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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-24 14人編成パーティーとフロアボス
しおりを挟む結局、アザレアからアンスリウム山を越えるのは総勢14人となった。
ミミリ、うさみ、ゼラ。
バルディ、ローデ。
ガウリ、ガウル、コブシ、デイジー。
デュラン、トレニア。
他、教会へ行く子どもたち3人。
正直、人数が多ければ多いほど行程は難易度を増す。行動にも時間がかかるし、なんといっても問題はモンスターだ。
14人のうち、B級冒険者は3人、C級冒険者が3人(酔拳闘士デイジー含む)の計6人のためなんとかなるだろうとは思っているところだが、全く戦闘経験がない者を守りながら冒険をするというのはかなり難易度が上がる。
実際うさみは、防御魔法にかかりきりで戦力度外視となるだろう。
◆ ◆ ◆
「探索魔法により感知! 色はピンクよ! パープルの1つ手前ね!」
アザレアの森の中、うさみのかけ声で、予定どおり非戦闘員は一箇所に集まる。非戦闘員の中でもガウリ、ガウルは子どもたちの前に立ち、盾になるつもりだ。そしてその前面に戦闘員のコブシがサポートに入る。
「――守護神の庇護! 剣聖の逆鱗!」
保護ドームが非戦闘員を囲む。
「キイエエエエエエエエエ!」
「ひええええええええええ! おえぇっ!」
モンスターは、ほろよいハニーだった。
モンスターに次いで叫んだのはうさみ。大の虫嫌いが発動した。
うさみの支援魔法、剣聖の逆鱗による効果で敵対心を一身に受けるゼラは、迫り来るほろよいハニーのお尻から突き出た針をヒラリと避け、4枚の羽根の中央、オレンジと黒の2色の背に雷属性を帯びた一太刀を浴びせた。【水魚の短剣】の威力が凄まじいのか、一太刀で決着はついた。
「キイエエエエエエ!」
――シュッ!
「行けっ!」
もう一体へも、バルディがすかさず【水魚の矢】を放ち、モンスターの片羽をもぐ。そこを狙い打ったのはミミリだ。
「えーい!」
雷のロッドでほろよいハニーをボカッとひと叩き。ほろよいハニーは感電してその場へパタリと落ちた。
ミミリたちは、ドロップアイテム
・ほろよいハニーの針
・ほろよいハニーの小瓶
を手に入れた。
「す、すごいですね、ミミリさんたち」
ローデは子どもたちを抱きしめながら呆気に取られた。見事な連携プレイで、あっという間に窮地を脱したからだ。
「すごいのはバルディさんですよ!」
「え? 俺?」
「覚えてますか? 一緒に初めて採集に行った日のことを。その時と今、動きが違いましたよ!」
と、ベタ褒めしたのはゼラだ。
「たしかに、強くなったかもしれないな……」
バルディは今の自分を噛み締めてギュッと拳を握る。
バルディはあの日なにもできなくて、「役立たずの護衛」として、自己嫌悪に陥っていたのを思い出した。
でも今いい動きができたのは、絶対に守りたい存在のローデ、そして愛しい弟妹が後ろにいるせいかもしれない。
バルディの活躍を見て、デイジーはため息をつく。
「はぁ。すごいですよバルディさんは。私なんて、呑まなきゃ戦えませんもん。呑んじゃおうかなぁ」
「「「「「「「「「だめ」」」」」」」」」
「ひえ~」
まさか子どもたちにまで否定されると思わなかったデイジーは、軽く傷ついた。
「はぁ。取り柄が欲しい」
嘆くデイジーに、ミミリは思った。
――デイジーさんだけの取り柄、早く証明しないと……!(例のアレ)
◆ ◆ ◆
瞑想の湖で野営をし、アンスリウム山までやってきた。
「ギュウウウウウウ」
出くわしたのは、一角牛1体だ。
「さすがに遭遇しないなんてことはないか。――うさみ!」
「守護神の庇護! 剣聖の逆鱗!」
パワーとスピードが勝負の一角牛。
コブシに頼らず、アタッカー1人を想定して闘ってみたい……とゼラが考えていたら、なんと最前線にミミリが出ていた。それもいつの間にか、ゼラの【忍者村の黒マント】を着て。
敵対心がゼラに向いているのをいいことに、最前線、しかもゼラに向かってくる直線上にいた。
「ミミッ……」
ミミリはゼラにしーっと人差し指を立ててジェスチャーした。そして、なにかを地面に細工してそそくさとその場を離れたミミリ。
ゼラに迫り来る一角牛。
――ガツッッ!
一角牛が動線上に仕掛けられたなにかを踏んだ途端、――ドカアアアァァァン! と大爆発した。
「うわわわあああ! なんだ⁉︎」
「わぁ! 成功した~」
大爆発のあとは、四方八方に爆弾の殻が飛んできて危ないこと極まりない。自分達も殻を避けなければならないところが難点だった。
「あははは……ちょっとやりすぎちゃったかな」
真っ黒焦げで倒れた一角牛を横目に、仕掛けを分析するミミリ。
ミミリたちは、
《ドロップアイテム》
・一角牛の革
・一角牛の角
・一角牛の肉
を手に入れた。
「んー。もう少し小さい【不要の実の爆弾】でよかったのかも」
「実験してたんかいッ」
ゼラとうさみとバルディ、コブシとデイジーは爆弾娘には慣れっこだが、それ以外のメンツはミミリの行動に驚きを隠せない。
「あのお姉ちゃんすごいね!」
「うん、すごい」
困ったことに、子どもたちの関心をひいてしまったミミリ。
「あれはね、真似したらいけないのよ」
「どうして?」
「あのお姉ちゃんは、爆弾娘だからよ」
ローデとデイジーが子どもたちを諭す傍ら、武器屋のガウルは、テンションが最大級に上がっていた。
「爆弾を売るっていうのもありだな! 爆弾、売ってくれるか嬢ちゃん」
「あははは……これ、時限式なので危ないと思います。まだ試作段階なので」
「そりゃ危ねえや。ガハハハ」
「でも爆発するパイとかなら売れますよ」
「は?」
研究・検証をする、という点について、ミミリとガウルは気が合うようで、アンスリウム山の登山の間、鱗の盾と鱗の鎧で話は尽きなかった。
ミミリを取られてしまった気がするうさみは、仕方なく下僕その1の肩にもたれかかってしょんぼりするのだが、それを羨ましそうに見るローデとデイジー。
みんなそれぞれ自分の気持ちに正直な、自由なパーティーだった。
◆ ◆ ◆
「ここからは、内部ダンジョンへ突入するわ。4階層あるうち、上から3階層はモンスターが出るわ。しかもうち2つはモンスターハウスよ」
ぷるぷる、と子どもたちが震えだした。
それもそうだ。
どれくらいの期間かわからないが、これまでここに捉えられていたんだから。
「でもね、今日は多分ラッキーよ」
心配いらないわよ、とウインクするうさみ。
うさみの探索魔法と勘が正しければ、例のあの人がボスモンスターに就任している。
「でもま、気を引き締めて行きましょう」
ミミリたちは緊張しながらも、階段を降りると……いきなり、フロアボスモンスターと遭遇した。
しかも出会い頭に倒れるほどに、お腹を空かせたフロアボスモンスターと。
「……ご飯を……くだ……さい……」
レアキャラの迷い子であり、鬼神の大剣使いヒナタはまた迷子になっていたらしい。
「ご飯をくだされば……先へ進めます……」
なんとも頼りないフロアボス。
一同はここで休憩することとし、先ほどの一角牛で焼き肉パーティーをするのだった。
「御恩はいつかお返ししますねぇ~」
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