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第6章 川下の町と虹色の人魚

6-23 さんかんお……モゴモゴ

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「……というわけでガウルさん、一緒に来てくださいっ!」
「鱗の盾に、鱗の鎧かぁ。腕がなるぜっ!」
「……じゃあ……」
「一緒に行こうじゃねぇかぁ」
「良かったぁ」

 いい返事をもらい、上機嫌で武器屋虎の威を出るミミリたち。

 いよいよとの交渉だ。

 準備は万全なはずだ。
 バルディが仕事があるからと、コブシにデュランとトレニアの身分証の発行手続きの代理を依頼したのだ。
 コブシがいたのでは、何を言われるかわからない。きっと止められるはずだ。
 一番の邪魔者コブシ(ひどい……)の足止めの成功に、胸を躍らせるミミリ。

 「研究」やら「錬成」やらが絡む時のミミリは割と悪どい子なのである。まぁ、元を正せばうさみの提案なのだが。

 ――そして。
 三冠王デイジー(酒乱、泣き上戸、毒舌)を居酒屋食堂ねこまるに呼び出し、準備万端! 今回のメインは、先日の蛇酒についての検証だからだ。

 ――それは、蛇酒を飲んだデイジーに毒づかれた人だけ、本物の毒への耐性がつくのかどうか、という検証だ。
 事実、デイジーに毒づかれたゼラとバルディは毒の耐性がついたのだ。これが仮説ではなく事実なら、大きな発見になる。

 いろいろ試してみなければならない。
 他の人が蛇酒を飲んで毒づいても効果はあるのか。それとも三冠王だけの特性なのか。
 
 この実験については、サハギンの王将に話をつけてあるため、川下の町についたらポイズンサハギンで検証させてもらうことになっている。もちろん、王将の管理下のもと。
 ターゲットは、うさみイチオシの下僕その2のコブシだ(ひどい……)。


 そんなこんなで、居酒屋食堂ねこまるに到着し、ノックをして扉を開ける。

「おー! いらっしゃい嬢ちゃんたち~」
「こんにちは、ガウリさん」

 川下の町ではガウレと過ごし、武器屋ではガウルと過ごし、今はガウリなので脳内が混乱するが、それぞれ個性が違うので十人十色だなぁなんて思ったりする。

「こんにちは~。ミミリちゃんたち」
「こんにちは、さんかんお……モゴモゴ……じゃなくてデイジーさん」

 ミミリは危なく隠語を喋ってしまいそうになり、ゼラとうさみに口止めされた。

「――コホン。実はですね、新しいお酒の提案がありまして」
「なにぃっ?」 「なんですって」

 2人の食い付きは異様にいい。ミミリは、川下の町でディーテを釣り上げた時のような気分になる。

 ――2人が(餌に)かかった……!

「親しくなったサハギンさんから、ヒレをもらえることになりまして。ヒレ酒なんてどうかなぁって」
「ヒレ酒かぁ」
「いいですね」
「ほんとですか! よかった! 護衛しますので、ぜひ川下の町に来て欲しいんです」

 ガウリは腕を組み豪快に笑う。

「ガハハハ。それにしてもモンスターと親しくなるなんてなぁ。嬢ちゃんらしいな。
 それに、たまには外出するのも悪かねぇな。
 でも、護衛ってどういうことだ?」
「私たち、B級冒険者になったんです」
「はぁ?」
「うさみちゃんも、ゼラもか?」
「はい」 「そうよん」

 ガウリとデイジーは、はぁ~っとため息をついた。

「お嬢ちゃんたちは自分達がどれほどすごいことをやらかしているのか一度考えた方がいいぞ」
「飛び級ってそんなにすごいことなんですか」
「あぁ、滅多にない」
「へええぇぇ」

 ――いかにも興味がなさそうな返答にガクッとするガウリ。
 まぁ、ミミリたちが飛び級を自慢してこようものならそれはそれで違う気がするので、いいのかもしれない。

 褒めてもらって嬉しいながらも、ミミリは余計に頭の中が大騒ぎになってしまった。

 ――飛び級よりも、これから川下の町で実験する方が、よほどすごいことをやらかしちゃう気がするし……。

 ミミリの心のザワザワはおさまらない。

「じゃあ、お近づきの印にアザレアの銘酒フェニックスでも持っていくかぁ」
「あ、あと、蛇酒もお願いします! お礼に途中で汲んできた『酒の名水』もガウリさんが都合の良い時にお渡ししますね! 作業前じゃないと劣化してしまうので」
「ありがとうな!」

 デイジーはただ話を聞いていただけだったが、ふと疑問を始めて口にする。

「ガウリさんが行くのはわかりますけど、どうして私まで?」
「ええっと……」

 言葉を詰まらせたミミリにすかさず、

「やぁね、デイジーの冒険者ギルドへの復帰祝いよ」

 とうさみがフォローした。

「うさみちゃん……ありがとうございます。なにからなにまで……」

 デイジーの、屈託のない笑顔。
 ゼラは思った。

 ――り、良心が痛む……。

 ゼラはここへ来て、良心が傷みすぎて一言も喋らない……のではなく、喋れなくなってしまった。
 なぜなら、デイジーが蛇酒を飲んだ時に毒づかれたことが原因で毒耐性がついたのかも……だなんて言ったのは他でもないゼラとバルディだからだ。

 ゼラは今、この場にいないバルディを恨めしく思っている。共犯だというのに、この場の空気を味合わないなんて……。

 まぁ、バルディは本当に冒険者ギルドでの仕事があるので仕方ないのだが……。

 ◇

「クシュン!」
「あら、バルディさん、風邪ですか?」
「なんだか悪寒が……」

 国交拡大について、協議中のバルディとローデ。バルディは、まさかゼラに恨めしく思われているとは露知らず、ブルッと身体を震わせた。

「じゃあ、このタイミングで先日蛇頭のメデューサに捕らえられていた子どもたちを教会に連れていくということで」
「そうですね。運良く元の家に帰れた子もいましたし、3人ですね、連れていくのは」
「気をつけて護衛するよ」
「よろしくお願いします」

 バルディは、ふーっとため息をついて意を決する。

「なぁ、ローデ。たまにはローデも外出するか? 余ってるんだろ? 有休も」
「どうしたの、改まって」

 オフモードになり、口調も普段どおりになる2人。2人は幼馴染なのだ。

「いや、ずっと親父につきっきりで街のために尽くしてくれてるからさ。小旅行だと思って、町に行ってみないか? 多分今回の件が終わったら、ミミリちゃんたちはそのまま旅立つことになると思うし。会えるのが最後になってしまうぞ」
「そうね。たまには……お休みいただこうかしら」
「ぜひそうしてくれ。ローデのことは、俺が守るから」

 すると、ふわりと微笑むローデ。

 バルディは思う。
 ――凛としていて情に厚く、たまに見せるこういう笑顔が、大好きなんだ。


 かくして、盛りだくさんのイベントが開催されることになった今回の川下の町への外出。

 また三冠王デイジーが波乱を巻き起こすのか、楽しみでならない。


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