35 / 35
35
しおりを挟む
ここまで悲惨な目に合っている現状を知ったら、最低でも、勉強だけは見てあげると、そう言ってくれると思っていたから。
「じゅ、十位以内に入らないと、学園を退学させられて、仕送りも、なくなるって……」
「あら、まあ」
「……! そ、そしたらぼくは、身一つで外に放り出されてしまうことになるんだよ!?」
「では、一生懸命頑張らないとですね」
「勉強。お、教えてくれないの……?」
「嫌いな他人のあなたを? わたしが、なぜ?」
終始笑顔を崩さないミラベルに、オーブリーは絶望したように立ち尽くした。その後、授業開始の鐘が鳴り、教室に来た教師に、半ば強引に教室の外に出されたあとも、オーブリーはしばらく動くことができなかった。
完全に見放されたのだと思い知ったオーブリーは、それからの授業は真面目に受け、わからないところは、恥も外聞も捨て、何度も教師に質問した。人生の中で、一生懸命を一番した。
けれど試験の結果は、下から数えた方が早い順位となった。
試験の結果が出た、数日後。王都の広場のベンチに一人、オーブリーは座っていた。
つい先ほど。王都にやってきたコスタ伯爵の遣いの者に「お元気で」との言葉一つで、アパートを追い出されたのだ。
試験が終わり、抜け殻となったときから、考えていたことがある。どうしてコスタ伯爵は、あんな条件を出したのか。もしかしたら、オーブリーがミラベルに、勉強を教えてもらっていたことを知ったうえでのものだったとしたら。
「……温情じゃなくて、ぼくが今までどれほどミラベルに頼り、甘えてきたのか。思い知らせるためだったのかな」
もはや縁を切られたので、確かめようもないことだが、案外、間違っていないのではないか。そんな風に思うのは、間違いなく、思い知ったから。
学園に登校した、最後の日。ミラベルとアーノルドが、笑って一緒にいるところを見た。もう誰とも会話していないので、二人が正式に付き合うことになったのかさえ知らないが、二人のあいだには、独特の空気が流れていた。
そんなミラベルを、皮肉なことに、はじめて可愛いかもと思えたのは、ミラベルが恋をしていたからかもしれない。
「……はは」
流れた涙は、いったい誰のためのものなのか。オーブリー本人にもわからず、それは一向に、止まる気配はなかった。
─おわり─
「じゅ、十位以内に入らないと、学園を退学させられて、仕送りも、なくなるって……」
「あら、まあ」
「……! そ、そしたらぼくは、身一つで外に放り出されてしまうことになるんだよ!?」
「では、一生懸命頑張らないとですね」
「勉強。お、教えてくれないの……?」
「嫌いな他人のあなたを? わたしが、なぜ?」
終始笑顔を崩さないミラベルに、オーブリーは絶望したように立ち尽くした。その後、授業開始の鐘が鳴り、教室に来た教師に、半ば強引に教室の外に出されたあとも、オーブリーはしばらく動くことができなかった。
完全に見放されたのだと思い知ったオーブリーは、それからの授業は真面目に受け、わからないところは、恥も外聞も捨て、何度も教師に質問した。人生の中で、一生懸命を一番した。
けれど試験の結果は、下から数えた方が早い順位となった。
試験の結果が出た、数日後。王都の広場のベンチに一人、オーブリーは座っていた。
つい先ほど。王都にやってきたコスタ伯爵の遣いの者に「お元気で」との言葉一つで、アパートを追い出されたのだ。
試験が終わり、抜け殻となったときから、考えていたことがある。どうしてコスタ伯爵は、あんな条件を出したのか。もしかしたら、オーブリーがミラベルに、勉強を教えてもらっていたことを知ったうえでのものだったとしたら。
「……温情じゃなくて、ぼくが今までどれほどミラベルに頼り、甘えてきたのか。思い知らせるためだったのかな」
もはや縁を切られたので、確かめようもないことだが、案外、間違っていないのではないか。そんな風に思うのは、間違いなく、思い知ったから。
学園に登校した、最後の日。ミラベルとアーノルドが、笑って一緒にいるところを見た。もう誰とも会話していないので、二人が正式に付き合うことになったのかさえ知らないが、二人のあいだには、独特の空気が流れていた。
そんなミラベルを、皮肉なことに、はじめて可愛いかもと思えたのは、ミラベルが恋をしていたからかもしれない。
「……はは」
流れた涙は、いったい誰のためのものなのか。オーブリー本人にもわからず、それは一向に、止まる気配はなかった。
─おわり─
2,806
お気に入りに追加
3,504
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】円満婚約解消
里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。
まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」
「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。
両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」
第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。
コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる