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 ──一週間後。

 アヴリルは父親に頼み込み、何とか学園に行くことだけは許可してもらった。

(お父様もお母様も、ロブも、もういらない。あたしには、エイベル様だけいればいいもの)

 父親と母親は、滅多に部屋から出てこなくなってしまった。たまに屋敷内で出くわしても、笑いかけてもこなければ、挨拶もしてこない。虚ろな目でこちらを見るだけで、去っていく。ロブなど、完全無視だ。

 使用人たちも、いまだに、無駄なアラーナの捜索を続けていて、残った者は忙しくて、相手をしてくれる者がいない。

「……これも、全部、全部、アラーナお姉様のせいよ」
 
 全てうまくいっていたのに。幸せな人生を送れるはずだったのに。あいつが逃げたせいで、全てが台無しになってしまった。

「……ううん。違う。全てではないわ」

 馬車が学園に着くなり、アヴリルは急ぎ足で校舎に向かった。エイベルに早く会いたくて、会いたくて。仕方がなかった。

 アヴリルは、苛々していた。でもそれと同じぐらい、寂しかった。こんなに長いあいだ人の温もりを感じない日はなかったから。

 二年の教室が並ぶ二階へと足を動かす。もう少し。あと少しで、エイベルのクラスの教室に着く。

「──エイベル様!」

 ちょうど、教室に入ろうとするエイベルの背中が視界に入った。アヴリルは嬉しくて、嬉しくて。満面の笑みで駆け寄った。

 エイベルの婚約者がアラーナなのは、学園中が周知していた。だからこれまではちゃんと、アヴリルとて人目を気にしていた。だからこその密会だった。

 でもそんなこと、アヴリルはもう、頭になかった。父親から聞いたエイベルの言付けも、すっかり忘れていた。

 エイベルが声に反応し、振り返る。アヴリルは、優しく受け止めてくれると信じて疑わなかった。

「……アヴリルか。久しぶりだな」

 低音の、怒気を含んだ声色に、アヴリルはぴたっと動きを止めた。エイベルは舌打ちしそうな勢いだったが、それを無理矢理抑え、続けた。

「アラーナが行方不明となって、ショックのあまり、学園を休んでいたと聞いた。もういいのか?」

「……はい」

「どうやらそのようだな。だが、ぼくを気遣って無理に笑う必要はないぞ」

 ようやくそこで、自分たちが注目されていることに気付いたアヴリル。しまった。ありありと、そう顔に書かれていた。

 まわりの生徒たちが、こそこそと、こちらを見ながら小声で何かを話しているのを視界の端に捉えた。アヴリルの苛々が、まだ再発する。

「言いたいことがあるなら、はっきりとおっしゃったらいかが?!」

 しん。
 廊下が、瞬時に静まり返った。それを破ったのは、エイベルだった。

「みな、許してやってくれ。大切な姉が行方不明で、精神が不安定になっているんだ──アヴリル。ぼくは大丈夫だから、もう、自分の教室に行きなさい」

 そう言って、エイベルは教室に入ると、ぴしゃりと扉を閉めてしまった。アヴリルが呆然としながら、立ち尽くす。


 そんな二人のやりとりを、少し離れた場所から見ていたトマスは、まわりの反応を見渡して見た。

 エイベルの言い分に、納得している者はほとんどいなかった。当然だな、とトマスは焦ることなく、むしろ納得する。

 二人は隠し通せていたつもりだろうが、度重なる学園内での密会。変装しながらの、街でのデート。そんなことを一年近く続けていれば、誰に目撃されていたとしても、おかしくはない。

 
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