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 実家に着き、突然の帰省に驚いた両親の顔を見るなり、オーレリアは泣き崩れた。

「ど、どうした、オーレリア」

「いったい、何があったの?」

 おろおろする両親に、オーレリアは「……ごめんなさいぃ……っ」と両手で顔を覆った。

「ヴェッター家のためなら、何でもする覚悟でした……でもわたしでは無理です……背負いきれません……っっ」

「お、落ち着いて、オーレリア。あなたの好きな紅茶を淹れてきますから、そこに座って。ね?」

 母親に促され、オーレリアは応接室の椅子に腰かけた。父親が隣に座り、心配そうにオーレリアを見つめる。


 少しして。

 紅茶の香りと、久しぶりの味に幾分か落ち着きを取り戻したオーレリアは、静かに、これまでのことを二人に語りはじめた。

 パットに愛する人──アデラインがいることは、両親も承知していた。けれど話が進んでいくにつれ、二人の顔からも血の気がどんどん引いていった。

「──クーヘン伯爵はそれを知ったうえで、今回の婚約を承諾したのか……っ。どうりですんなり援助を申し出たわけだっ!」

 父親が吐き捨てる。母親は「……オーレリアに、おかしくなってしまった息子を託そうとしたのでしょうか」と、オーレリアの背中に手を添えながら呟いた。

「……クーヘン伯爵たちがこのことをご存知なのかは、まだはっきりとはわかりません。大家さんから話を聞いただけですから。でも──アデラインさんのことは……っ」

 オーレリアが涙を流し、頭を抱える。母親はオーレリアをそっと抱き締めた。

「……ええ。あなたがその目で確認したのですから、間違いはありませんね──あなた、どうしますか?」

「決まっている。すぐにでもクーヘン伯爵たちと話し合い、事実を確認したのち、婚約は破棄する。この隠し事は、あまりにひど過ぎる」

「──お父様! パット様は何も悪くありません。ですからどうか……っ」

「張本人であるクーヘン・パットを交えないわけにはいかん……が、私とてそれはわかっているとも。安心しなさい」

「……はい。よろしくお願いいたします……」

 オーレリアの脳裏に、最後に会ったパットの顔が浮かんだ。いつもと変わりなく、いや、いつもより満ち足りた顔をして、笑っていた。

(……パット様。どうであれ、あなたは幸せなのですね)

 このままでいい、とは言えない。本人が幸せなら、なんて。けれど、オーレリアにはどうすることもできない。

「……ごめんなさい、パット様」

 小さく呟き、オーレリアは一筋の涙をこぼした。
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