真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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 会ったばかりなのに。人見知りなのに。咄嗟に、行動を起こしてくれたのか。

(……僕の、ために)

「! え、あの……えと」

 急に慌て出したミアは、ポケットから、ハンカチを取り出し、エディに両手で差し出した。

「…………え?」

「な、涙、ふいてください」

 エディは言われてはじめて、自分が泣いていることに気付いた。ハンカチを受け取ろうとして、はっと手を引っ込める。

「……ハンカチ、汚してしまうから」

 ばれたら、ルソー伯爵に怒られてしまうかもしれない。そんな考えが、頭を掠めた。もはやその思考は、エディの中で、習慣となってしまっていた。

 ミアはおろおろしたあと「……じゃあ、わたしがふいてもいいですか?」と、聞いてきた。

 エディが目を丸くする。涙は、まだ流れている。自分ではもう、止められそうになかった。

「わたし、昔、あまり上手く泣けなかったそうなんです。自分ではもう、あまり覚えてないんですけど……」

 ミアは戸惑いながらも、エディの頬にハンカチを当ててきた。

「でも、四歳のとき、お父様とお母様が、今日のような夜会に招待されて……わたしも一緒にと言われたんですけど、迷惑かなって、断ったんです。なのに、お父様とお母様がいない夜が、怖くなってしまって……」

「……うん」

「お父様たちが帰ってきたとき、たぶん、はじめて大泣きしてしまったんです。お父様たちはごめんねと言いながらも、泣けるようになったんだねと、優しく抱き締めくれました。だから、泣くことは、きっと大切なんです」

 ぎこちなくも、伝えたい想いを必死に伝えようとするミアの姿に、エディの涙は、ますます溢れた。

(……全然、違った)

 コーリーと似ているなんて、どうして思ったんだろう。例えばこれまでの話がすべて嘘だとしても、どんな思惑があったとしても、目の前の女の子は、気付いてくれた。見てくれていた。なにも知らないはずなのに、僅かな心の叫びを、聞いてくれたような気がした。

 ──ああ。僕はもう、それだけで。




 やっと止まってくれた涙に、エディは、すみません、とミアに小さく微笑みかけた。

「ハンカチ、洗ってお返ししたいので、預かってもいいですか?」

「い、いえ。そんなことしてもらわなくても……」

「お願いします。次にあなたに会える、口実がほしいのです」

 芯のこもった口調に、ミアは、目を瞠った。それから自身の手の中にあるハンカチを見詰め、それを、そっとエディに差し出した。

 エディは花柄の刺繍が施されたハンカチを右手で受け取ると、柔く、それを握った。

「……ありがとう」

 掠れた声。ぎこちない、笑顔。互いになにかを察したであろうエディとミアは、それでも、深くなにをたずねることもなく、とりとめのない話をしながら、夜会が終わるまでのあいだ、離れることなく、共に過ごした。


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