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──アラーナのことについて。陛下に、急ぎ伝えたいことがある。
王宮に到着したウェバー公爵は、王宮仕えの者にそう伝えると、通された応接室の椅子に腰掛けた。
まもなく応接室に、国王とエイベル、そして──王妃がやってきた。
「これは、陛下だけでなく、妃殿下やエイベル殿下まで……お時間をとらせてしまい、申し訳ありません」
立ち上がり、腰を折るウェバー公爵。国王は、いい、座れ、と言い、自身もウェバー公爵の正面の椅子に腰を落とした。その右隣に王妃が座り、エイベルは左隣に座った。
「エイベルの大事な婚約者の話となれば、当然ですわ」
王妃の科白に、ウェバー公爵は、動揺を悟られまいとするように、ありがとうございます、と頭を垂れた。さて。と、国王が腕を組む。
「アラーナ嬢のことについて、急ぎ伝えたいことがあるのだとか」
ウェバー公爵は「……はい」と、ごくりと生唾をのみ、口火を切った。
「……朝、気付けばアラーナの姿が何処にもなく。屋敷中を探したのですが、見つからず……」
国王は「──どういうことだ?」と、眉をひそめた。
「わからないのです。ですが、何者かが侵入した形跡はなく、アラーナが自分で屋敷を出て行ったとしか思えないのですが……その理由も心当たりなどなく」
とたん。エイベルがぼそっと、逃げたのではないか、と口を挟んできた。
「逃げた? 何からです?」
王妃が問うと、エイベルは「むろん、王妃教育からですよ」と答えた。
「昨日、王妃の教育係から報告を受けました。アラーナが全く集中できていなかった、とね」
王妃は「……それは、初耳ですね」と、ぴくりと片眉を動かした。
「大事にはしたくないから、母上たちには報告せず、こっそりとぼくに報告しにきたと言ってました。何かあったのですかと」
「……あなたは何と返答を?」
「全く覚えがない、と答えました。本当のことですからね」
エイベルが肩を竦める。ウェバー公爵の双眸に、僅かながらの動揺が走ったが、国王と王妃が気付くことはなく。
「──それで、アラーナ嬢は見つかったのか?」
ウェバー公爵に向き直った国王がたずねると、ウェバー公爵は、ゆっくりと首を左右にふった。
「……現在、屋敷の使用人たちを総動員して探していますが、今のところ、何の報告もなく……」
エイベルが「人騒がせな奴め」と、舌打ちする。瞬間、王妃の瞳に怒りが宿った。
「──何ですか、その態度は」
母親の怒りに気付いたエイベルが「あ、いえ」と、焦りはじめた。
「だ、だって、ですね。王妃教育が嫌だからって、簡単に逃げ出すなんて、無責任にもほどがあるじゃないですか」
「まだそうと決まったわけではないでしょう。何かの事件に巻き込まれた可能性だってあるのですから。それに、あなたが思うほど、王妃教育は簡単なものではありません」
「そ、れは、そうかもしれませんが……」
「婚約者が行方不明と聞いた第一声が、逃げたのではないか、とは……何て薄情な子でしょう。失望しましたよ」
「……っ。ぜ、前日にそんな報告を受けていれば、そう思ったって、仕方ないでしょう?!」
「報告を受けたそのときに、アラーナにたずねることもできたはずです。何かあったのかと。そもそも、あの子は今まで、一生懸命に勉学に打ち込んできました。教育係が大事にしたくないからと、わざわざあなただけに報告──いえ。相談したのも、それを理解していたからではないですか」
「な、そうならそうと……っ」
ぎろっ。
王妃は、刺すような視線をエイベルに向けた。
王宮に到着したウェバー公爵は、王宮仕えの者にそう伝えると、通された応接室の椅子に腰掛けた。
まもなく応接室に、国王とエイベル、そして──王妃がやってきた。
「これは、陛下だけでなく、妃殿下やエイベル殿下まで……お時間をとらせてしまい、申し訳ありません」
立ち上がり、腰を折るウェバー公爵。国王は、いい、座れ、と言い、自身もウェバー公爵の正面の椅子に腰を落とした。その右隣に王妃が座り、エイベルは左隣に座った。
「エイベルの大事な婚約者の話となれば、当然ですわ」
王妃の科白に、ウェバー公爵は、動揺を悟られまいとするように、ありがとうございます、と頭を垂れた。さて。と、国王が腕を組む。
「アラーナ嬢のことについて、急ぎ伝えたいことがあるのだとか」
ウェバー公爵は「……はい」と、ごくりと生唾をのみ、口火を切った。
「……朝、気付けばアラーナの姿が何処にもなく。屋敷中を探したのですが、見つからず……」
国王は「──どういうことだ?」と、眉をひそめた。
「わからないのです。ですが、何者かが侵入した形跡はなく、アラーナが自分で屋敷を出て行ったとしか思えないのですが……その理由も心当たりなどなく」
とたん。エイベルがぼそっと、逃げたのではないか、と口を挟んできた。
「逃げた? 何からです?」
王妃が問うと、エイベルは「むろん、王妃教育からですよ」と答えた。
「昨日、王妃の教育係から報告を受けました。アラーナが全く集中できていなかった、とね」
王妃は「……それは、初耳ですね」と、ぴくりと片眉を動かした。
「大事にはしたくないから、母上たちには報告せず、こっそりとぼくに報告しにきたと言ってました。何かあったのですかと」
「……あなたは何と返答を?」
「全く覚えがない、と答えました。本当のことですからね」
エイベルが肩を竦める。ウェバー公爵の双眸に、僅かながらの動揺が走ったが、国王と王妃が気付くことはなく。
「──それで、アラーナ嬢は見つかったのか?」
ウェバー公爵に向き直った国王がたずねると、ウェバー公爵は、ゆっくりと首を左右にふった。
「……現在、屋敷の使用人たちを総動員して探していますが、今のところ、何の報告もなく……」
エイベルが「人騒がせな奴め」と、舌打ちする。瞬間、王妃の瞳に怒りが宿った。
「──何ですか、その態度は」
母親の怒りに気付いたエイベルが「あ、いえ」と、焦りはじめた。
「だ、だって、ですね。王妃教育が嫌だからって、簡単に逃げ出すなんて、無責任にもほどがあるじゃないですか」
「まだそうと決まったわけではないでしょう。何かの事件に巻き込まれた可能性だってあるのですから。それに、あなたが思うほど、王妃教育は簡単なものではありません」
「そ、れは、そうかもしれませんが……」
「婚約者が行方不明と聞いた第一声が、逃げたのではないか、とは……何て薄情な子でしょう。失望しましたよ」
「……っ。ぜ、前日にそんな報告を受けていれば、そう思ったって、仕方ないでしょう?!」
「報告を受けたそのときに、アラーナにたずねることもできたはずです。何かあったのかと。そもそも、あの子は今まで、一生懸命に勉学に打ち込んできました。教育係が大事にしたくないからと、わざわざあなただけに報告──いえ。相談したのも、それを理解していたからではないですか」
「な、そうならそうと……っ」
ぎろっ。
王妃は、刺すような視線をエイベルに向けた。
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