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 ぱあん。
 振り上げられた手のひらは、いつのまにか、女子生徒を庇うように前に出ていたミラベルの頬に当たっていた。

 目を見開くオーブリーの頬を、今度はミラベルが、平手で打った。

「──先に手を出したのはそちらだということ、よく覚えておいてくださいね」

 怒気を宿した声音で呟いてから、ミラベルは「行きましょう」と、女子生徒を振り返った。

 女子生徒は「……わ、私のせいで」と口元を両手で覆い、震えていた。そんな女子生徒に、ミラベルが微笑みかける。

「わたしのために本気で怒ってくれて、わたしの言いたいこともすべて言ってくれて、ありがとうございます。胸がすっとしました。わたし一人だったら、怒りで血管が破裂していたかも。もしくは理解不能なこの男のせいで、脳がどうにかなっていたかもしれません」

「……で、ですが」

「さあ。一刻も早く、こんな頭のおかしい人から離れなくては」

 ミラベルは女子生徒の手を掴み、教室へと歩き出した。

 オーブリーはといえば。
 故意ではなかったとはいえ、ミラベルを打ってしまったこと。そして打たれたことにより、放心状態となっていた。

 ぼんやりと。集まっていたまわりの生徒たちを見渡せば、視線を逸らすか、逃げるか。もしくはこちらを見てコソコソと小声で話すかのどれかで。

(…………あ)

 今さらながら。これまでのすべてを目撃されていたことを自覚したオーブリーは、だらんと手を下げた。


 オーブリーはこのとき気付いていなかったが、その生徒たちの中には、オーブリーの学友も交じっていて。

 この後すぐ、絶縁を告げられることになった。

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