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 翌日の朝。

 学園へ向かう馬車の中。目を真っ赤にしたアビーが、不機嫌に顔を歪ませている。目の前に座るモーガンは、ぼんやりと外を見ている。

 もうアビーを甘やかすのは終いだ。

 昨日。両親はそう告げ、アビーとモーガンを叱った。くわえてアビーには、学園を休むこと、早退することは許さない。そう言った。はじめて両親に叱られたアビーは、それからずっと泣いていた。すがられたモーガンは、そんなアビーを突き放すことはしなかったが、なにも言葉をかけなかった。

 まだモーガンの中では、整理がついていない。アビーが嘘をつくはずがない。ずっとそう信じて疑ってこなかった。庭師が目撃したのも、アビーが花瓶を頭上に振り上げたところだけで、投げたところは見ていない。いや、あの証言すら嘘ではないかと考えてしまう自分がいる。

 ──さすがに、リアと庭師の仲を疑うことはしていないが。

(……だって、もしアビーが嘘をついていたのだとしたら……リアが正しかったのだとしたら)

 花瓶を投げつけられたリアを一方的に責めたあげく、頬を叩いたことになってしまう。モーガンはその可能性に、ぞっとしていた。だから認めたくなかった。なによりもその思いが強かったのかもしれない。


 いつもなら教室までアビーを送っていくが、両親に甘やかすなと言われたこともあり、モーガンは校舎に入ったところでアビーと別れた。アビーが泣きそうに顔を歪ませているのがわかったが、モーガンは一刻も早くリアに会いたかったので、気付かないふりをして背を向けた。

 廊下を足早に進む。リアの教室へと近付いていく。途中で見慣れた背中を見つけたモーガンは、一瞬ためらったのちに、声をかけた。

「──リア!」

 名を呼ばれた人物が、足を止める。ゆっくりと身体を反転させる。二人の視線が交差した。モーガンは向けられたその双眸に、目を見張った。

「…………リア?」

 驚愕に、声が震えた。今まで、こんな冷たい目を向けられたことはなかったから。
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