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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-4 カタツムリのお引越し
しおりを挟む「じゃあ俺らは、教会に行って戻ってくるから」
バルディとコブシは、馬を駆って一度教会へ向かった。
早くポイズンサハギンが掃討されたことを教えてあげないと、子どもたちもシスターも不安がってしまう。なにより、バルディが愛しい弟妹に会いたいのだ。
バルディたちを見送った後、サザンカは神妙な面持ちでミミリに尋ねた。
「ところで、ミミリ、と呼んでいいかな」
「はい、もちろんです」
相変わらず礼儀正しいサザンカ。
年齢は20代後半くらいだろうか。コブシと同年代くらいに見える。
「この度掃討に協力いただいた対価は、なにがお望みだろうか。やはりエニー(お金)か」
エニー、という単語を聞いてうさみがピョンッとミミリの肩に乗った。
「私たち、情報が欲しいんです!」
「情報?」
「(エニーも,欲しいわ ※うさみの心の声)」
「はい! うさみみたいな人間の魔法使いと護衛騎士、あとはスズツリ=ソウタという人……それか、【アンティーク・オイル】っていう秘宝みたいなもの、知りませんか?」
「うむ……申し訳ないが、力になれそうにない」
「そう……ですか。そしたら、メリアの花が欲しいです。【解毒剤】もっと作りたくて」
サザンカは、ミミリたちの欲の無さに目をパチクリする。メリアの花のみでは、街を上げて掃討作戦に協力してくれたアザレアに面目が立たないというもの。これについては、バルディと話を詰めるべきだったとサザンカは後悔した。
「メリアの花なら、自由に採って行ってくれ」
「ありがとうございます」
ミミリは嬉しそうに駆けて行った。
うさみは、ミミリからゼラの肩に乗り換え、サザンカに質問する。
「ねぇ、ポイズンサハギンがわいた理由、調査するんでしょ? グリーンドラゴンも。それとも、定期的によくあることなの? ……それにしては、備えが少ないわよね」
「うさみ、と呼んでいいかな。ご指摘のとおりだ。ポイズンサハギンは、たまに出没する程度で船乗りが複数人で討伐する程度で済んでいたんだ。今回のように、一斉に出没したり、ボスモンスターが指揮を取った事例なんてないんだ」
「なる、ほどね……」
「となると調査が必要ですね……」
サザンカは、砂浜から続く大海原を見て目を細めた。
「心当たりは、なくはないんだ」
「え? そうなの?」
「最近、海が荒れているんだ。もちろん、今までにも全く荒れなかったことなんてない。しかし、荒れ続きすぎるんだ。お陰で船乗りの仕事はあがったりだよ」
「原因はあるんですか……?」
「それは……」
◆ ◆ ◆ ◆
「お姉ちゃん、メリアの花摘んでいるの?」
5歳くらいの、小さな女の子が話しかけてくれた。どうやら手伝ってくれるらしい。
「ありがとう、手伝ってくれるの?」
「うん! 私を助けてくれた、バルディお兄ちゃんにあげたいの」
「そっかぁ。いいね」
女の子はメリアの花を摘みながら、海を見て哀しげな顔をする。
「どうしたの?」
「海の神様、海竜様が怒ってるんだって、船乗りの父ちゃんが言ってた」
「海竜様?」
「お姉ちゃん知らないの?」
「うん、海を見るのも、初めてなの」
――海竜様……。ライちゃんの友達かなぁ。
プチン、とメリアの花を摘んで、女の子は目に涙をためた。そして目から、ぽたりと涙が地に落ちる。
「大丈夫?」
「……うん。海竜様が怒ってるから、父ちゃんの仕事、無くなっちゃって。このままだと、食べていけないから、冒険者になるかもしれないんだって。私、船乗りの父ちゃんが好きなの。カッコよくて。……それに、よくわからない冒険者は、こわいよ」
「こわい?」
「怪我、しちゃいそうだもん。今回みたいに、ポイズンサハギンが来たら、闘わなきゃいけないんでしょ? 例えば、アザレアにポイズンサハギンが出たら、助けに行かなきゃいけないんでしょ?」
「そうだね……」
「一緒にいれなくなるのは、嫌だよ」
「うん、そうだよね」
「きっと、海の秘宝になにかあったんだよ」
「うん。海竜様が大事にしている秘宝が、海底にあるんだって。絵本で読んだの」
ミミリは、そっと女の子の頭を撫でた。そして【マジックバッグ】の中から、【はちみつぷるんグミ】をお手伝いのご褒美にあげる。
「これ、どうぞ。私が作ったの。甘くて美味しいよ」
「いいの? ありがとう!」
「私も、手伝ってくれてありがとう」
ミミリは、少女を見送った。バルディにあげる花を一輪持って、母親の元に駆けて行く。
「海の神様、海竜様、か……」
ミミリは大シケの海を見て、意味深く呟いた。
◆ ◆ ◆ ◆
「ミミリ、これからどうする? ポイズンサハギンは狩り終わったし、錬金素材アイテムも得た。私たちの任務はこれで一旦はおしまいのはずよ」
うさみもゼラも、ミミリの横顔を見てクスリと笑う。……もう、答えは出ているようだ。
「私、この海の調査をしたい! 原因を突き止めて、ちゃんと漁ができるようにしたいの。だから私、海底に行く!」
「「……えっ、海底⁉︎」」
「うん! だからサザンカさん、この町にしばらく住んでいいですか?」
「ここは私が町長のようなものだ。それは構わないが……。空き家はある。どこから好きな家を選んでくれ」
「あ、それは大丈夫なんです。空き地を貸してください」
「あ、空き地?」
「はい」
サザンカはメリアの花近くの更地を指差した。海からさほど離れていず、町のはずれすぎない、適度な空き地。
「じゃあ、ここお借りします! みんなビックリするよー!」
「??」
うさみとゼラが耳を塞いだので、慌ててサザンカも耳を塞ぐ。
「いっくよー! えーーーーーーいっ」
――ドオオオオオオン!
いつも野営で使う2倍くらいの小屋……じゃない!
――これは――
「な、なんで工房持ってきたんだよ!」
ゼラは思わず突っ込んだ。
うさみは呆れて額に手を当てている。
「今頃アザレアでは大混乱でしょうね」
――そう。ミミリは――。
アザレアから錬成工房を持ってきたのだ。
工房だけではない。屋外のガーデニングなど、いつものカフェスペースも持ってきたのだ。【マジックバッグ】に収納できるモノの概念、容量とは、一体……。
そんなものなどなく、ミミリの魔力の許す限り、自由に出入れすることができるのかもしれない。
――ズザッ。
砂浜に、いつもどおり倒れる音。
うさみは思わず、どうせゼラだろうと思って白けた目でゼラを見た(ひどい)。
――が、ゼラではなかった。
サザンカは、腰を抜かして驚いた。
「錬金術士とは、一体……」
驚くのも無理はない、と,ゼラは思う。自分達だって驚いたのだから。
……だけど……。
「うさみ、コシヌカシたの俺だと思っただろ」
「なんのことかしらね~ん」
気まずそうに目を逸らしたうさみのしっぽは、不自然にふわりぱたりと揺れていた。
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