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王宮内にある執務室でその一報が入ったのは、午後二時が過ぎたころだった。
「…………は?」
「ですから、その……コーリー様が、ミア・ジェンキンス様への殺害未遂罪で、警察に逮捕されたと連絡がきまして」
文官から吐き出される言葉の意味が理解できなくて、ルソー伯爵がぽかんと口を開ける。
「なにを言っている……あの子がそんな怖ろしいことをするはずがない」
「多数の生徒がいる前での犯行だったそうで、目撃者は多数……もちろん、どなたも貴族のご子息、ご令嬢ばかりです」
「はは、そんな馬鹿な」
カラカラと笑うルソー伯爵。文官は、意を決したように、姿勢を正した。
「ともかく、警察署へ来るようにとのことなので。お早く、ご準備を」
ルソー伯爵は、ぴたっと笑いを止めた。文官はまだなにかを言っていたが、その声が、遠のいていく。
なぜ、こうなった。
幸せなはずだったのに。
息子がいなくなった。妻も去った。それでも、コーリーがいてくれればと。
(……私はそもそも、どうしてこんなにコーリーを愛するようになったのだっけ)
両親にも誰にも愛されなかった。弟ばかりが愛されて。妻も、弟の方がよかったと陰で愚痴をこぼしていたのを聞いた。
最初に生まれた息子は、自分に似ていた。嫌いな顔。好きになれなかった。愛せなかった。
でも、コーリーは違った。顔だけは好みの妻の容姿に似ていて。甘やかせば甘やかすほど、懐いてくれた。愛してくれた。
──だから。
「…………」
それでも結局は、コーリーも、弟の息子を愛した。きっと、父親である自分よりも。
殺人などすれば、どれほどの被害がこちらに被るのか、少し考えればわかりそうなものなのに。
「……馬鹿みたいだな」
ルソー伯爵はそう吐き捨てると、馬車に乗り、屋敷に向かった。荷物をまとめ、また、馬車に乗る。その馬車は警察署に向かうことなく、王都の出入り口である、門へと進んだ。
──が。
護衛のために連れてきた使用人たちの裏切りにあったルソー伯爵は、王都から出てしばらくすると、金品をすべて奪われたうえ、馬車から無理やりおろされてしまった。
ぽかんとしていたルソー伯爵だったが、やがて、狂ったように笑い出した。
日が傾き、あたりが暗くなりはじめた。それでもルソー伯爵は、その場から動こうとはしなかった。
街道のすぐそばにある森から、獣の唸り声が耳に届いた。森の中に、光る獣の目が、複数。
──狼だ。
ルソー伯爵は、一つ、乾いた笑いを浮かべた。
刑罰は、財貨によって購うことができる。
コーリーの大胆ともとれる行動は、これを知ったからこそ、なされたものだった。
警察署で、コーリーは父親を待った。すぐにお金を持ってきて、ここから出してくれる。そう信じて疑っていなかった。
だが、ルソー伯爵が姿を現すことはなく。
コーリーは地下牢で、父親とミアを恨みながら、生涯を終えることになる。
「…………は?」
「ですから、その……コーリー様が、ミア・ジェンキンス様への殺害未遂罪で、警察に逮捕されたと連絡がきまして」
文官から吐き出される言葉の意味が理解できなくて、ルソー伯爵がぽかんと口を開ける。
「なにを言っている……あの子がそんな怖ろしいことをするはずがない」
「多数の生徒がいる前での犯行だったそうで、目撃者は多数……もちろん、どなたも貴族のご子息、ご令嬢ばかりです」
「はは、そんな馬鹿な」
カラカラと笑うルソー伯爵。文官は、意を決したように、姿勢を正した。
「ともかく、警察署へ来るようにとのことなので。お早く、ご準備を」
ルソー伯爵は、ぴたっと笑いを止めた。文官はまだなにかを言っていたが、その声が、遠のいていく。
なぜ、こうなった。
幸せなはずだったのに。
息子がいなくなった。妻も去った。それでも、コーリーがいてくれればと。
(……私はそもそも、どうしてこんなにコーリーを愛するようになったのだっけ)
両親にも誰にも愛されなかった。弟ばかりが愛されて。妻も、弟の方がよかったと陰で愚痴をこぼしていたのを聞いた。
最初に生まれた息子は、自分に似ていた。嫌いな顔。好きになれなかった。愛せなかった。
でも、コーリーは違った。顔だけは好みの妻の容姿に似ていて。甘やかせば甘やかすほど、懐いてくれた。愛してくれた。
──だから。
「…………」
それでも結局は、コーリーも、弟の息子を愛した。きっと、父親である自分よりも。
殺人などすれば、どれほどの被害がこちらに被るのか、少し考えればわかりそうなものなのに。
「……馬鹿みたいだな」
ルソー伯爵はそう吐き捨てると、馬車に乗り、屋敷に向かった。荷物をまとめ、また、馬車に乗る。その馬車は警察署に向かうことなく、王都の出入り口である、門へと進んだ。
──が。
護衛のために連れてきた使用人たちの裏切りにあったルソー伯爵は、王都から出てしばらくすると、金品をすべて奪われたうえ、馬車から無理やりおろされてしまった。
ぽかんとしていたルソー伯爵だったが、やがて、狂ったように笑い出した。
日が傾き、あたりが暗くなりはじめた。それでもルソー伯爵は、その場から動こうとはしなかった。
街道のすぐそばにある森から、獣の唸り声が耳に届いた。森の中に、光る獣の目が、複数。
──狼だ。
ルソー伯爵は、一つ、乾いた笑いを浮かべた。
刑罰は、財貨によって購うことができる。
コーリーの大胆ともとれる行動は、これを知ったからこそ、なされたものだった。
警察署で、コーリーは父親を待った。すぐにお金を持ってきて、ここから出してくれる。そう信じて疑っていなかった。
だが、ルソー伯爵が姿を現すことはなく。
コーリーは地下牢で、父親とミアを恨みながら、生涯を終えることになる。
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