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「……え?」
「あたし、アデラさんに言ってしまったんです。いくらネイト様に強引に誘われたとしても、もっと強く、はっきり断ればよいのではないかと」
後悔すら感じられる口調に、エリンは戸惑った。だって、それは──。
「それは……当然の思いなのではないでしょうか。わたしだって、必死に考えないようにしていただけで、心の奥底では、同じことを思っていましたよ」
伯爵令嬢は、いいえ、と頭を左右にふった。
「……だってそのあと、アデラさんは涙ながらに謝罪されて。あたし、きつく言い過ぎてしまったと反省しましたもの」
「……そうでしょうか」
呟き、改めて目の前に立つ彼女を見てみた。まだ数分会話をしただけだが、彼女も充分、アデラに負けないぐらい、良い子だと思う。
──いや、むしろ。
はっきり断りきれないアデラ。恋人がいるにもかかわらず、幼馴染みを優先するネイト。こうして第三者目線で話を聞いていくうちにはじめて、無意識に考えないようにしていた感情が、身体を駆け巡っていくのを感じた。
「その日の夕刻。授業が終わって、あたしのクラスまで迎えに来てくれたネイト様は、お一人でした。アデラさんはと訊ねると、先に帰ったとおっしゃられて……少しの後悔はありましたけど、あたし、嬉しくなってしまって……駄目ですね」
「そんなことはありませんよ」
きっぱり告げる。伯爵令嬢は、薄く笑った。
「……だと、良かったんですけど。そのあと、ネイト様に、誰も使用していない音楽室に連れて行かれて……」
「音楽室、ですか?」
「はい。中に入り、鍵を閉めると、ネイト様はあたしに近付いてきました。そのときの表情が……何と言いますか、笑っているのに、怒っているような……とにかく、いつものネイト様とは違っていて」
エリンは、はっとした。
「まさか……アデラがネイトに泣きついた、とかですか?」
「……いえ、あたしも咄嗟にそう考えたのですが……壁際まで追い詰めたあたしに、ネイト様はこう訊ねてきました」
『──アデラに、何か言った?』
どんっ。
ネイトは伯爵令嬢の逃げ道をふさぐように、壁に両手をついた。
「あたし、アデラさんに言ってしまったんです。いくらネイト様に強引に誘われたとしても、もっと強く、はっきり断ればよいのではないかと」
後悔すら感じられる口調に、エリンは戸惑った。だって、それは──。
「それは……当然の思いなのではないでしょうか。わたしだって、必死に考えないようにしていただけで、心の奥底では、同じことを思っていましたよ」
伯爵令嬢は、いいえ、と頭を左右にふった。
「……だってそのあと、アデラさんは涙ながらに謝罪されて。あたし、きつく言い過ぎてしまったと反省しましたもの」
「……そうでしょうか」
呟き、改めて目の前に立つ彼女を見てみた。まだ数分会話をしただけだが、彼女も充分、アデラに負けないぐらい、良い子だと思う。
──いや、むしろ。
はっきり断りきれないアデラ。恋人がいるにもかかわらず、幼馴染みを優先するネイト。こうして第三者目線で話を聞いていくうちにはじめて、無意識に考えないようにしていた感情が、身体を駆け巡っていくのを感じた。
「その日の夕刻。授業が終わって、あたしのクラスまで迎えに来てくれたネイト様は、お一人でした。アデラさんはと訊ねると、先に帰ったとおっしゃられて……少しの後悔はありましたけど、あたし、嬉しくなってしまって……駄目ですね」
「そんなことはありませんよ」
きっぱり告げる。伯爵令嬢は、薄く笑った。
「……だと、良かったんですけど。そのあと、ネイト様に、誰も使用していない音楽室に連れて行かれて……」
「音楽室、ですか?」
「はい。中に入り、鍵を閉めると、ネイト様はあたしに近付いてきました。そのときの表情が……何と言いますか、笑っているのに、怒っているような……とにかく、いつものネイト様とは違っていて」
エリンは、はっとした。
「まさか……アデラがネイトに泣きついた、とかですか?」
「……いえ、あたしも咄嗟にそう考えたのですが……壁際まで追い詰めたあたしに、ネイト様はこう訊ねてきました」
『──アデラに、何か言った?』
どんっ。
ネイトは伯爵令嬢の逃げ道をふさぐように、壁に両手をついた。
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