上 下
8 / 24

8

しおりを挟む
「ベイジルはこんなわたしにも優しいですから……わたしを傷付けまいと、あなたとの仲を認めないかもしれません」

 ネリーが、確かに、と神妙な顔で頷く。

「あたしがクラリッサ様に一言、言ってやりますと申し出たときも、ぼくの本心を告げたら、クラリッサはショックのあまり、自害するかもしれないとひどく心配していましたし……」

「…………そうですか」

 それを信じながら、口付けしただの不貞行為をしただの自慢気に告げてきたネリーの神経を疑ったが、むろん、追求はしなかった。

「なにか証拠があればいいのですが。ベイジルが認めざるをえないなにかが……」

「証拠?」

 クラリッサが顎に手を当て、黙考する。

「そうですね……どの家ともかかわりのない探偵にお願いして、ベイジルとあなたの仲を証明してもらいましょうか」

「まあ! まるで恋愛小説みたいですね!」

 あまり深く物事を考えない思考回路のネリーにいまは感謝しながら、クラリッサは念を押すように、口を開いた。

「ベイジルを誘い、できうる限り、あなたたちが愛し合っているところを探偵に見せつけてください。ベイジルがこれ以上、哀しい嘘をつかなくてもいいように」

「はい! 任せてください!」

「あと、慰謝料のことですが」

「? 慰謝料?」

 ネリーが、はてと首を傾げた。慰謝料のことなど、まるで頭になかったかのような表情をしている。

「あの、本来ならあなたは、わたしから慰謝料を請求される立場にあることは……わかっています、よね?」

「ど、どうしてですか? だってクラリッサ様は、ベイジル様の幸せのために自ら身を引く決意をしたのですよね? それなのに慰謝料を請求するなんて、おかしくないですか? それともベイジル様の幸せなんてぜんぶ嘘で、ただお金が欲しかっただけなんですか?!」

 怒りを露わに、腕を掴まれ前後に揺すられる。婚約者がいる相手と、堂々と不貞行為をしましたと言っておきながら、慰謝料を請求されるなんておかしいと喚くネリー。
 
 よかった、とクラリッサが胸中で呟く。やはり優しい誰かではなく、ベイジルにはぜひ、倫理観の欠如したネリーと一緒になってほしいと強く思った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

想い合っている? そうですか、ではお幸せに

四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。 「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」 婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。

さようなら婚約者。お幸せに

四季
恋愛
絶世の美女とも言われるエリアナ・フェン・クロロヴィレには、ラスクという婚約者がいるのだが……。 ※2021.2.9 執筆

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

処理中です...