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第7章 海中宮殿と新たな試練
7-7 大蛇討伐ミッション 前編
しおりを挟む「ゼラくんっ! 【七色のメガネ】をっ! 私もつけてみる」
「ありがとう。そうしてくれ。うさみに合ったサイズはないから、うさみは気合いでなんとかなるよな?」
「もちろんよ! 私が逆に魅了してやるわよっ」
「(効果ないんじゃ、とは命が惜しくて言えないけど)うさみ、その意気だ!」
正直、大蛇が魅了を使うかもわからない。けれど、蛇頭のメデューサがそうであった以上、可能性は否定できない。
「うさみたちはドームの中へ。とりあえず俺が闘ってみるから」
「はい……! でも、盾になろうとはしないでね」
うさみはすかさず魔法をかける。
「守護雷神の庇護! 剣聖の逆鱗! 聖女の慈愛! ふぅ、トリプル展開はキツいわ。でも、守ってみせる。この私が」
うさみたちはドームの中でその時を待つ。ーーゼラがチャンスを作ってくれる、その時を。
大蛇は地を這いながら剣聖の逆鱗で敵対心を一身に受けるゼラのもとへやってくる。
「地這い大蛇か……!」
恐ろしいスピードでやってくる大蛇も、経験値を積んだゼラにとって避けることは容易い。
しかし、ただ避けたのではミミリたちの方へ照準を変えかねない。
ーーギリギリを攻めるんだ。攻撃も、回避も!
ゼラは飲み込まれる瞬間まで接近し、背面跳びをしながら短剣で一太刀入れる。
ーーギィン!
短剣は弾かれ、下手したら短剣が欠けたかもしれないような嫌な音が響き渡った。
「チッ、硬てぇ!浅くしか入れられない。救いは、このステージに松明が灯っていることくらいか」
視界は良好。スピードも負けてはいない。
ただ、全身全霊で気を引かなければ、ミミリたちのところへと向かってしまう。
「【ナイフ】! 蒼の刃広斧だ!」
……仕方ネェなぁ。使いナァ!
「ぐっ……! いくぞ! 霜柱ぁ!」
ゼラは霜焼けの手を我慢しながら、地面に斧を振り下ろした。
ーーズガガガガガガ……!
勢いよく地面から鋭い霜柱が杭のように現れ、大蛇を襲う。
ーーしかしーー、
大蛇は軟体な身体を活かしてしゅるりしゅるりと避けていく。
「やばいな、これじゃ! 短剣も通らない、霜柱もダメだった。ーーならば!」
ーー直接、斧で叩き切るしかないじゃねえか!
「ゼラくん……うさみ」
ゼラのことも、隣で魔力全開で闘っているうさみのことも心配で。ミミリだけが何もできず、手をこまねいている。
「キツく……なってきたわ。せめて、植物があれば、しがらみの楔でヤツの動きを止められるかもしれないのに……」
うさみはそろそろ限界だ。
うさみの言うとおり、周りを見渡しても何もない。
「足止め……植物……そうだ!」
ミミリはしゃがみこみ、【マジックバッグ】をゴソゴソし始める。そして、大蛇から少し離れた場所へ、伐採した木材を投げた。
「えーいっ!」
それは、教会を建て直す際に必要だった木材の余りだった。非力なミミリはポンポンと木材を投げていく。
すると大蛇はミミリの方へと照準を変えた。
「シャアアアアア!」
「そうはさせないッ!」
ゼラはすかさず、動きゆく地這い大蛇の背を直に斧で叩き切った。
ーーギィン!
「ギュアアアアアアアア!」
やはり、短剣よりは深く切れるようだ。しかしこれは諸刃の剣。霜膨れになりつつあるゼラの手のひらからは血がにじみでている。
「痛ッ……。でもミミリたちのところへは行かせねえからな!」
ミミリは、ゼラが敵対心を集めてくれている間に、充分な木材をそこかしこに放ることができた。
「ミミりん、さすがだわ。でも、何かの魔法を解かないと、しがらみの楔まで展開できなそうよ」
「この守護雷神の庇護を解いて。私自身も、うさみのことも。なんとか守ってみせるから」
見ればミミリは、アザレアに寄付した【一角牛の暴れ革】を加工して作った革の胸当てを装備していた。そして手には【絶縁の軍手】に、雷のロッドを持っている。
「ミミリの気持ち、受け取ったわ。でもそのまま、やられる気はないから! 私だって! ……いくわよ! ゼラ! ミミリ!」
「おう!」 「うん!」
うさみは大きく右手を挙げる。
「守護雷神の庇護、解除……。かーらーのー! しがらみの楔!」
大蛇の四方八方に散りばめられた木材の表面を突き破って、緑色の蔦がにゅるりにゅるりと出てくる。大蛇は右往左往しながらこれらを避けるも、全方位からくる蔦は避けようがない。
「ギュアアアアアアアア!」
大蛇はついに、縛り上げられ、動きが止まる。
「ゼラくん!」
「さすがミミうさコンビだな!」
「いくぞ相棒! 紅の刃広斧だ!」
……オラッ! 使え相棒!
「うおおおおおお! 紅柱ぁぁ!」
ゼラが振り下ろした斧から、立ち昇る火柱。
大蛇は全身を反り上げて、火柱に炙られた。
「漸くね……」
黒煙が消え、視界が明白になってきた頃、丸焦げになった大蛇を見て、うさみは魔法を解除する。
「うさみ! まだだよ!」
ミミリの声とともに、うさみは宙に舞い上がった。
「えっ?」
大蛇から、危うく喰われそうだったうさみ。
ーー窮地を救ったのは、ミミリだった。
「う……、く……」
「い、いやよ……こんなの、いや」
うさみは激しく動揺する。
うさみの綿が、ミミリの右肘から流れる血で湿ってゆくのだ。地面にも、ミミリの血が、パタリ、ポタリと滴ってゆく。
「ミミリ! クソッ、俺がもっとしっかりしていれば……!」
「痛い……けど、大丈夫だよ、このくらい」
ミミリは自ら出した【ひだまりの薬湯】を飲んだ。
「くっうううう……」
自然治癒に反して、傷が塞がろうとする痛みがミミリを襲う。傷口は、シュウウウウウと音を上げながら、なんとか塞がった。
「もう、大丈夫だから」
ミミリはうさみを撫でて、気丈に振る舞ってみせる。
「でも、どういうことなの⁉︎ 大蛇は?」
「嘘……だろ……」
ーー丸焦げになった大蛇は、抜け殻だった。
「だ、脱皮したのか……! ゴメンミミリ! 俺が過信して……!」
「誰のせいでもないよ。それに、ゼラくんはいつもこのくらい怪我してるじゃない。今日だって。だから私も、一緒」
脱皮をして、心身ともに真新しくなった大蛇は、いつ喰わんかと、こちらを品定めするように目をギョロリと向けている。
ミミリは、雷のロッドをギュッと握った。
「さぁみんな、仕切り直しだよ! みんなで倒そう……!」
「そうね」
「……うん、もうミミリに傷は負わせない……」
大蛇との、第2ラウンドの、開幕であるーー。
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