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よく話してくれた。そう言って、褒めてくれるのを頭を下げたまま待つアヴリル。けれど、エイベルは沈黙したまま。
「エイベル様……?」
顔を上げると、化け物を見るかのような目でこちらを見下ろすエイベルと視線がぶつかった。どうして。アヴリルは、訳がわからなかった。
そのとき。
馬車が停止した。ウェバー公爵の屋敷に着いたのだ。馭者席にいるトマスが声をかけるべきかどうか迷っていると。
「──おりろ。早くおりろっっ」
馬車内から、エイベルの大声が響いてきた。何だ。考える間もなく、馬車の扉が開いた。
「エ、エイベル様? 突然、どうされたのですか?!」
おろおろするアヴリルの腕をつかみ、エイベルが力尽くで馬車からおろす。
「お前たち家族は、正気じゃない!!」
「──きゃっ!」
馬車からおろされたアヴリルが、足をもつれさせ、転ぶ。駆け寄ろうとしたトマスの名を呼ぶと、エイベルは「中に入れ!」と命じた。迷う素振りを見せるトマスに、エイベルは叫んだ。
「ぼくの命令が聞けないのか?!」
「……承知しました」
命令に逆らってまで、手をかそうとは思えない相手だったこともあり、トマスは命じられるまま馬車の中に入り、扉を閉めた。
「エイベル様? エイベル様!!」
半狂乱となったアヴリルがエイベルの名を連呼する。エイベルが「出せ!」と馭者に怒鳴る。馭者はアヴリルを気にしながらも、馬車を出発させた。
「待ってください、エイベル様! あたしにはもう、あなたしか……っっ」
止めどない涙を流しながら、アヴリルが馬車を追いかける。全力疾走など、おそらくは人生ではじめてしたアヴリルは、すぐに息が切れ、やがて、派手に顔面から転んだ。
放っておいてよいのですか。と、声をかけようとしたトマスだったが、とてもそんな雰囲気ではなかった。
エイベルは目の前で、頭を抱えていた。あたりが暗くて顔色がいまいちよくわからないが、まとう空気から、真っ青になっているだろうことは予想がついた。
(いったい、どんな話をしたんだ……?)
ガタゴト。ガタゴト。
しばらく馬車の動く音だけが響いていたが、やがてエイベルが、ぽつりと、何かを呟いた。
「……じゃない」
「?」
「……ぼくのせいじゃない」
エイベルが、がばっと顔を勢いよくあげた。びくっとしたトマスに、エイベルが詰め寄る。
「アラーナが自殺したのは、ぼくのせいじゃない! なあ、そうだよな!?」
ひゅっ。
トマスの息が、一瞬、止まった。
「ウェバー公爵たちは、非道な家族だ。毒で自殺した娘の遺書を破り捨てたあげく、遺体を遠くに捨ててくるようにと使用人に命じたそうだ。きっと、そんな家族に耐えきれなくなって、自殺したんだ。お前も、そう思うだろう? 思うよな?!」
肩を、爪が食い込むほど強い力で掴まれ、前後に揺すられる。けれどトマスの感情は凍り付いたように動かなくなっていて、何も答えない。答えられない。
「……アラーナが見つかれば、この状況も終わると思っていたのに……真実が全て明るみにでたら、父上たちにばれたら、ぼくはもう、お終いだ……っっ」
──ああ、何だ。この人、少しは罪悪感でも抱いているのかと思ったら、結局は、自分がかわいいだけか。
トマスは、現実感のないなか、どこか遠くからこの場を見下ろしているような気分で、そんなことを思っていた。
「エイベル様……?」
顔を上げると、化け物を見るかのような目でこちらを見下ろすエイベルと視線がぶつかった。どうして。アヴリルは、訳がわからなかった。
そのとき。
馬車が停止した。ウェバー公爵の屋敷に着いたのだ。馭者席にいるトマスが声をかけるべきかどうか迷っていると。
「──おりろ。早くおりろっっ」
馬車内から、エイベルの大声が響いてきた。何だ。考える間もなく、馬車の扉が開いた。
「エ、エイベル様? 突然、どうされたのですか?!」
おろおろするアヴリルの腕をつかみ、エイベルが力尽くで馬車からおろす。
「お前たち家族は、正気じゃない!!」
「──きゃっ!」
馬車からおろされたアヴリルが、足をもつれさせ、転ぶ。駆け寄ろうとしたトマスの名を呼ぶと、エイベルは「中に入れ!」と命じた。迷う素振りを見せるトマスに、エイベルは叫んだ。
「ぼくの命令が聞けないのか?!」
「……承知しました」
命令に逆らってまで、手をかそうとは思えない相手だったこともあり、トマスは命じられるまま馬車の中に入り、扉を閉めた。
「エイベル様? エイベル様!!」
半狂乱となったアヴリルがエイベルの名を連呼する。エイベルが「出せ!」と馭者に怒鳴る。馭者はアヴリルを気にしながらも、馬車を出発させた。
「待ってください、エイベル様! あたしにはもう、あなたしか……っっ」
止めどない涙を流しながら、アヴリルが馬車を追いかける。全力疾走など、おそらくは人生ではじめてしたアヴリルは、すぐに息が切れ、やがて、派手に顔面から転んだ。
放っておいてよいのですか。と、声をかけようとしたトマスだったが、とてもそんな雰囲気ではなかった。
エイベルは目の前で、頭を抱えていた。あたりが暗くて顔色がいまいちよくわからないが、まとう空気から、真っ青になっているだろうことは予想がついた。
(いったい、どんな話をしたんだ……?)
ガタゴト。ガタゴト。
しばらく馬車の動く音だけが響いていたが、やがてエイベルが、ぽつりと、何かを呟いた。
「……じゃない」
「?」
「……ぼくのせいじゃない」
エイベルが、がばっと顔を勢いよくあげた。びくっとしたトマスに、エイベルが詰め寄る。
「アラーナが自殺したのは、ぼくのせいじゃない! なあ、そうだよな!?」
ひゅっ。
トマスの息が、一瞬、止まった。
「ウェバー公爵たちは、非道な家族だ。毒で自殺した娘の遺書を破り捨てたあげく、遺体を遠くに捨ててくるようにと使用人に命じたそうだ。きっと、そんな家族に耐えきれなくなって、自殺したんだ。お前も、そう思うだろう? 思うよな?!」
肩を、爪が食い込むほど強い力で掴まれ、前後に揺すられる。けれどトマスの感情は凍り付いたように動かなくなっていて、何も答えない。答えられない。
「……アラーナが見つかれば、この状況も終わると思っていたのに……真実が全て明るみにでたら、父上たちにばれたら、ぼくはもう、お終いだ……っっ」
──ああ、何だ。この人、少しは罪悪感でも抱いているのかと思ったら、結局は、自分がかわいいだけか。
トマスは、現実感のないなか、どこか遠くからこの場を見下ろしているような気分で、そんなことを思っていた。
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