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学園を卒業したミアとエディは、結婚し、ジェンキンス伯爵の領地にある屋敷で暮らしている。
ジェンキンス伯爵の仕事の手伝いをしながら、日々、領主として必要な知識を得ていくエディ。それは、いずれ伯爵夫人となるミアも同じで。
忙しくも、充実した毎日を送っていた。
「エディ。隣に座ってもいいですか?」
夫婦の寝室で、ミアがたずねてきた。今日は甘えたい気分なのかと、エディは、いいよ、と答えた。
寝台に座るエディの横に腰を落としたミアは、エディの肩に、こてんと頭を乗せてきた。頭を撫でると、ミアは満足そうに、ふふ、と笑った。
まるでダリアみたいだ。と、エディが思ったことは、今回がはじめてではない。
もう何年も、ダリアとも、ルシンダとも、会っていない。ミアも、いつの頃からか、会話ができなくなったと言っていた。けれど思い返せば、その頃から、ミアにダリアとルシンダを感じることが、増えたような気がしていた。
例えば、ミアはそこまでりんごが好きなわけではなかったはずなのに、最近では、一番好きな果物になっている。甘えるのも、以前よりうまくなったような気がするし、かと思えば、驚くほど大人びて見えることもあって。
ダリアもルシンダも、ミアの一部になったのだろうか。
そんな風に考えるが、医者も、はっきりしたことはわからないそうで。
「ね、エディ」
ミアが、甘えたような声でエディを呼んだ。エディが「なに?」と、優しく答える。
「あたしのこと、好きですか?」
「もちろん、好きだよ」
「一番、好きですか?」
「…………」
「エディ?」
「ああ、いや。前にも、似たやり取りをしたような気がして」
「そうでしたか?」
「多分、きっとね」
不思議そうに首を傾げるミアに、ふふ、とエディが笑う。
「僕が一番好きなのは、きみだよ」
エディとミアの唇が触れ合う。
ダリアはもう、出てこない。ルシンダも。
少し寂しい気もしたが、ジェンキンス伯爵夫妻と、ミア。そしてエディは、生涯忘れることはないだろう。
──ダリア、ルシンダ。ミアと同じぐらい、僕は、二人のことを愛し続けるよ。
心の中で呟かれた言葉は、誰に届くことなく、エディの中で溶けていった。
─おわり─
ジェンキンス伯爵の仕事の手伝いをしながら、日々、領主として必要な知識を得ていくエディ。それは、いずれ伯爵夫人となるミアも同じで。
忙しくも、充実した毎日を送っていた。
「エディ。隣に座ってもいいですか?」
夫婦の寝室で、ミアがたずねてきた。今日は甘えたい気分なのかと、エディは、いいよ、と答えた。
寝台に座るエディの横に腰を落としたミアは、エディの肩に、こてんと頭を乗せてきた。頭を撫でると、ミアは満足そうに、ふふ、と笑った。
まるでダリアみたいだ。と、エディが思ったことは、今回がはじめてではない。
もう何年も、ダリアとも、ルシンダとも、会っていない。ミアも、いつの頃からか、会話ができなくなったと言っていた。けれど思い返せば、その頃から、ミアにダリアとルシンダを感じることが、増えたような気がしていた。
例えば、ミアはそこまでりんごが好きなわけではなかったはずなのに、最近では、一番好きな果物になっている。甘えるのも、以前よりうまくなったような気がするし、かと思えば、驚くほど大人びて見えることもあって。
ダリアもルシンダも、ミアの一部になったのだろうか。
そんな風に考えるが、医者も、はっきりしたことはわからないそうで。
「ね、エディ」
ミアが、甘えたような声でエディを呼んだ。エディが「なに?」と、優しく答える。
「あたしのこと、好きですか?」
「もちろん、好きだよ」
「一番、好きですか?」
「…………」
「エディ?」
「ああ、いや。前にも、似たやり取りをしたような気がして」
「そうでしたか?」
「多分、きっとね」
不思議そうに首を傾げるミアに、ふふ、とエディが笑う。
「僕が一番好きなのは、きみだよ」
エディとミアの唇が触れ合う。
ダリアはもう、出てこない。ルシンダも。
少し寂しい気もしたが、ジェンキンス伯爵夫妻と、ミア。そしてエディは、生涯忘れることはないだろう。
──ダリア、ルシンダ。ミアと同じぐらい、僕は、二人のことを愛し続けるよ。
心の中で呟かれた言葉は、誰に届くことなく、エディの中で溶けていった。
─おわり─
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