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「大事な娘を傷付けられ、貶められたのですから、親としては当然の行動です。わかりますね? 旦那様は、これ以上の温情をかけることはできません。そんなことをしたら、さらにヴィア伯爵の怒りを買うことになりかねませんから」

 押し黙ってしまったオーブリーに、執事が冷たく言い放つ。

「お早く準備を。でなければ、お荷物はご自分で運んでもらうことになりますよ?」

「……あ、あ」

 オーブリーは右往左往してから、慌てて自室へと駆け込んだ。




 ──同時刻。

「……なに? なんて言ったの?」

「マルヴィナお嬢様の嫁ぎ先がようやく見つかりました、と」

 マルヴィナが学園から帰宅するなり、メイドが告げた一言。問われ、もう一度繰り返したメイドに、マルヴィナは首を傾げた。

「嫁ぎ先? あたし、まだ学生なんだけど」

「学園は退学し、五日後には、王都を出立していただきます」

「……それ、お父様の命令?」

「もちろんです」

 急すぎるわ。マルヴィナは自室の椅子へと腰掛け、テーブルに片肘をついた。

「でもまあ、分不相応の男に腹を立てたところだったし、勉強も好きじゃないし。良かったかも。それで、相手はどんなお方? お父様が選んだのなら、きっと、あたしにつり合うとても素敵な男性なのよね?」

「お相手は、色を好むとして有名な辺境伯様です。年齢は、六十二歳だそうで」

 マルヴィナは「…………は?」と、テーブルについた片肘を空に浮かせた。

「現在は、奥方と五人の愛人と暮らしているのだとか。マルヴィナお嬢様は、六人目の愛人ということになりますね」

「…………冗談、よね?」

「マルヴィナお嬢様の性格をよおく理解し、そのうえで、お金を出してまで迎え入れたいと、旦那様に申し出てくれたそうです」

 マルヴィナは「……嘘、嘘よ!」と、椅子から勢いよく立ち上がった。

「お父様がそんな老人をあたしの相手に選ぶはずないわ! しかもなに? 六人目の愛人? このあたしを蔑ろにするのも限度があるわよ?!」

「いいえ。旦那様はずっと、アーノルド様にお支払いした慰謝料を、マルヴィナお嬢様に返してもらうおつもりで、結婚相手を探しておられましたので」

 はじめて知らされた事実に、マルヴィナは呆然としながら、どさっと椅子に座り込んだ。

「…………か」

 数分後。ぼそりとなにかを呟いたマルヴィナに、メイドが「なんですか?」とたずねると、マルヴィナは小さく口を開いた。

「……その辺境伯の、顔は? ちゃんと整ってる?」


 メイドは呆れ果て「……好みは人それぞれですので、なんとも」と言うに留め、深くため息ついた。

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