真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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「これから話すことは、きみの家族以外には、他言しないでほしい」
 
 ジェンキンス伯爵とエディが向かい合わせで椅子に座ると、それぞれの前に紅茶とコーヒーが入ったカップが置かれた。ジェンキンス伯爵は使用人に、下がってくれ、と命じたのち、そう口火を切った。

「……はい。お約束、します」

 応接室が、緊張感に包まれる。エディはごくりと生唾を吞みながら、固く、答えた。


 ダリアとジェンキンス伯爵夫人は、別室にいる。応接室の前までは、ダリアとジェンキンス伯爵夫人も一緒だったのだが、ジェンキンス伯爵が、エディと二人で話たいと言い、いまに至る。

 ダリアは不満そうだったが、ジェンキンス伯爵夫人が、絵本を読んであげるわ、となだめると、すぐに笑顔になった。

「エディ。あとで、ダリアとあそんでね。やくそくだよ」
 
 それでも、不安そうに、哀しそうにそう呟いたダリア。コーリーとは、やっぱり違うな。それがなんだが、とても嬉しくて、やけにほっとした。

 

 ♢♢♢♢♢



「──これが、私が知りうる、すべてだ」

 そう締めくくると、ジェンキンス伯爵は、すっかり冷めてしまったコーヒーを、一気に飲み干した。ふうっと息をつき、目線を床に向けたまま、目を見開くエディを見た。

「……信じられないのも、無理はない。でもどうか、ダリアを否定したりしないでほしいんだ。使用人たちの中に、あれは演技ではないかと疑っている者たちがいるのも私たちは把握している。でも、少なくとも私とホリーには、あれが演技とは、とてもじゃないが、思えなくて……」

 沈痛な面持ちで、ジェンキンス伯爵が吐露する。ミアはこれまで、屋敷からほとんど出たことがなく、屋敷の住人たち以外の人と、接したことがなかった。だから、ダリアの存在を、言わば外部の人間が知るのは、これがはじめてだった。

 ミアを傷付けたくない。その一心で、ジェンキンス伯爵は訴え続けた。

「正式な婚約をする前には、むろん、これらのことはすべて打ち明けるつもりだった。だが、少しずつ、ゆっくりと理解してもらおうと……いや。すべては、こちらの勝手な都合だな。すまない」

 エディは、まだ沈黙している。ジェンキンス伯爵は、どう声をかけようか悩んだすえ、こう切り出した。

「もう、ミアと会いたくなくなったのなら、遠慮なく言ってくれ。ルソー伯爵には、私から話すから」


 数秒後。エディは、

「……そんなこと、思うはずないじゃないですか」

 と、独り言のように小さく呟いた。


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