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 国の中央に位置する教会の中にある、ドーム型の一室。天井が鏡張りとなっているそこに、アーリンは膝をついた。

 歴代の聖女に受け継がれてきた聖書を手に、それを読みあげる。その文字の羅列自体に力があるのか、しばらくすると、身体の中心が熱くなっていくのを感じた。続けて読み続けると、自分の身体から光が出ていくのが見えた。それはみる間に四方八方に広がっていき、鏡越しに見える結界が、濃くなるのを確かに見た。

 怯えながらもアーリンは、見たままを報告した。みなは半信半疑だったものの、魔物が国に侵入するまでは信じてやることにすると国王が言い渡したので、それに従うことになった。

 結界の存在を学んだ魔物が、テンサンド王国自体に近付くことは少なくなっていた。それでも結界の綻びから侵入してくることは、一年のうち、少なくとも一度は起きていた。

 国王はそれを知りながら、暗にこう言っていたのだ。一度でも魔物が侵入すれば、処刑してやると。

 アーリンは毎日を怯え、生きていた。

 ──だから。

 未来に恐怖はあっても、この国に未練など、あるはずもなかった。



 隣国に売られることを告げられた次の日。朝も早くから、アーリンは無理やり湯浴みをさせられた。そしてあまりに不釣り合いな真っ赤なドレスを着させられ、広間へと連れて行かれた。

 クリーシャー王国といえば、世界でも有数の大国である。その使者が来国するとあって、広間は派手に飾り付けられ、テーブルには豪勢な食事がところせましと並べられていた。

「まあ、なんですの。あれ」

「ねえ。ちっとも似合っていませんわ」

「気品がなければ、どんなに素敵なドレスも、あんなにみすぼらしく見えてしまうのね」

 予想通りの、貴族、王族からの嘲笑。アーリンはもはや気にする気力もなく、広間の中央に立つ国王の前まで来ると、膝をついた。

「よいか。どのような目に遭おうと、決して逆らったりするなよ。ことは、国の存続にも関わることだからな。場合によっては、死んだ方がましと思えるような罰を与えてやる。そのことをゆめゆめ忘れるな」

 跪くアーリンに、国王が脅しの念押しする。はい。静かに答えていると、臣下が近付いてきた。国王に「クリーシャー王国の第二王子である、ルーファス殿下がおいでになりました」と告げた。

「なに? 王子が?」

 使者とだけ聞いていた国王が、目を丸くする。早くお通ししろ。少しの焦りを見せ、国王が命じた。

「いつまで跪いているつもりだ。早く立て」

 国王に急かされ、アーリンは立ち上がった。広間の扉がゆっくりと開かれたのは、それから間もなくのことだった。
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