28 / 31
28
しおりを挟む
「……断る、だと?」
「はい、お断りします。わたしは二度と、あの国には戻りません」
「お前、わかっているのか?! お前が戻らないと、国が滅びるかもしれないんだぞ!!」
「そうですね」
「……お、お前には人の心がないのか!!」
「ないとしたら、それはあなたたちのせいです。クリーシャー王国がわたしにとっての天国なら、テンサンド王国は、まさに地獄でした」
「な……っ。よくもそんな恩知らずなことをっ」
恩知らず、ですか。
心が急激に冷えていくのを、アーリンは感じた。
「ろくな食事も与えられず、罵倒や蔑みの言葉。理不尽な暴力をふるわれる日々。何より──毎日の、死の恐怖。それのどこに恩を感じろというのですか」
ぎょっとしたのは、ルーファスたちだった。
「毎日の死の恐怖……?」
呆然とするルーファスに向き合い、アーリンは淡々と告げた。
「孤児で平民のわたしに聖女の役目がつとまるのか疑問だった国王たちは、わたしにこう告げました。テンサンド王国内に、もし一匹でも魔物が侵入すれば、聖女の資格なしとして、わたしを処刑すると」
?!
謁見の間にいる全員が、鋭い視線をショーンに向けた。
ショーンが「し、知らない! ぼくは知らない! 父上たちが決めたことだ!!」と叫ぶ。アーリンは再び、ショーンに視線を戻した。
「誰が決めたとか、関係ないんです。わたしはもう、優しい世界を知ってしまった。もう死の恐怖に怯える日々は嫌なんです」
「も、もうそんなことはしない! 父上たちも、きっと考えを改めた! だから……っ」
「正直に申し上げます。わたしはテンサンド王国が滅びようと、どうでもいいのです。心は自分でも驚くほど揺れず、ちっとも痛まない」
「テ、テンサンド王国は、お前が産まれ、育った国だろう?! 母国が滅んでもよいのか!!」
「ショーン殿下。その耳は飾りですか? わたしの話し、ちゃんと聞いていましたか?」
「あ、悪魔め……何が聖女だっ」
「わたしにはあなた方が全員、悪魔に見えていましたよ。わたしが悪魔だというなら、そうしたのはあなたたちです。自業自得ですね」
「……き、貴様ぁぁぁ!!」
飛びかかろうとするショーンを、兵士が取り押さえる。ショーンは気が狂ったように、暴れている。そんなショーンを見下ろすアーリンのこぶしを、ルーファスは優しく包んだ。
「……アーリン。もういいよ。もう大丈夫だから」
ルーファスが強く握りしめられたアーリンのこぶしをゆっくりと開いていく。アーリンの手のひらは、爪が食い込んで、血が出ていた。
「はい、お断りします。わたしは二度と、あの国には戻りません」
「お前、わかっているのか?! お前が戻らないと、国が滅びるかもしれないんだぞ!!」
「そうですね」
「……お、お前には人の心がないのか!!」
「ないとしたら、それはあなたたちのせいです。クリーシャー王国がわたしにとっての天国なら、テンサンド王国は、まさに地獄でした」
「な……っ。よくもそんな恩知らずなことをっ」
恩知らず、ですか。
心が急激に冷えていくのを、アーリンは感じた。
「ろくな食事も与えられず、罵倒や蔑みの言葉。理不尽な暴力をふるわれる日々。何より──毎日の、死の恐怖。それのどこに恩を感じろというのですか」
ぎょっとしたのは、ルーファスたちだった。
「毎日の死の恐怖……?」
呆然とするルーファスに向き合い、アーリンは淡々と告げた。
「孤児で平民のわたしに聖女の役目がつとまるのか疑問だった国王たちは、わたしにこう告げました。テンサンド王国内に、もし一匹でも魔物が侵入すれば、聖女の資格なしとして、わたしを処刑すると」
?!
謁見の間にいる全員が、鋭い視線をショーンに向けた。
ショーンが「し、知らない! ぼくは知らない! 父上たちが決めたことだ!!」と叫ぶ。アーリンは再び、ショーンに視線を戻した。
「誰が決めたとか、関係ないんです。わたしはもう、優しい世界を知ってしまった。もう死の恐怖に怯える日々は嫌なんです」
「も、もうそんなことはしない! 父上たちも、きっと考えを改めた! だから……っ」
「正直に申し上げます。わたしはテンサンド王国が滅びようと、どうでもいいのです。心は自分でも驚くほど揺れず、ちっとも痛まない」
「テ、テンサンド王国は、お前が産まれ、育った国だろう?! 母国が滅んでもよいのか!!」
「ショーン殿下。その耳は飾りですか? わたしの話し、ちゃんと聞いていましたか?」
「あ、悪魔め……何が聖女だっ」
「わたしにはあなた方が全員、悪魔に見えていましたよ。わたしが悪魔だというなら、そうしたのはあなたたちです。自業自得ですね」
「……き、貴様ぁぁぁ!!」
飛びかかろうとするショーンを、兵士が取り押さえる。ショーンは気が狂ったように、暴れている。そんなショーンを見下ろすアーリンのこぶしを、ルーファスは優しく包んだ。
「……アーリン。もういいよ。もう大丈夫だから」
ルーファスが強く握りしめられたアーリンのこぶしをゆっくりと開いていく。アーリンの手のひらは、爪が食い込んで、血が出ていた。
145
お気に入りに追加
4,261
あなたにおすすめの小説
もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
妾の子である公爵令嬢は、何故か公爵家の人々から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
私の名前は、ラルネア・ルーデイン。エルビネア王国に暮らす公爵令嬢である。
といっても、私を公爵令嬢といっていいのかどうかはわからない。なぜなら、私は現当主と浮気相手との間にできた子供であるからだ。
普通に考えて、妾の子というのはいい印象を持たれない。大抵の場合は、兄弟や姉妹から蔑まれるはずの存在であるはずだ。
しかし、何故かルーデイン家の人々はまったく私を蔑まず、むしろ気遣ってくれている。私に何かあれば、とても心配してくれるし、本当の家族のように扱ってくれるのだ。たまに、行き過ぎていることもあるが、それはとてもありがたいことである。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!
三園 七詩
ファンタジー
美月は気がついたら森の中にいた。
どうも交通事故にあい、転生してしまったらしい。
現世に愛犬の銀を残してきたことが心残りの美月の前に傷ついたフェンリルが現れる。
傷を癒してやり従魔となるフェンリルに銀の面影をみる美月。
フェンリルや町の人達に溺愛されながら色々やらかしていく。
みんなに愛されるミヅキだが本人にその自覚は無し、まわりの人達もそれに振り回されるがミヅキの愛らしさに落ちていく。
途中いくつか閑話を挟んだり、相手視点の話が入ります。そんな作者の好きが詰まったご都合物語。
2020.8.5
書籍化、イラストはあめや様に描いて頂いてております。
書籍化に伴い第一章を取り下げ中です。
詳しくは近況報告をご覧下さい。
第一章レンタルになってます。
2020.11.13
二巻の書籍化のお話を頂いております。
それにともない第二章を引き上げ予定です
詳しくは近況報告をご覧下さい。
第二章レンタルになってます。
番外編投稿しました!
一章の下、二章の上の間に番外編の枠がありますのでそこからどうぞ(*^^*)
2021.2.23
3月2日よりコミカライズが連載開始します。
鳴希りお先生によりミヅキやシルバ達を可愛らしく描いて頂きました。
2021.3.2
コミカライズのコメントで「銀」のその後がどうなったのかとの意見が多かったので…前に投稿してカットになった部分を公開します。人物紹介の下に投稿されていると思うので気になる方は見てください。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
おじさんとショタと、たまに女装
味噌村 幸太郎
恋愛
キャッチコピー
「もう、男の子(娘)じゃないと興奮できない……」
アラサーで独身男性の黒崎 翔は、エロマンガ原作者で貧乏人。
ある日、住んでいるアパートの隣りに、美人で優しい巨乳の人妻が引っ越してきた。
同い年ということもあって、仲良くなれそうだと思ったら……。
黒猫のような小動物に遮られる。
「母ちゃんを、おかずにすんなよ!」
そう叫ぶのは、その人妻よりもかなり背の低い少女。
肌が小麦色に焼けていて、艶のあるショートヘア。
それよりも象徴的なのは、その大きな瞳。
ピンク色のワンピースを着ているし、てっきり女の子だと思ったら……。
母親である人妻が「こぉら、航太」と注意する。
その名前に衝撃を覚える翔、そして母親を守ろうと敵視する航太。
すれ違いから始まる、日常系ラブコメ。
(女装は少なめかもしれません……)
ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。
ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。
しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。
その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!
縦ロールをやめたら愛されました。
えんどう
恋愛
縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。
「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」
──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故?
これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。
追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる