真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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「──よお、随分と楽しそうだな」

 低音の、ドスのきいた声がふいに響いた。その声の主に目を向ける。そこには、若い男性が立っていた。ジェマの雰囲気が、ぴりつくのがわかった。

「おれを解雇しておいて、よく笑えるな。おかげでおれは、明日食う飯にも困るしまつだ」

「お客様への暴言。従業員への嫌がらせ。解雇の理由としては、充分だわ」

「悪いのはおれじゃない。あいつらだ」

「……面接のときに、あなたの本性を見抜けなかったわたしの失態だわ。そこは反省している」

 ふん。男性は、くるりと踵を返したかと思うと、ジェマをじとっと見詰めた。

「……この礼はいつか、倍にして返してやる。覚えておけ」

 言い捨て、男は去って行った。ジェマの顔色は、明らかに悪くなっていた。心配になったエディが声をかける。

「……あれは、脅迫だよね。警察に相談する?」

 ジェマは、弱々しく首を左右にふった。

「似たようなことは、もう何度も言われているわ。一度だけ警察に相談してみたけど、無駄だった。だって、なにもされてないんだもん。きっとああやって、あたしを精神的に追い詰める作戦なんだわ」

「……でも、いつ、なにをしてくるかわからないよね」

「そうね。住んでいる場所もばれているし」

「家も知られているのか……」

「まあね。おかげで気が休まる暇がなくて」

 つとめて明るい口調ではあるが、無理をしているのは、誰の目にも明らかだった。

「あの、もしよければ、わたしのうちに来ませんか?」

 ミアの提案に、ジェマが、でも、と目を伏せた。

「あの男、いつ襲ってくるとも限らないし、後を付けられている可能性もあるから……あなたに迷惑をかけるかも」

「大丈夫です。お父様が、何人も護衛の人をつけてくれていますから」

「……護衛?」

 キョトンとするジェマは、このあと、ミアが伯爵令嬢であることをエディから聞かされることになる。

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