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「王子である貴殿が、こいつと? 冗談はよしてください」
カラカラと笑うショーンに対し、ルーファスは「冗談ではないですよ」と真剣に答えた。ショーンはみる間に顔色を真っ赤にし、怒りを露にした。
「聖女を手放したくないからといって、そこまでしますか……っ」
「わたしはアーリンが聖女だから好きになったのではない」
「世迷い言を……!!」
ショーンは怒りと共に、焦っていた。アーリンを連れて帰らなければ、どうなるか。国もそうだが、まず間違いなく、自分が責められてしまう。ベリンダのように、魔物の前に連れて行かれるかもしれない。
ショーンはもう、なりふり構っていられなかった。アーリン! 名を叫び、こう言った。
「お前をぼくの婚約者にしてやる。それでどうだ!」
しん。
謁見の間が、一瞬静まり返った。
「け、結構です……」
だからこそ、小さく呟かれたアーリンの声は、よく響いた。ショーンが「なんだと?!」と詰め寄るが、その前にルーファスが立ちはだかった。
頭一つぶん低い位置にいるショーンを見下ろす。
「──わたしの恋人に言う科白ではないな。いい度胸だ」
怯むも、ショーンとて必死だ。
「ど、どちらを選ぶかはアーリンだろう! なあ?!」
ショーンがルーファスの背後にいるアーリンを覗き込む。いまだにルーファス以外の男性が怖いアーリン。本当はショーンの顔を正面から見たくなどないが、アーリンは覚悟を決めて、一歩、前に出た。
「……ルーファス様の傍をはなれ、あなたと婚約するぐらいなら、ここで自害したほうがましです」
これ以上ないぐらいの拒絶に、ショーンは最初、ぽかんとしていた。けれど徐々に言葉の意味を理解しはじめ、どんどんと頭に血がのぼっていった。
「ちょ、調子にのるなよ貴様! これ以上ないぐらいの好条件だろうが!!」
こぶしを振り上げるショーン。ルーファスの目配せで、兵士二人が剣を抜いた。切っ先を、ショーンに向ける。気付いたショーンは、ぐっとこぶしをおろした。そのこぶしは、怒りのためにぶるぶると震えていた。
「──孤児の平民のために、王子であるぼくに剣を向けるか」
「貴様の国では随分と聖女の存在を軽く見ていたようだが、聖女アーリンは国の宝だ。国が危機的状況になっても、まだ孤児だの平民だのと言っているのか。愚か者め」
吐き捨てられたルーファスの科白に、ショーンはくやしさから血が出るほど唇を噛んだ。それから自身を落ち着かせるように深呼吸をし、口を開いた。
「……わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、ショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げた。
カラカラと笑うショーンに対し、ルーファスは「冗談ではないですよ」と真剣に答えた。ショーンはみる間に顔色を真っ赤にし、怒りを露にした。
「聖女を手放したくないからといって、そこまでしますか……っ」
「わたしはアーリンが聖女だから好きになったのではない」
「世迷い言を……!!」
ショーンは怒りと共に、焦っていた。アーリンを連れて帰らなければ、どうなるか。国もそうだが、まず間違いなく、自分が責められてしまう。ベリンダのように、魔物の前に連れて行かれるかもしれない。
ショーンはもう、なりふり構っていられなかった。アーリン! 名を叫び、こう言った。
「お前をぼくの婚約者にしてやる。それでどうだ!」
しん。
謁見の間が、一瞬静まり返った。
「け、結構です……」
だからこそ、小さく呟かれたアーリンの声は、よく響いた。ショーンが「なんだと?!」と詰め寄るが、その前にルーファスが立ちはだかった。
頭一つぶん低い位置にいるショーンを見下ろす。
「──わたしの恋人に言う科白ではないな。いい度胸だ」
怯むも、ショーンとて必死だ。
「ど、どちらを選ぶかはアーリンだろう! なあ?!」
ショーンがルーファスの背後にいるアーリンを覗き込む。いまだにルーファス以外の男性が怖いアーリン。本当はショーンの顔を正面から見たくなどないが、アーリンは覚悟を決めて、一歩、前に出た。
「……ルーファス様の傍をはなれ、あなたと婚約するぐらいなら、ここで自害したほうがましです」
これ以上ないぐらいの拒絶に、ショーンは最初、ぽかんとしていた。けれど徐々に言葉の意味を理解しはじめ、どんどんと頭に血がのぼっていった。
「ちょ、調子にのるなよ貴様! これ以上ないぐらいの好条件だろうが!!」
こぶしを振り上げるショーン。ルーファスの目配せで、兵士二人が剣を抜いた。切っ先を、ショーンに向ける。気付いたショーンは、ぐっとこぶしをおろした。そのこぶしは、怒りのためにぶるぶると震えていた。
「──孤児の平民のために、王子であるぼくに剣を向けるか」
「貴様の国では随分と聖女の存在を軽く見ていたようだが、聖女アーリンは国の宝だ。国が危機的状況になっても、まだ孤児だの平民だのと言っているのか。愚か者め」
吐き捨てられたルーファスの科白に、ショーンはくやしさから血が出るほど唇を噛んだ。それから自身を落ち着かせるように深呼吸をし、口を開いた。
「……わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、ショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げた。
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