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第6章 川下の町と虹色の人魚

6-17 いざ! 海底宮殿へ

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「それにしてもミミリの爆弾はすごかったな」
「時限式だったものね」

 ゼラとうさみの横で、ミミリは少し不満げにう~んとうなっている。

「どうしたの? ミミリ」
「もうちょっといけると思ったんだけどなぁ……火力」

「「エ!」」

 ゼラもうさみもミミリの爆弾娘っぷりに驚いて、思わず大声を出してしまった。

「あれで満足してないのか⁉︎」
「遠くから投げて周りの敵を蹴散らすっていう目的で使うなら充分だと思うけど……」

「よし! 悩んでてもしかたない! いつか作るんだ。地面を抉れる爆弾!」

「「エェッ⁉︎ 地面を抉るぅ?」」

 驚くうさみとゼラの横で、ミミリは大きく左右に手を伸ばした。

「ホラ、雷電石らいでんせきの地下空洞であったでしょ? 無理やり抉ったような穴が」
「確かに、あれで偶然、アルヒたちが地下への入り口見つけたって言ってたものね」

 よし! とミミリはガッツポーズをする。

「もっともっと火力上げて地面を抉るにはどうしたらいいんだろう、って考えちゃったけど……。よし! 考えてても仕方ないっ! やるぞ、頑張るぞ~!」

 おー! と言ってミミリは教会へ向かってズンズン歩いて行ってしまった。

 そんなミミリを見て2人は

「ミミリならいつかできちゃいそうだよな」
「ほんとよね」

 と、華奢だが頼もしい背中を見て微笑んだ。

 ◆ ◇ ◇ ◇

「すっごい爆発の音だったなぁ嬢ちゃん」

 一番に声をかけてきたのはガウレだった。
 ガウディに至っては、ミミリを神格化しており、遠くから見守るようにしているだけで近づいてきもしない。

 ガウレのほうも、順調に教会は完成しつつあった。教会の外装が出来上がっており、後は内装に取り掛かろうというところ。
 
「ガウレさんもさすがですね」
「ちびっ子弟子たちがいい動きするからな」

 と言われて、二ヒヒッと微笑む子どもたち。

「じゃあ、私も屋根の上に登っていいですか? やりたいことがあって」
「あぁ?」

 驚くガウレに、

「いや、ちょっと待て待て、何をしたいんだミミリ⁉︎」

 急いで止めに入るゼラ。

「え? どうしたのゼラくん」

 ミミリはすでに梯子を登り始めていた。
 危なく、角度的にみんなに下着が見えてしまうところをナイスタイミングでゼラが止めた。

「はぁ、あぶねぇ。屋根の上だったら、俺がジャンプできるだろ? 何したいんだ?」
「ああ? ゼラは屋根にジャンプできるだって?」
「はい、多分ミミリの錬成アイテムの手助けなしでいけると思います」

 はぁ、と大きくため息をつくガウレ。頷くバルディとコブシ。

「なぁ、この嬢ちゃんたち実はすごいヤツらなんじゃねぇのか」
「はい、ホント、そう思います」
「――本当に……」

 特に、妹を助けてもらったコブシは身にしみてミミリたちのすごさがわかっているうえに、頭が上がらない思いだ。

 ◇

「じゃあ、ゼラくん。バケツ3杯分だから3往復だけどよろしくねっ!」
「了解!」

 ゼラは身体の中に巡る魔力MPを足に集め瞬時に飛び上がった。手には、ミミリから預かったバケツを持っている。屋根に登るのが大変というよりは、水をこぼさないようにすることのほうが大変だった。

「まんべんなく、上からかけてね~!」
「お~!」

 ゼラはミミリの言うとおり、屋根の上から液体を教会にかけていく。液体は、木々に染み込んで馴染んでいくようだ。

「あれは何してるんだ?」
「あれは、大賢者の涙の成分を含む川から汲んできた水なんです。この小屋と同じで、モンスターが忌避する成分を教会に馴染ませてるんですよ。3杯分程度で充分だと思います」

「まぁ……そのように教会のことを考えてくださって、ありがとうございますミミリ」

 感極まって、涙を流しそうになるシスターに照れながらミミリは答える。

「えへへ。この間ピギーウルフも出たし、これなら心配ないかなって」
「ありがとうございます」

 一部始終を見ていたディーテは、ミミリたちのすごさを目の当たりにして驚いている。

「人間ってすごいのね……」

 人間に助けを求めたくて自ら釣られたわけなのだが、釣られた相手がよくて運が良かったとしか言わざるを得ない。

「それに、……錬金術士もすごいわ。スズツリー=ソウタも、ミミリも……」

 ◇ ◇ ◇

 一晩経ち、人魚の海底宮殿に行く時が来た。
 ミミリたちは、教会のみんなに一旦の別れを告げ、ディーテを釣った場所、川下の町にやってきていた。

 ――ガタガタガタガタ……!

 先程から、うさみの震えが止まらない。
 うさみは大きなビニール袋に入れてもらって、【酸素山菜ボンベ】を持ち、袋の中でガタガタ震えている。さらに守護神の庇護で自身を包み、イルカの背に乗るのではなく、ゼラに引っ張っていってもらう予定だ。

「ゼッ、ゼラ~。よろしくね。私はアンタに生命預けたから」
「大丈夫! でも、もし戦闘になったらちょっと動きづらいかもなぁ」

 ディーテは、まさか本当にビニール袋に入るとは思わず、クスクスと笑っている。

「ねぇ、可愛すぎるんだけど、本当にそれで行くの?」

 両足を既に海に入れているディーテは、すっかり艶やかで美しい人魚の姿だ。

「それにみんなも。服装、そのままだと重たいと思うわよ?」
「そっか! 水着着なきゃいけなかったんだ」

 ――水着チャンス……!

 ゼラの煩悩が膨れ上がる。

「ふふっ! でも私がいればうさみがビニール袋に入らなくても大丈夫よ。水着でなくてもね。

 ――かの者たちに加護を与えよ、水の女神、アフロディーテ!」

 ディーテは海魔法を唱えた。
 ディーテの魔法は、うさみの聖女の慈愛に似ていた。身体中が、薄い保護膜で包まれるような感覚。まるで身体が見えないシャボン玉でピタリと覆われている気分だった。

「これなら、今の服装でも大丈夫よ」
「ありがとう! ディーテ」

 ――ミミリの水着姿見たかった……。
 と、ガックリと肩を落としたゼラの手の袋の中で、カサカサと袋をかきむしるうさみ。

「出して~! もう濡れても平気なんでしょ? 出してゼラ~!」

 カサカサカサカサ……!

「カサカサしてて、なんか可愛いなうさみ。虫みたいだ」
「わーんミミリ~! ゼラがひどいこと言う~!」
「ゼラくんイジワルしたらダメだよ?」

 ミミリはうさみを袋の中から抱き上げた。

「わーん。ミミりーん、ゼラがイジワルするのよ~」
「うーん。でも私も、うさみが可愛かったから、ゼラくんの気持ちちょっとわかっちゃうかも。
 それにしても、うさみ、初めてだね! 自分から水の中に入るの」
「緊張するわ! こわいわ! でも楽しみでもあるわ~!」

 錬金術士代表、ミミリ、うさみ、ゼラ。
 川下の町代表、サザンカ。

 それぞれが【酸素山菜ボンベ】を持ち海に浸かり、ペアとなるイルカに挨拶する。
 イルカは、

「キュイッ」

 と答えてくれた。

「キャーキャー! 濡れるわ! こわいわ! ……と思ったけど、綿が、毛がッ! 濡れないわ~!」
「保護膜のおかげですごくあったかいし、お風呂に入ってるみたいね」
「ほんとだな。うさみ、しっかり俺の背を掴むんだぞ?」
「離さないわー!」

 なんだかんだと言いながらも、イルカではなくゼラの背に掴まることにしたうさみ。
 今、うさみのテンションは最高潮だ。
 アンスリウム山の秘湯でもさみしそうに(?)下僕2人とバカンスをしていたうさみの感動はひとしお。キャッキャッキャッキャと騒いでいる。

 うさみの愛らしさに目を細めながら、ここでミミリから説明が入る。

「みんな、【酸素山菜ボンベ】は咥えているだけで酸素が出ますからね! 耐久時間は一時間。帰りの分はまたお渡し出来ますので安心して使ってください!」

 ディーテは、長い髪を耳にかけて、美しい虹の鱗の尾びれを艶かしく揺蕩たゆたわせてから全員に告げる。

「さあ! 行きましょう! 海底宮殿へ!」

 尾びれから跳ねた水飛沫で弧を描いて、海の中へ潜っていった。

 ボンベを咥えて、イルカの背に乗り、ミミリたちも海の中へ潜った。


 ――さぁ、いざ! 海底宮殿へ!


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