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「そんなに好きなら、最初から諦めず、親を説得すべきだった。それが無理なら、駆け落ちでもなんでもすればよかった。あなたは、なぜそれをしなかったの?」

「せ、世間知らずも大概にしろ! 駆け落ちとか、きみが思うほど、簡単なものじゃないんだ!」

「──ワグナー家は、あなたも知っての通り、資産家よ。ロマーノ家より遙かに財産があるわ」

 バートが、僅かだか、動揺するのが見て取れた。それを見逃さないように、レイラはバートをじっと見ていた。

「……あなたはわたしを悪者にして、悲劇ぶっていたけれど、ワグナー家の財産に、少しも心が揺るがなかったって断言できる?」

「ぶ、侮辱するな! ぼくは貴族令息として、仕方なく、父の命のまま、きみと結婚しただけだ!」

 図星をさされたようにバートは声を荒げたが、レイラはむしろ満足したように、そう、と呟いてから、弁護士に顔を向けた。

「──お時間を取らせて申し訳ありませんでした。当初の予定通り、お話しをすすめてください」

 弁護士が「わかりました」と頷くと、レイラは席を立ち、弁護士に頭を下げた。

「あとはお願いします」

 バートが「ま、待て!」と、焦ったように音を立てて、椅子から腰を上げた。

「逃げるなら、離縁届を──っ」

「バート。わたしはね、慰謝料だけで充分だと思っていたの。でも、お父様はそうじゃなかったみたい」

 冷ややかな声色に、バートはぴたっと動きを止めた。


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