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「もうすぐ、アビーが学園に入学する季節になるね」

 学園から帰る途中の馬車の中。ふいに、心配そうにモーガンが呟いた。前に座るリアが「そうね」と答える。

「君も知っている通り、あの子は身体が弱かったせいで、ほとんど屋敷から出られなかった。だから友もいない。人見知りのあの子が、うまくやっていけるかとても心配でね」

「大丈夫よ。学園にはモーガンも、わたしもいるんだから」

 リアは、おそらくはモーガンが望む答えを口にした。モーガンがありがとう、と満足そうにお礼を言う。リアは微笑みながら、モーガンとは違う意味で、アビーの学園生活を心配していた。

 それが現実になるのは、アビーが学園に入学してからひと月ほど経ったころ。


 入学当初は、みながリアのようにアビーのかわいさに見惚れ、病弱だというアビーの体調を気遣った。またモーガンに対しても、リアと同じように、病弱な妹を大切にする素晴らしい兄だという認識しかなかった。けれど。

 短い休み時間でも、アビーは兄の教室に通い、またモーガンもアビーの様子を見に、アビーの教室に通った。お昼は当然のように、モーガンとアビー、そしてリアの三人で食べるようになった。そこで交わされるのは、いつものように、アビーがリアにひどいことを言われたという被害妄想を信じるモーガン、という図。まわりに人がいるというのに、お構いなしに声をあげるモーガンとアビーに、リアはひたすらため息をつくしかなかった。

 さらに、もう一つ。

 貴族の子どもは、学園に入学する前から家庭教師をつけ、読み書きはもちろん、複数の外国語、社交界に必要な音楽やダンスを学ぶ。けれど、アビーはそのどれも出来ていなかった。病弱だったから、学びたくても学べなかった。アビーは涙ぐみながらそう言ったのだという。

 お気の毒に。最初はそう同情していた人たちも、ことあるごとにアビーがそう言って泣くので、次第にまわりの人たちは引いていってしまった。

 少しずつ、学園におけるモーガンとアビーの評価が変化してきたころ、アビーのクラスで一つの揉め事が起こった。
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