見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

文字の大きさ
上 下
178 / 207
第6章 川下の町と虹色の人魚

6-19 お腹いっぱい! もう食べられない! 全員ハッピー!

しおりを挟む

「これを見てください! 私、錬金術でサハギンさんたちにご飯を作ってきました!」
「なに?」

 それは、ミミリが【マジックバッグ】から出した一袋のご飯。お皿の上にカランカランと出してみると、王将の顔つきが明らかに変わった。

「これは……実だ! あの実のにおいがするぞ」
「そうなんです。不要の木の実は、人間にとっては不要なんです。だから、不要の木と呼びます。実も使い道がありません」
「なんということだ」
「あと、サハギンさんたちは、テールワットも食べたりしますよね? ごくんって丸呑みしちゃいますよね?」
「ああ」
「人間は、テールワットを丸呑みしません。可食部だけ食べます。そこで、残った可食部以外と実を錬金術で錬成してご飯にしてみました。……食べてみませんか?」

 王将はゴクリと喉を鳴らし、3本の指でつまんで食べてみた。
 ――口に広がる香ばしい実と、テールワットのジューシーさが加わったこれは……ご馳走だった。

「錬金術士殿、これをいただけないだろうか」

 王将は、喉から手が出そうな勢いで食い気味に言い寄った。ミミリも、もちろんどうぞ、と言いたいところだが今回ばかりはそうもいかない。

「条件があります。まとめてきたので、みんなで見てください」
「ローデさんみたいだな」
「恐縮ですっ」

『タイトル:お腹いっぱい! もう食べられない! みんなハッピー!

①川下の町は、テールワットの狩りをしつつ、不要の木のパトロールをし、実を集め、教会に渡す。
②教会でサハギン用のご飯を作り、川下の町が買い上げる
③川下の町は、サハギンにご飯をあげる。

●条件●
サハギン:人魚との境界線を越えない。川下の町に害をなさない。必要に応じ、高位のサハギンは川下の町の戦力となる。人魚が食べられる海藻や装飾品の貝殻を提供する
人魚:サハギンが食べられる食糧などを提供する。川下の町へは、装飾品となる貝殻などを提供する
川下の町:サハギンのためのご飯にかかわる一切を用意する。そうすることで、サハギンが人魚や人間との境界線を故意に越えなくてもいいようにする』

「これで……どうですか? みんな、持ちつ持たれつでお腹いっぱい! みんなハッピー! っていうコンセプトなんですけれど……。

「サハギンは本件に同意する。なにより、このご飯はとても美味しい」
「人魚も同意しよう」
「川上の町も同意する」

「よかったぁぁ! これで、ケンカしなくて大丈夫っていうことでいいですよね?」
「あぁ。だが一つ、我から訪ねたい。錬金術士殿、どうしてここまで我々の問題に協力的なのだ?」

 ミミリはペロッと舌を出して、少しはにかんで答える。

「本当はディーテから頼まれたからですって言いたいんですけれど、下心があります!」
「下心って……言い方、ミミリ……」
「まぁ、そのとおりなんだからいいじゃない、ゼラ」

 ミミリは、姿勢を正して話し始める。

「私たちは、大事な旅の途中なんです。スズツリー=ソウタという錬金術士につながる書物がここにあると聞いてきました。それに、ディーテの……人魚姫の涙が欲しいんです。大事な家族を助けるために」
「なるほど……そういえば昔、錬金術士が本を置いていったな。宝物庫で埃を被っているだろう。我々には使えない代物だったから、礼に差し上げようではないか」
「――あ、ありがとうございます!」

「それで、ディーテの涙は?」

 とうさみが聞くと、ディーテは

「お別れする時に、涙が出ると思うわ」

 と哀しげに笑うのだった。

 ◆ ◆ ◆

 従者のタツノオトシゴは、ミミリへ宝物庫に眠っていた『治療薬の作りかた~錬金術士版~』という本を渡した。たしかに、年季の入った埃を被ってはいたが、埃は払ってしまえばなんのことはない。

「……ありがとうございます……!」
「よかったな、ミミリ」
「うん!」

 ミミリは少し下を向いて、ギュッと拳を握り質問する。

「あの……魔法使いと護衛騎士さんを知りませんか? 人間の……。あと、【アンティーク・オイル】に聞き覚えはありませんか?」

 王将は首を横に振り、海竜は、ううーんとうなった。

「魔法使い自体が稀有な存在だと聞いておるからの。我々人魚も高位の者であれば海魔法を使えるが、人間の魔法使いは限られたものだけだと聞いたことがある。そして、それを言うなら錬金術士も稀有な存在らしいのう」
「そう……ですか……」

 海竜は口髭をいじりながら上を向いた。

「海……」
「え?」
「海を越えた新たな大陸になら、もしかしたら魔法使いがいるかもしれん。閉鎖的な国家でな。今は国交すら稀のため、船も出ていないと聞くが」
「海を超えた先に、いるかもしれないんですね!」

 ミミリは目を輝かせて喜んだ。海を渡る方法を探せば、両親に会えるかもしれないのだ。

「ミミリ、行ってしまうのね。せっかくお友達になれたのに……」

 ディーテの目から、宝石のように眩い涙がカランカランと落ちてくる。

「ディーテ……」
「せっかくできたお友達。せめてもう少し一緒にいたかったわ」

 カラン、カラン、と涙は落ちる。
 それは、まるで人魚姫の虹色の鱗のような、宝石のような。とても眩い「人魚姫の涙」だった。

 ディーテは涙をこぼしながら、人魚姫の涙をかき集めてミミリに渡した。

「ディーテ、ありがとう。私もお友達になれて、嬉しかった」
「錬金術士殿よ、娘とこんなに仲良くしてくれていたとは。もし、船を用意することができたら、我が大陸まで運んでやろう」
「あ、ありがとうございます」

「錬金術士って不思議ね。昔、スズツリー=ソウタに会った時も思ったけれど、人の心の奥底へ入ってくるような、そんな気がするわ」
「その、スズツリー=ソウタさんってどんな人だったんですか?」
「身長は180センチメートルくらいで、黒髪の短髪ね。ミミリの同じようななんでも入る革のバッグを持っていたわ。とにかく、人のことばかり気にしていたわ。自分のことよりもね」
「ミミリにそっくりね」
「そうかなぁ」

 ――やっとつかんだ、新たな情報。
 スズツリー=ソウタの容姿に、新しい本。
 魔法使いがいるかもしれないという大陸。

「船なら川下の町に使っていない船があるぞ。船は我々川下の町が協力しよう。船乗りもいるだろう?」
「ありがとうございます!」

 王将は、照れ臭そうに話を継ぐ。

「ではその間の町の警護は高位のサハギンに任せてもらおう。話ができる、信頼できる者だけで結成するから心配は無用だ。……その代わり……」
「その代わり……?」
「あのご飯はたんと食べさせてもらおう」

 クスクス、と笑いが広がる会議室。よっぽどご飯を気に入ってくれたようだ。これだけ人気があれば、教会の収入も右肩上がりだろう。

「お腹いっぱい! もう食べられない! みんなハッピー! は、本当にみんながハッピーになれる方法ね!」

 うさみの言葉に、王将は言う。

「それは……誰が命名した作戦名なのだ?」
「ハイッ!」

 ミミリは元気よく手を挙げた。

「そうか、なる……ほど……」
「ふむ。なる……ほど……」

 ――――――――王将、海竜、沈黙。


 王将も海竜も何も言えなくなる中、ディーテだけは、もうちょっとどうにかならないものかしら? と呟いた。

 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

転生チートがマヨビームってなんなのっ?!

児童書・童話
14歳の平凡な看板娘にいきなり“世界を救え”とか無茶ブリすぎない??しかも職業が≪聖女≫で、能力が……≪マヨビーム≫?!神託を受け、連行された神殿で≪マヨビーム≫の文字を見た途端、エマは思い出した。前世の記憶を。そして同時にブチ切れた。「マヨビームでどうやって世界を救えっていうのよ?!!」これはなんだかんだでマヨビーム(マヨビームとか言いつつ、他の調味料もだせる)を大活用しつつ、“世界を救う”旅に出たエマたちの物語。3月中は毎日更新予定!

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

【完結】だるま村へ

長透汐生
児童書・童話
月の光に命を与えられた小さなだるま。 目覚めたのは、町外れのゴミ袋の中だった。 だるまの村が西にあるらしいと知って、だるまは犬のマルタと一緒に村探しの旅に出る。旅が進むにつれ、だるま村の秘密が明らかになっていくが……。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

処理中です...