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 ここまで悲惨な目に合っている現状を知ったら、最低でも、勉強だけは見てあげると、そう言ってくれると思っていたから。

「じゅ、十位以内に入らないと、学園を退学させられて、仕送りも、なくなるって……」

「あら、まあ」

「……! そ、そしたらぼくは、身一つで外に放り出されてしまうことになるんだよ!?」

「では、一生懸命頑張らないとですね」

「勉強。お、教えてくれないの……?」

「嫌いな他人のあなたを? わたしが、なぜ?」

 終始笑顔を崩さないミラベルに、オーブリーは絶望したように立ち尽くした。その後、授業開始の鐘が鳴り、教室に来た教師に、半ば強引に教室の外に出されたあとも、オーブリーはしばらく動くことができなかった。


 完全に見放されたのだと思い知ったオーブリーは、それからの授業は真面目に受け、わからないところは、恥も外聞も捨て、何度も教師に質問した。人生の中で、一生懸命を一番した。

 けれど試験の結果は、下から数えた方が早い順位となった。



 試験の結果が出た、数日後。王都の広場のベンチに一人、オーブリーは座っていた。

 つい先ほど。王都にやってきたコスタ伯爵の遣いの者に「お元気で」との言葉一つで、アパートを追い出されたのだ。

 
 試験が終わり、抜け殻となったときから、考えていたことがある。どうしてコスタ伯爵は、あんな条件を出したのか。もしかしたら、オーブリーがミラベルに、勉強を教えてもらっていたことを知ったうえでのものだったとしたら。

「……温情じゃなくて、ぼくが今までどれほどミラベルに頼り、甘えてきたのか。思い知らせるためだったのかな」

 もはや縁を切られたので、確かめようもないことだが、案外、間違っていないのではないか。そんな風に思うのは、間違いなく、思い知ったから。

 学園に登校した、最後の日。ミラベルとアーノルドが、笑って一緒にいるところを見た。もう誰とも会話していないので、二人が正式に付き合うことになったのかさえ知らないが、二人のあいだには、独特の空気が流れていた。

 そんなミラベルを、皮肉なことに、はじめて可愛いかもと思えたのは、ミラベルが恋をしていたからかもしれない。

「……はは」

 流れた涙は、いったい誰のためのものなのか。オーブリー本人にもわからず、それは一向に、止まる気配はなかった。



           ─おわり─

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