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(そうは言っても、レナルド様に任せっきりでは駄目よね)

 授業を終えたリアは、その足でモーガンの屋敷に向かっていたのだが。

「……あの、ニール。どうかしたの?」

 馬車の中。向かい側に座るニールが、疑わし気な双眸でリアをじとっと見ていた。

「──モーガン様に勧められたわけでもないのに、みずから、望んで、アビー様のお見舞いに行かれるのはなぜですか?」

「こ、婚約者の妹のお見舞いに行くことが、そんなに変かしら」

「嘘か本当かはともかく。アビー様の具合が悪いのは、いつものことでしょう」

 リアがなにも言い返せずにいると、ニールはさらに続けた。

「──今日。なにかあったのでは?」

 ぎくり。リアは肩を揺らしてから、あからさまに目を逸らせた。その後もニールに何度か詰め寄られたが、リアはなんとか無言を貫いた。


「リア! わざわざアビーのお見舞いに来てくれたのかい?」

 リアが屋敷を訪ねると、モーガンはとても嬉しそうに出迎えてくれた。リアがアビーと仲良くしてくれること。それはモーガンにとって、一番の望みだったから。ちなみにニールは、モーガンの屋敷内にとめてある馬車の中だ。

「ええ。具合はどうかしら」

「今は自室で眠っているよ。ずっと泣いていて、慰めるのが大変だったけどね」

 リアはどう答えたものかと一瞬悩んだが「そうなの……おじさまとおばさまは?」と、わざとはぐらかした。

「父上はお仕事。母上は、お買い物に行っておられるよ」

「……そう」

 せめておばさまがいれば、と思ったものの、アビーを甘やかしているのはモーガンの両親も同じだ。娘を、妹を大事にするのはとても素敵なことだ。けれどそれと甘やかすことは違う。これまでは家族としか接してこなかったから、アビーのめちゃくちゃな言い分も通ってきたのかもしれないが、学園に通ういま、それはもう通用しない。このままではモーガンとアビーが、学園から浮いた存在になってしまう。

(……ちゃんと、言わなければ。アビーには伝わらないかもしれないけど、モーガンになら)

 リアが、覚悟を決めて口を開こうしたとき。先にモーガンが語りかけてきた。

「ねえ、リア。私はとても心配だよ」

「……アビーのこと?」

「そう」

 わたしも。そう返そうしたリアだったが。

「あの子は可憐だから、すぐにでも婚約者ができて、結婚してしまうかもしれないだろ?」

「…………」

 まったく違うことで心配しているモーガンに、リアは思わず、声をなくしてしまった。

「でも、今日のことで思い知ったよ。その相手が、きちんとアビーを幸せにできるか。私はとても不安なんだ」

「……あの」

「あの子のことをわかってあげられるのは、私しかいない。だから、私は思ったんだ」

「なにを……?」

 続けられた言葉に、リアは絶句した。

「もしあの子が望むなら、私は一生、あの子のそばにいてあげるつもりだ」
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