に、パティは一目惚れした。おまけに侯爵令息なうえ、長男ときている。

 小さなころから可愛いともてはやされて育ったパティは、自分ならきっとおとせる、と考えた。そのためにはリッキーと付き合っているという事実が邪魔だった。侯爵令息に知られる前に別れなければと、パティはあっさりとリッキーを捨てた。


 あまりに突然にフラれたリッキーは、数日のあいだ、茫然自失状態だった。けれどチェルニー伯爵はこれ幸いと、グルエフ伯爵に話を持ちかけた。

 むろん、シャノンとリッキーの婚約話だ。

 最初は渋っていたグルエフ伯爵も、土下座せんばかりのチェルニー伯爵の勢いにおされ、シャノンにその旨をしたためた手紙を送ってきた。

 シャノンにはまだ好いた相手もいなかったし、優柔不断なところもあるが優しい気遣いができるリッキーのことは嫌いではなかったで、構わないと思った。同時期にチェルニー伯爵からの手紙を受け取っていたリッキーに「どうする?」と聞くと、リッキーは戸惑いながらも口を開いた。

「……まだ、パティとのこと、気持ちの整理がついてないけど、それでシャノンがいいのなら……」

 シャノンはグルエフ伯爵家の長女だ。下に二人の妹がいるだけで、兄も弟もいない。つまりシャノンと結婚するということは、グルエフ伯爵家の婿養子となる。成績もあまりよくない。とりたてて取り柄もないリッキーにとっては、そう悪くない条件だったろう。

 愛するパティを失ったいま、そんな話を蹴ってまで、わたしとの婚約を拒絶する意味はないはず──と、シャノンは心の中で冷静に思っていた。

(わたしは勉学が好きだし、伯爵の仕事も、わたしが手伝えば何とかなるわよね)

 婚約者探しに時間を費やすよりも、もっと勉学に励みたい。知識を得たい。そんな思いがあったから、シャノンにとっても都合は良かった。


 そして間もなく、二人は正式に婚約した。

 
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