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隣に立つ、ルソー伯爵を見上げた。ジェンキンス伯爵との会話に夢中で、気付いていないらしい。
(……今日の夜会中は、部屋で大人しくしているようにと、ルソー伯爵から何度も言われていたはずなのに……っ)
幻聴かとも思ったが、エディを呼ぶ声が、近付いてくる。考えてみれば、いくらルソー伯爵の命とはいえ、一度も叱られたことのないコーリーが、素直に従うはずもなかった。
(……ジェンキンス伯爵の令嬢とのことだけでも重圧なのに……)
ここにコーリーが交ざって、事が上手く運ぶはずがない。コーリーのエディへの執着は、兄妹の域を超えている。きっと、ジェンキンス伯爵も、ジェンキンス伯爵の令嬢も、引いてしまうだろう。
ルソー伯爵ですら、それを理解しているからこそ、コーリーに珍しく、部屋で大人しくしているようにと命じたというのに。
怒りを通り越し、目の奥がつんと熱くなってきた。なんで、いま。こんなに泣きたくなるんだろう。エディもわからなくて、涙を堪えるのに、必死だった。
「──怖い人が来るのですか?」
だから、ミアが近くまで来ていたのに、気付かなかった。それは、エディにだけ聞こえる声量で囁かれたミアの問いかけだった。
面を上げたエディの目に映ったのは、恐ろしいほどに、真剣な双眸を宿したミアだった。
「…………え、と」
面倒だと。苦手だと。鬱陶しいと。感じたことは幾度となくあったが、怖いと表現したことはなく。戸惑いながらも、どことなく、しっくりとするような気もしていて。
「おにいさま! いたぁ!」
すぐ背後から響いた声に、油断していたエディの身体が、飛び跳ねた。そんなことをコーリーが気にするはずもなく、エディに飛びついてきた。
「こ、こら。コーリー。今夜は部屋で大人しくしていると、父様と約束しただろう?」
気付いたルソー伯爵が、慌ててコーリーに駆け寄る。
「代わりに、明日はコーリーの欲しいもの、なんでも買ってあげると言ったはずだろ? ん?」
エディから引き剥がそうと、ルソー伯爵がコーリーの肩を掴む。だが、コーリーは、いやいやと首を振り、抵抗する。
「おにいさまがいないと、ねむれません! おにいさまだって、コーリーがそばにいないと、さびしいはずですもん!」
当然のように、人の気持ちすら勝手に決めつける義妹。うんざりしつつ、エディは、諦めの息をそっと吐いた。
(……終わりだ。こんな失態を晒して……それでもルソー伯爵は、僕のせいだと罵るのだろうな)
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(……ジェンキンス伯爵の令嬢とのことだけでも重圧なのに……)
ここにコーリーが交ざって、事が上手く運ぶはずがない。コーリーのエディへの執着は、兄妹の域を超えている。きっと、ジェンキンス伯爵も、ジェンキンス伯爵の令嬢も、引いてしまうだろう。
ルソー伯爵ですら、それを理解しているからこそ、コーリーに珍しく、部屋で大人しくしているようにと命じたというのに。
怒りを通り越し、目の奥がつんと熱くなってきた。なんで、いま。こんなに泣きたくなるんだろう。エディもわからなくて、涙を堪えるのに、必死だった。
「──怖い人が来るのですか?」
だから、ミアが近くまで来ていたのに、気付かなかった。それは、エディにだけ聞こえる声量で囁かれたミアの問いかけだった。
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「…………え、と」
面倒だと。苦手だと。鬱陶しいと。感じたことは幾度となくあったが、怖いと表現したことはなく。戸惑いながらも、どことなく、しっくりとするような気もしていて。
「おにいさま! いたぁ!」
すぐ背後から響いた声に、油断していたエディの身体が、飛び跳ねた。そんなことをコーリーが気にするはずもなく、エディに飛びついてきた。
「こ、こら。コーリー。今夜は部屋で大人しくしていると、父様と約束しただろう?」
気付いたルソー伯爵が、慌ててコーリーに駆け寄る。
「代わりに、明日はコーリーの欲しいもの、なんでも買ってあげると言ったはずだろ? ん?」
エディから引き剥がそうと、ルソー伯爵がコーリーの肩を掴む。だが、コーリーは、いやいやと首を振り、抵抗する。
「おにいさまがいないと、ねむれません! おにいさまだって、コーリーがそばにいないと、さびしいはずですもん!」
当然のように、人の気持ちすら勝手に決めつける義妹。うんざりしつつ、エディは、諦めの息をそっと吐いた。
(……終わりだ。こんな失態を晒して……それでもルソー伯爵は、僕のせいだと罵るのだろうな)
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