真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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 子どもの泣き声で目を覚ましたホリーは、暗闇の中、月明かりを頼りに、蝋燭に火を灯した。

「……おかあさまぁ」

 泣きながら腕の中に飛び込んできた娘を、ホリーが抱きとめる。

「あらあら。また、こわい夢でも見たの?」

 頭を撫でる。ダリアが、うん、とうなずく。

 ミアの中で、ダリアが消えたわけではない。とはいえ、ほとんどの時間、表に出ているのはミアだ。それでもこうして、怖い夢を見たり、苦手な雷が鳴ったりしたときなど、ふいにダリアが出てくることがある。

 カールとホリーは、二人ともに、実の子のように愛情を注いだ。ミアとダリアに、笑顔が増えていく。それでも、つらい体験をまったく覚えていないミアと、それらを丸ごと受け止めてきたダリアとでは、やはり、傷の深さが大きく違っていて。


 時が過ぎ。ミアは、十歳になった。でも、ミアの中にいるダリアは、三歳のまま。

 控え目で、遠慮がちで、甘え下手なミア。対してダリアは、泣き虫で、そして、とても甘えん坊だった。



「──ミアも、もう十歳だな」

 夜も更けたころ。ワインを片手に、カールは独り言のように呟いた。正面に座るホリーが、ええ、と窓から空に浮かぶ三日月を見上げる。もうこの頃には、ミアは自室で眠るようになっていたので、寝室には、二人きりだ。たまに、怖い夢を見たとダリアが泣きながら部屋に入ってくることもあるが、それも、月に一、二回のこととなっていた。

「婚約者がいても、おかしくない年だ」

「……はい」

 結局、あれからも二人のあいだに子どもはできず。養子となったミアは、女の子で。ジェンキンス伯爵家の当主となったカールには、どうしても、跡取りが必要だった。

「あの子のすべてを受け入れてくれる人が、いるのでしょうか……」

 静かな問いに、カールは、思わず小さな笑みを浮かべた。同じ不安をホリーが抱えてくれていたことが、嬉しく、誇らしかったからだ。

 むろん、男の子の養子を迎え入れるという選択肢もある。けれどまずはなにより、ミアを幸せにしれくれる相手を見つけたい。そしてできれば、ミアの相手は、二人の目が届くところ──ジェンキンス伯爵家の次期当主となってほしい。それが、カールとホリーの願いだった。

「実は、ルソー伯爵から、夜会の招待状が届いてね」

 カールが懐から手紙を取り出すと、ホリーが、まあ、と声を上げた。

「慈善活動にも、積極的に参加なさっている方ではありませんか」

「そうなんだ。我が伯爵家も、院に寄付をしているだろう? だから是非とも、話がしてみたいと書かれていた。それで、だ。ルソー伯爵家には、ミアと同じ年の、令息がいるそうで」

「それは、つまり……」

「ああ。わざわざそのことを明記してきたのは、ミアを、婚約者候補の一人として見ているということだろう。しかもその令息は、次男ということらしい──どう思う?」

 ホリーはしばらく、黙考した。

「そう、ですね……慈善活動に理解を示さない貴族もいますから。そういった家で育った子なら、もしかしたら、ミアを理解し、大切にしてくれるかもしれませんね……」

 その答えに、カールは、夜会に出席することを決めた。もちろん、ホリーとミアも連れて。


 そうしてミアとエディは、出逢ったのだ。


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