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しん。
病室が静まり返る。最初に口を開いたのは、パメラだった。
「……え、なに? 記憶喪失ってやつなの?」
ヘイデンはつかつかと寝台に歩み寄ると、マイラに「おい。どこまで忘れているんだ」と問いかけた。
「……どこまで、とは」
「音楽やダンスなどはこのさい目をつぶってやる。外国語は話せるのか。基本的な知識は残っているのだろうな」
「……えと」
「お前は確か、フランス語を話せたな。何でもいい。話してみろ」
マイラが困惑の表情を浮かべる。ヘイデンは目を吊り上げた。
「王妃教育で学んだことを言ってみろ!」
怒鳴り声に、マイラがびくつく。それでもマイラは何も答えない。ヘイデンは「ふざけるなよ貴様!!」と声を荒げた。
「もういい! 馬鹿なお前にはもう、何の用もない!」
ヘイデンはベーム公爵を振り返り「ベーム公爵。貴殿の娘であるこの女とはいまこのときをもって、婚約を破棄──いや、約束を違えたのはこの女なのだから、解消だな。婚約を解消する。よいな!」と叫んだ。
「……致し方ありません」
ベーム公爵がうなだれる。異を唱えたのは、ベーム公爵夫人だった。
「あなた、そんな簡単に……っ」
「仕方ないだろう。もともと、頭の良さだけをかわれていたのだから」
「だからってこんな娘、誰も貰ってくれませんよ。ただでさえ我が家のお荷物なのに」
「年老いた貴族なら、貰ってくれるさ。なに。あてはある」
「そうなのですか? なら、早くしてくださいね。この子は生きてるだけで、お金を消費していくのですから」
わかっている。
ベーム公爵が答える。僅かな間ができたところで、マイラが小さく声をあげた。
「あの……ベーム公爵様」
ベーム公爵が「何だ。文句でもあるのか」と苛つきながら返答する。
「わたしはあなたの娘だそうですが、わたしには実感がわきません……わたしにとって見ず知らずの方にお世話になるのは、心苦しく……」
「だから?」
マイラは震えながらも、真っ直ぐにベーム公爵の目を見て、こう告げた。
「だから、わたしを公爵家から除籍してもらえませんでしょうか……?」
病室が静まり返る。最初に口を開いたのは、パメラだった。
「……え、なに? 記憶喪失ってやつなの?」
ヘイデンはつかつかと寝台に歩み寄ると、マイラに「おい。どこまで忘れているんだ」と問いかけた。
「……どこまで、とは」
「音楽やダンスなどはこのさい目をつぶってやる。外国語は話せるのか。基本的な知識は残っているのだろうな」
「……えと」
「お前は確か、フランス語を話せたな。何でもいい。話してみろ」
マイラが困惑の表情を浮かべる。ヘイデンは目を吊り上げた。
「王妃教育で学んだことを言ってみろ!」
怒鳴り声に、マイラがびくつく。それでもマイラは何も答えない。ヘイデンは「ふざけるなよ貴様!!」と声を荒げた。
「もういい! 馬鹿なお前にはもう、何の用もない!」
ヘイデンはベーム公爵を振り返り「ベーム公爵。貴殿の娘であるこの女とはいまこのときをもって、婚約を破棄──いや、約束を違えたのはこの女なのだから、解消だな。婚約を解消する。よいな!」と叫んだ。
「……致し方ありません」
ベーム公爵がうなだれる。異を唱えたのは、ベーム公爵夫人だった。
「あなた、そんな簡単に……っ」
「仕方ないだろう。もともと、頭の良さだけをかわれていたのだから」
「だからってこんな娘、誰も貰ってくれませんよ。ただでさえ我が家のお荷物なのに」
「年老いた貴族なら、貰ってくれるさ。なに。あてはある」
「そうなのですか? なら、早くしてくださいね。この子は生きてるだけで、お金を消費していくのですから」
わかっている。
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「わたしはあなたの娘だそうですが、わたしには実感がわきません……わたしにとって見ず知らずの方にお世話になるのは、心苦しく……」
「だから?」
マイラは震えながらも、真っ直ぐにベーム公爵の目を見て、こう告げた。
「だから、わたしを公爵家から除籍してもらえませんでしょうか……?」
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