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「あまりこういうこと言いたくありませんが、オーブリー様の容姿は、あたしにつり合っていません。それはご理解いただけていますでしょうか」

「……えと」

 自分の見目が良い。なんてことは、思ったことはなく。不細工ではないが、平均的な顔をしている。マルヴィナの言葉は事実だが、こうもはっきり告げられると、なんだかモヤッとした。

「確かに、あたしはあなたが伯爵家の嫡男だからお付き合いをはじめました。ですが、それだけで胡座をかかれては困ります。このあたしといずれ結婚できるのですから、最低限の約束は守ってくださらないと」

「……す、みません」

「次、あたしとの約束を破ったら、あなたとの婚約はなしです。覚えておいてください」

 オーブリーは「そ、それは困りますっ」と、ギョッとした。

 今朝。コスタ伯爵に、ミラベルとの婚約解消をお願いし、マルヴィナとの新たな婚約を認めてほしいという手紙を出したばかりなのに、それすらなしとなれば、流石にコスタ伯爵の怒りは免れないだろう。

「なら、もっと緊張感を持って。仕方ないですから、今日はあたしのおすすめのレストランに行きましょう」

「……わかりました」

 ちらっと横目で従者を見れば、無表情で前を見て、立っていた。帰ってからなにか言われるだろうな。その前に、みんなにこのことがバレるのか。

 怒られるか。呆れられるか。責められるか。

 自分が選んだ道ではある。もう後戻りはできない。わかっている。隣には、誰にでも自慢できる美しい恋人が歩いているのに、心はどこまでも重く。

(……自分の容姿を貶されるのって、こんな気分になるのか。事実とはいえ、ミラベルには悪いことしたな。それに──)

 たった一つの会話でさえ、気を使う。ミラベルと交際していたときは、むしろ気を抜いていたほどなのに。

(……美人と付き合うのって、こんなに大変なんだ)

 この後。マルヴィナおすすめのレストランは、貴族御用達ということもあって、どのメニューも高額であり、そこで持ち合わせの金をすべて使い果たすこととなったオーブリーに、情けないとマルヴィナは怒り、初デートは、早々に中止となった。


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