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「……やはり、あなたたちはご存知だったのですね」

 これまでの様子から全てを察したヴェッター伯爵夫人が静かに呟く。クーヘン伯爵とクーヘン伯爵夫人は答えない。ただ、クーヘン伯爵の隣に座るパットだけが、訳がわからず動揺していた。

「ど、どういうことですか。父上、母上。何かご存知なのですか?」

 パットが詰め寄るが、二人はなおも無言を貫く。ヴェッター伯爵は、重いため息を一つ、もらした。

「……クーヘン伯爵。貴殿の息子と娘の婚約は破棄させていただく。よろしいですな?」

 クーヘン伯爵より先に声をあげたのは、パットだった。

「ま、待ってください! ぼくとの婚約を破棄してしまえば、援助もなくなります。それで本当によいのですか?!」

「……オーレリアは、大事な娘なのです。それに、慰謝料が入れば、それを元手に何とか──」

「じょ、冗談ではない。アデラインのことはきちんと最初から説明していましたし、慰謝料を払う義務など……っ」

 そこに割って入ったのは、クーヘン伯爵だった。

「……致し方ないですな。慰謝料はお支払いする。だが、このことは決して誰にも話されないよう」

 続けてクーヘン伯爵夫人が「……どうか、お願いします」と頭をさげた。少しの沈黙のあと、オーレリアがそっと口を開いた。

「……それで、本当によいのですか?」

 心配気な声色に、クーヘン伯爵夫人は苦笑した。

「……よくはありませんね。でも、どうしようもないのですよ」

 そう言って、クーヘン伯爵夫人はパットに視線を移した。ただひたすら困惑する息子に、泣き笑いを浮かべる。その様子に、オーレリアはこれ以上追及することを止めた。

「……そう、ですか。あの、それでこれからどうなさるのですか? 次の婚約者を探すのですか?」

「それは……」

 クーヘン伯爵はぐっと口を引き結んだあと、クーヘン伯爵夫人と顔を見合せた。クーヘン伯爵夫人が無言でうなずく。もしかしたら今日の話し合いの内容を、予め予想していたのかもしれない。

「……父上?」

 首を傾げるパットに目線を移したクーヘン伯爵は、迷いながらも、口火を切った。


「──パット。お前は、アデラインと一緒になりなさい」

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