上 下
3 / 41

3

しおりを挟む
 学内にある食堂で、二人席のテーブルに向かい合わせに座るフィオナとミック。フィオナの目の前には、ハムとたまごとレタスが挟まれたサンドイッチが置かれていた。

 フィオナがサンドイッチを手に取り、口に運ぼうとしたそのとき、

「違うよ」

 と、フィオナに向かってミックが言った。フィオナの手がぴたりと止まる。

「ほら、よく見て。ハムが入ってるよ。ぼくが食べてあげるから、それをよこして」

「あ、そうね。気付かなかったわ」

 フィオナの反応に、ミックが、しょうがないなあ、と笑う。

「きみはベーコンは好きだけど、ハムはなぜか苦手だったからね」

 ミックは慣れた手つきでサンドイッチからハムだけ抜き取ると、フィオナに「さあ、どうぞ」と、それを返した。ありがとう。お礼を述べるフィオナを、少し離れた場所からじっと見ている者がいたが、二人はまるで気付いていなかった。



 フィオナは、学内にある図書室にいた。ミックのクラスより早く授業が終了したときはいつも、ここでミックを待つのが日課になっていた。

 ぱたん。
 読み終わってしまった本を閉じる。今日はいつもより遅いな。思いながら、次の本を見繕うため、フィオナは席を立った。しばらくうろうろしていると、気になるタイトルの本を見つけた。それは本棚の一番上にあり、手を伸ばすが、あと手のひら一つぶん足りない。


「──これか?」


 後ろから伸ばされた手が、目当ての本を取った。ミックよりいくぶんか低い声音に、フィオナは目を見張った。

「……あ、りがとうございます。ニール様」

 礼を述べるフィオナに、ニールと呼ばれた男子生徒は素っ気なく、その本をフィオナに手渡した。

「別に。たまたま視界に入っただけだ」

 切れ長の目がふいっとそらされ、銀の髪がふわっと揺れた。端正な顔立ちの彼は、どんな仕草でも絵になってしまうため、遠くから彼を見ていた令嬢たちは、思わずほうっとため息をついていた。

 彼はフィオナのクラスメイトで、貴族の子どもたちが大勢通うこの学園でも数人しかいない、公爵令息だった。そのままくるりと踵を返し、立ち去るものと思っていたニールだったが、ふいにフィオナに向き直り、視線を止めた。

 フィオナが居心地悪そうに「あの、何か……?」とそわそわしていると、ニールはからかうような口調で口角をあげた。

「いや? ただ、ずいぶんとつまらない女性になってしまったなと思っていただけだ」

「……それは、どういう意味でしょうか」

「それを理解しているにしろ、していないにしろ。不愉快な問いだな」

 ニールが吐き捨てる。フィオナは──ただ黙って、うつ向いた。ふっ。鼻で笑ったニールが、ふいに「そうだ」と声をあげた。

「お前の友が、お前の婚約者と共に、音楽室の方へ向かうのを見たぞ」

 急な話題転換に、フィオナはキョトンとした。

「? ジェマとミックが、ですか?」

「ああ。確か、そんな名だったな」

 興味なさげにそれだけ言うと、ニールは今度こそ、その場を去って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。

しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。 全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。 しかも、王妃も父親も助けてはくれない。 だから、私は……。

【完結】ずっと大好きでした。

猫石
恋愛
私、クローディア・ナジェリィは婚約者がいる。 それは、学年一モテると持て囃されているサローイン・レダン様。 10歳の時に婚約者になり、それから少しづつ愛を育んできた。 少なくとも私はそのつもりだった。 でも彼は違った。 運命の人と結婚したい、と、婚約の保留を申し出たのだ。 あなたの瞳には私が映らなくて、悲しくて、寂しくて、辛い。 だから、私は賭けに出た。 運命の人が、あなたかどうか、知るために。 ★息抜き作品です ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 小説家になろう様にも投稿しています なろうさんにて 日別総合ランキング3位 日別恋愛ランキング3位 ありがとうございますm(*_ _)m

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

処理中です...