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「離せ! あの女との話はまだ終わってないんだ!」

 ふりほどこうとするが、弁護士の力は、細身の見た目に反し、強かった。

「あのですね。本来なら、こうして話し合う必要なんて、なかったんですよ。それでもあなたとの話し合いの場を設けたのは、あの人なりの慈悲だったんです。それをあなたはすべて、台無しにしたんですけどね」

「なにが慈悲だ!」

「反省の色をあなたが少しでも見せていたら、奥様が慰謝料を減額する可能性もあったのですよ?」

「な……っ」

 驚愕し、力が弱まったバートを、弁護士は無理やり元の席へと座らせた。

「もう、あの方の意思は変わりません。追いかけても無駄ですよ。さあ、慰謝料の話をしましょう。拒否するなら、裁判も辞さないそうなので、そのおつもりで」

 にっこりと圧をかけてくる弁護士。バートは、裁判、という単語に大人しくなり、とりあえずの抵抗を止めた。

「……いったん、お話しはお聞きします」

 ここまできて、まだなんとかなる。自分は悪くないと信じて疑わないバートは、それでも強気の姿勢は崩さなかった。

 そのとき。偶然にも、同じ文官として働くバートの同期の友が、妻と一緒に喫茶店を訪れた。

 友の姿を見つけたバートは、いいところにと、みずから友に駆け寄り、これまでの事情を、嘘偽りなく、語ってみせた。

 話が進むにつれ、友とその妻の表情が険しくなっていくが、同調してほしいバートは必死で、まるで気付く様子がない。

「なあ、酷いだろう? どうか一緒に、あの弁護士とレイラを説得してくれないだろうか」

 頼む。
 そう締め括り、バートは友に向かって頭を下げた。

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