姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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 ライナスは国王の執務室を後にし、自身の執務室へと足を向けた。今日の昼食は何だろう。そんなことを考えながら扉を開けると──そこにいるはずのマイラの姿がなかった。

「……マイラ?」

 戻ってくるまでここにいるようにと言ったのに、どうしたのだろう。心臓が早鐘を打つ。マイラはとても素直で、純粋で、一度だって約束をやぶったことなどないのに。

 慌てて宮殿内を探しまわる。すると。

「あ、ライナス様」

 中庭にいる、マイラを見つけた。ライナスがほっと息をつき、駆け寄る。

「執務室にいるように言ったのに、どうしたの?」

「ご、ごめんなさい。あの、わたし」

 謝罪するマイラと一緒にいた女性が「私が無理にお誘いしたのよ」と、にこやかに笑った。ライナスは、はあ、とため息をついた。

義姉上あねうえ。それならわたしに一言おっしゃってくださらないと」

「あら、どうして? 中庭にお誘いするぐらい、よいではないですか。だってほら。こんなに綺麗なお花がたくさん咲いているんですもの」

「兄上をお誘いしては?」

 そう。この女性は、ライナスの兄であるサイディルム王国第一王子の、妻である。

「だってあの方、あまりお花に興味がないんですもの。それにマイラは将来、私の義妹になる子でしょ? いまから親交を深めておきたいなって」

 義姉がマイラに腕をからめる。マイラが照れながらも嬉しそうにしているので、ライナスはひとまずほっとしていた。

「ですが、約束もなしにそれはやめてください。心配で、わたしの心臓がもたない」

「まあ。それは少し、過保護がすぎるのでは──あら。あらあら」

 マイラは頬を赤く染めながらも、嬉しさが隠しきれないように、口元を緩ませまくっていた。その様子に、義姉の頬まで赤く染まっていく。

「……ああ、いいですわねえ。うう。何だか私も、殿下にお会いしたくなってきましたわ」

 では、またね。
 義姉はそそくさと、その場を後にした。向かった先は、第一王子である兄の執務室だろう。

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