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第7章 海中宮殿と新たな試練

7-13 第4、最終ステージ 後編

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「どうなったんだ、一体……」
「黒煙で周りが見えないわね。だけどみんな今は守護雷神の庇護ドームの中にいるから、私は聖女の慈愛とドームに集中するわ」
「…………まだ、だと思う」

 ミミリの言うとおりだった。

「うう、うあああああ……」

 骸骨騎士を尚突き動かすのは、使命か定めか責任感か……。
 客観的に捉えても、ミミリの錬成アイテムの勝利に見える。
 ただ、骸骨騎士は諦めていない。
 最期のその時まで、剣を振るうつもりだ。今は剣を杖に、身体を奮い起こしている。
 だがしかし、防具は総て消し炭に。
 その身に残るのは、骸骨と、たった一本の鞘の無い剣のみ。
 よたり、よたりと、近づいてくる。

「俺の力で楽にしてあげるならしてあげたいけど、打撃も斬撃も効かないんじゃどうにもならない」

 ーー骸骨騎士はゴースト系。アルヒの家で読んだ本に書いてあった内容が本物なら、苦しまず逝かせてあげられるかもしれない。

「今ね、考えてたの。どうしたら苦しまないかなって。失敗したら、戦闘は最初から。それでも、試してみていいかな?」

 ミミリは、2人に問う。

「もちろんよ」「もちろんだよ」
「ありがとう」

 ミミリはドームから一歩ずつ歩み始めた。
 もちろん、警戒は怠らない。そのための、【ピギーウルフのセットアップワンピース】だ。

「骸骨騎士さん、私、貴方のことを尊敬します。最初から最期まで、任務を全うしようという信念。貴方に、私からの最大の敬意を表します」

 ミミリは、【マジックバッグ】の中から錬成アイテムを出した。それは、小瓶に入った液体状のアイテム。ミミリはそれを、骸骨騎士に振り撒いた。


【フロレンスの傷薬 体力・MP回復(強)特殊効果:効能がよければ不治の病にも効果あり】


「今私が作れる最高の回復薬です。どうか、上手くいきますように。どうか、安らかに……」

 ミミリは目を閉じて、祈りを捧げた。

「あり……がとう……」

 骸骨騎士は、まるで笑みを浮かべたかのように見え、そして、粉々に砕け散った。

 ーーカラン……。

 その場に残るは、骸骨騎士の剣。
 剣もきっと、最期まで一緒にいられて、本望だろう。

「ミミリ、どういうこと?」
「あのね、ゴースト系のモンスターは、瀕死になった場合、聖なる力で昇天するって、アルヒの家にあった本で読んだことがあるの。著者までは、覚えていないけれど。もしかしたら、安らかに眠って欲しいと願って綴ったのは、スズツリー=ソウタさんかもしれないね」
「そうなのか……」

 ミミリは、骸骨騎士の剣を拾う。

「ゼラくん、貰ってあげて。私たちが、骸骨騎士さんの意思を継ごう。審判の関所で出会った、カラクリパペットの意思を継いだように」
「そうだな……。ありがたく頂戴します。大事に使いますから」

 ゼラは天を仰いで剣を掲げた。


 ーーポロン!
『全ステージクリア、おめでとうございます。
 
 骸骨騎士もさぞ喜んでいるでしょう。

 ご主人様からの命を立派に果たせたのですから。

 ミミリ、私からもお礼を申し上げます。

 安らかに送ってくれて、ありがとうございました』

「こちらこそありがとう。あれで、よかったんだよね。……そう、思うことにする」


 ーーポロン!
『全ステージをクリアした貴方がたには、特典があります。

 ご主人様からの、レシピとアイテムです。

 どうぞ、お受け取りください』

 ポロンがそう言うと、目の前に古びた木箱が現れた。ミミリは木箱をそうっと開ける。

 ーーギイィィィィ。

 ミミリは、
 ・【アンティーク・オイル】のレシピ(注意、不足アイテム不明)
 ・『時空を越える貴方へ』
 ・スズツリー=ソウタの冊子
 《錬金素材アイテム》
 ・人魚姫の涙
 ・瞑想の湖の結晶
 ・【しずく草の原液】
 ・魅惑のスパイス(虹色)
 ・【フロレンスの回復薬】
 を手に入れた。

「やったわね! ミミリ! ついにここまで……ついに……」

 うさみは、涙が止まらない。
 ゼラはうさみを抱き上げ、背中をトントンとさする。

「本当だな。今回、俺は全く役に立たなかった。ここまでこれたのは、2人のおかげだよ。特にミミリ。卒業、おめでとう。俺はミミリのことを、一人前の錬金術士だと思うよ」
『そうですね、おめでとうございます、ミミリ』

 ミミリはみんなを見て少しだけ悲しげに微笑んだ。

「ありがとう。でも、前にも言ったけれど、全ての目標を達成したら、一人前になれると思ってるの。それは、変わらないかな。ただ……」

 ミミリは、古びた木箱の中身をまじまじと見ながら呟いた。

「やっぱり、そうだったんだ。私もね、【フロレンスの回復薬】を作った時に、これに何かを足せば【アンティーク・オイル】になると思ったの。ソウタさんも、わかったのはここまでだったんだ……」
「ミミリ……」

 ミミリは、「うん!」と言って、前を向く。

「これから、新大陸に行くもんね。そこでまた、何かの手がかりを得るかもしれない。諦めずに、頑張らなきゃ。きっとどこかに、答えはあるはず」
「そうね」
「それでこそミミリだ。かっこいいよ」
「えへへ。ありがとう」

 ミミリはスズツリー=ソウタの冊子を取った。
 試しに、パラパラ……とめくってみる。

「大変……! これは……ただのメモ書きなんかじゃない。ソウタさんの、秘密と、半生が綴ってあるよ。ここを脱出したら、みんなで読もう。アスワンさんも、待ってくれてるだろうし」

 ーーポロン!
『そうですね。

 ミミリ、うさみ、そしてゼラ。

 お別れの時間です。

 私も、骸骨騎士同様、ここでの任務を終えました。

 あとは、消えゆくのみです。

 貴方たちに、出会えてよかった。

 私の生命に、意味を見出してくれて、ありがとうございます……』

「そんな……消えちゃうの?」
『ええ、役目は、終えましたから』
「アンタに、そういう湿っぽいの似合わないわよ! どうにかならないわけ?」
『私には使命がありませんから。無事に、使命を果たせましたから』

「じゃあ、私がポロンちゃんへ使命を託すね」

 ーーポロン!
『使命、ですか?』

「うん。私もね、今までの冒険、書き留めて本にしてきたの。『見習い錬金術士ミミリの冒険の記録』っていうんだけど。試しに練金釜で錬成したら、複製できちゃって。ははは。0か100かの賭けだったんだけどね」
『ミミリ……』
「私はね、思うの。錬金術は、受け継がれていくべき。だからね、どの本にも末筆に、『私の冒険の記録が、貴方のお役に立てますように』って書いてるの。ソウタさんもなんだよ? ソウタさんは、『願わくば、錬金術の知識が後世へ語り継がれることを祈って』って必ず書いてるの」

 うさみは、泣いたままミミリたちの話を聞いている。ミミリの優しさに、涙がとめどなく流れてくる。

「ポロンちゃんに託します。未来の冒険者、未来の錬金術士が現れたら、試験をして、合格したら、本を渡してあげてください。骸骨騎士さんはもう、いないけれど……。後世の錬金術士や、後世の冒険者さんにふさわしい試練を考えて試験をしてあげてほしいの。お願い、できますか?」

 ーーポロン!
『その命、確かに承りました。

 ありがとうミミリ、ありがとう……。

 私に生命をくれて、ありがとう……』

「お別れは悲しいけれど、お互いの目標のために、頑張ろうね、ポロンちゃん」
『はい、私の総てを懸けてその命、達成いたします』

「じゃあ、帰ろう。アスワンさんが待つ海中へ」
「そう……だな……」
「ゼラくん泣いてるの? 泣かないでよ~。うさみまで……」
「ミミりん、私、優しいミミりんが大好きよ」
「私もだよ。うさみ。でも……忘れてるよね? うさみ」
「何を?」
「はい、これ」

 ミミリはうさみとゼラに【酸素山菜ボンベ】を手渡した。

「そ、そそそそそそそうだったわ! 私、ぺっしゃんべっしゃんの濡れうさぎになっちゃうかもしれないわ。ひえええええええええ」
『それもそれで、一興ですよ、うさみ姉様』
「ひやああああああああああ」

 うさみの苦悩は続く。


 果たして、スズツリー=ソウタの冊子にはどんな秘密が待ち構えているのか。
 それを知るのは、ほんの少しだけ、先の話。




 
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