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 その慌てぶりが、かえってマックスを不審がらせた。

「……母さんがおかしい原因は、それ?」

「ち、違うわ」

「じゃあ、見せてよ」

「絶対、駄目」

 しばらくの押し問答のあと、マックスは、思い切るように口火を切った。

「……うちの従業員が、父さんが母さんじゃない別の女性と、小さな男の子と一緒に買い物をしているところを見たって。こっそり教えてくれた」

「…………っ」

 レイラは声にならない声を上げ、目を見開いた。その様子を見ながら、マックスは続けた。

「……見間違いかもしれないし。なにより、母さんが哀しむだろうから、僕の胸の内にとどめることにしたんだけど」

 ──なんてことなの。

 レイラは愕然とした。

『家族三人で、街にでかけるようになったのも、ここ最近だ。もう、バレてもいいと思っていたから』

 脳裏に、バートの台詞が過った。マックス本人ではないにしろ、目撃されていたのだ。レイラが知るより前に、マックスは望まないかたちで、父親のことを知ってしまっていた。

 その事実に、身体が震えはじめた。

(……そうよ。そんなことをすれば、マックスに目撃される可能性だってあったのに)

 愛情は、なかったんだ。わたしだけじゃなく、マックスにも。理解して、子どもに対してのあまりに酷い仕打ちに、配慮の欠けた行いに、レイラは膝から崩れ落ちた。

「母さん?!」

 マックスが腰を折り、ごめん、とレイラを労るように背中に手を添えた。

「あまりにも母さんの様子が変だったから……てっきり、母さんもそれを目撃してしまったのかなって」

 レイラは背中にマックスの手の温もりを感じながら、こぶしを強く握った。

「……あなたは謝らなくていいの。その通り、だから」

 レイラはぐしゃぐしゃになってしまった離縁届を、マックスに差し出した。

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