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「ぼくが言うのも何ですが、婚約者がいる男の誘いを、娘に威圧までさせて受けさせるとは……まあ、ぼくが伯爵令息だというのが大きいのでしょうが」

 街中を歩きながら、パーシーがアデルに話しかける。アデルが「威圧なんて……そんな」と否定する様子に、パーシーはやれやれと肩をすくめた。

「ぼくの前では心を偽らなくてもよいのですよ、アデル先輩。さて、これからどうしましょうか。カフェに行きますか? それともぼくの屋敷に来ますか?」

「ちょ、ちょっと待ってください。パーシー様の婚約者様は、本当に、その……」

「ええ。それがあなたの救いになるならと、許してくれましたよ。だから辛いときにはいつでも、ぼくのところに来てくれてかまいません。なに。深く考えずとも、ぼくの屋敷を単なる逃げ場だと考えてくれればよいのです」

「……逃げ場、ですか……?」

 アデルの小首を傾げる仕草が可愛く、パーシーの口元がゆるむ。

「ええ。どうしてもカーラのことが気になるなら、明日にでも、学園で直接本人に訊ねてみてください。今日は何やら、急ぎの用があると言っていたので」

「そう、ですが……あの、パーシー様」

「はい、何でしょう」

「……あたしをここまで気にかけてくれるのは、あたしが可哀想だからですか?」

 アデルの真剣な双眸に、パーシーは足を止めた。少しして「そうですね」と、ふっと表情をゆるめた。

「男として、可憐な女性が心身共に傷ついているのを、黙って見ていることなどできませんでしたから」

 距離を縮め、パーシーがアデルに近付く。アデルは少し頬を赤く染めながら、視線をそらした。

「あ、あたしは可憐などでは……」

「おや。自身の魅力に気付いていないとは、もったいない。ぼくに婚約者がいなければ、すぐにでも交際を申しこみたいほどなのに」

「こ、婚約者の方に言い付けますよ……っ」

「はは、それは困りますね。まあ、それぐらいでぼくとカーラの絆は揺らいだりはしませんが──黙っていてもらうかわりに、美味しいお茶をご馳走させてください」

 それからパーシーは、先ほどまでカーラと会っていたカフェにアデルと再び入り、夕刻までアデルと二人、そこで過ごした。

 流石にそのままパーシーの屋敷に──とまではいかず、パーシーはアデルを、イリック子爵の屋敷まで送っていった。

(あんなに初々しい反応をしてくれる女性は久しぶりだ。見目も可愛いし、これから楽しくなりそうだ)

 パーシーはスキップでもしそうなほどの上機嫌な足取りで、自身の屋敷へと帰った。


 ──次の日。

 カーラは、学園を休んでいた。

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