真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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 王立学園に通うため、ジェンキンス伯爵たちと離れ、王都に住むことになったミア。当初、ジェンキンス伯爵夫人は、わたしも一緒にと言っていたのだが、ミアがそれを断った。

 それではお父様がお寂しいでしょう、と。

 何度説得しても、無駄だった。ミアにしてみれば、迷惑をかけたくない、その一心だったのだろうが。

 どうしてそこまで。と問われ、答えることができないジェンキンス伯爵夫妻は、エディにすべてを託すことにした。

 ミアにつける使用人は、ミアとダリアのことを、きちんと理解してくれる者を選んだ。とはいえ、ダリアが心を許しているのは、ジェンキンス伯爵夫妻と、エディだけ。

 この頃には、たとえ雷が鳴っても、恐怖を感じても、もはやダリアに交代することはほとんどなくなっていたが、それでも、心配がつきることはなく。

 エディは、できるだけ、ミアの傍にいようとした。なにか起きても、すぐに対処できるように。

 はじめての、王都での暮らし。学園生活。想像よりもずっと、ミアは落ち着いていた。友だちもできたようで、エディは心からほっとしていた。

 不安材料は、コーリーのみ。そう断言してもいいぐらい、コーリーはミアに突っかかっていた。何度、怒鳴りそうになったことか。けれど、ルソー伯爵がやっきになってコーリーの婚約者候補を探し、引き合わせていたこともあり、もう少し待てば、という期待で、なんとか堪えていた。

 ──いや。

 それも嘘ではないが、やはり、幼いころに受けた、ルソー伯爵の脅迫が、エディの心を震えさせていた。もはや条件反射のように、逆らう気力が失せてしまう。

 情けない。情けない。

 自分が嫌になる。大切な人が傷付いているのに、もはや好意なんて欠片も感じていない相手の方の機嫌をとらないといけないなんて。

 それと気付かず、ルソー伯爵とコーリーへの憎しみが、日々、増していく。



「──エディ。わたしなら、大丈夫です」

 ミアが、コーリーと共に、二階の自室へと消える。

「……くそっ……っ」

 二人にしてはいけない。わかっているのに。足が動いてくれない。

 怖い。怖い。

『娘の名は、コーリー。お前の一つ下だ。コーリーを一度でも泣かせてみろ。すぐに屋敷を追い出し、人買いに売り飛ばしてやるからな』

 命に背こうとすると、あのときのルソー伯爵の表情、口調が、鮮明に頭の中で繰り返される。

 何度も、何度も。

 そしてエディは、恐怖で動けなくなるのだ。

 
 ──でも。
 
 幼いころに植え付けられた精神的外傷に打ち勝つ日が、とうとう訪れた。


 
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