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第5章 宿敵討伐編
5-5 アンスリウム山の入り口
しおりを挟む瞑想の湖の美少女に別れを告げ、湖を抜けてアンスリウム山に着いた。
ミミリは昨晩、夜通し錬成していたものようなので、野営当番からは外れることとなった。ミミリは申し訳なさから「ごめんなさい」と言っていたが、そこはすかさずゼラがフォローする。
「ミミリはみんなのために錬成してくれたんだから気に病む必要はないし、むしろありがとう!」
「ゼラくん……ありがとう」
何かとやらかしがちなゼラではあるが、こういったさりげないフォローが自然体でできるところが、アザレアマダムを魅了する要因の一つなのかもしれない。
蛇頭のメデューサ対策として、試行錯誤のうえに新たに錬成された【七色のメガネ】。
錬金素材アイテムとして使用した瞑想の湖の庇護膜が、シャボン玉のように反射して七色に見える。これは諸刃の剣で、闇に乗じて援護射撃をするバルディにとっては輝く七色は自身の居場所を示すようなもの。これは、ゼラの【忍者村の黒マント】を纏うことで補うこととした。
一方、ゼラはバルディとは異なり、蛇頭のメデューサの敵対心を一身に受けなければならない。
さすがに、手が霜焼けのままでは闘えないので、ミミリと一緒にうさみに回復魔法、癒しの春風で回復してもらった。
実はミミリから、【絶縁のグローブ】の氷属性版を作ってみたらいいのかもしれない、と提案を受けたがこれ以上ミミリに負担をかけたくなかったゼラは、これを断った。
それに――勘ではあるが微量の魔力を通さなければ技が発動しない以上、凍てつく斧に素手で臨むしかないのではないかとゼラは思案していた。
小細工をしようものなら、斧に認めてもらえない。――そんな気がする。
ミミリたちは今、アンスリウム山の中腹へ差し掛かったところ。コブシ含む先遣隊が一角牛を倒してくれていたのだろう、辺りには一角牛がバタリと倒れていることが多かった。
しかし、いくら高級錬金素材アイテムとはいえ、【マジックバッグ】なしでは荷物になる。泣く泣く置いていったのだろう。
ミミリは一角牛のおこぼれをありがたく、ヒョイヒョイとバッグにしまってゆく。
アンスリウム山の秘湯の先――頂上に着いた頃には、ミミリはほくほく顔だった。
◆
「みんな気をつけて! テールワットがいるわよ!」
「――行けっ!」
――シュッ!
「キュウウウウウウ」
頂上へ着くや否やうさみの声かけよりも少し早く、バルディは矢を放った。矢は見事にテールワットに命中。
テールワットは比較的討伐しやすいため、ミミリお手製の新アイテム【水魚の矢】を使用せず通常の矢を使用した。
規格外の見習い錬金術士のミミリとはいえど、量産はできないために特別な矢の浪費はできない。テールワット程度なら通常の矢で倒し、そしてそれも回収し手入れをして次戦に備える。
――この頃からバルディは思っていた。
ゼラやミミリ、うさみのように属性を扱えたら、矢を使わなくとも、魔力を矢に変換させた擬似矢が撃てるのではないか、と。そうすればコスパがいいし、身軽である。歩くたびにガシャリと音もしないので、夜陰に乗じる射手にとっては効率もいい。
――この戦いが終わったら特訓しよう、とバルディは密かに考えていた。
「キュウ……」
――バタッ! バタバタッ!
バルディの放った矢により。テールワット次々とは頂上に倒れてゆく。
「……? なんだろう、あの、穴みたいなもの」
ミミリの気づきに、うさみは両足をパカっと開いて腕を組んだ。
「ふふ~ん! これで……あの仮説がかなり有力になったわね」
「そうだね」
「ええ。でも良かったわ」
「……なにが?」
「本当に仮説……このアンスリウム山の頂上が川上の街と繋がっていたとして……入口が小さくて良かったわ」
「どうして?」
ミミリが問う。
「だって、モンスターの行き来であちら側とこちら側のの生態系が崩れたり、被害が出たら困るもの。こちら側からはこの穴の大きさから考えるにほろよいハニーが限度よ。あちら側から小型のテールワットが来るようにね」
「たしかにな。テールワットやほろよいハニーなら、D級冒険者の俺でも仕留められるから。一角牛が通れない穴で良かったよ」
バルディは言う。
……けれど、もう一つの心配が……
「ゼラくん、隠れ穴、地下へと続く階段だけれど、大丈夫?」
「………………そうよね、心配ね」
思い出されるのは雷電石の地下空洞へと続く長い長い暗闇の階段。
ミミリたちは、ゼラのトラウマをどうしても気にかけてしまう。
「……今だから言えるけど、正直……こわいよ」
「ゼラくん……」 「「ゼラ……」」
「だけれど……」
ゼラは拳をギュッと握って言う。
「ここは川上の街の近くの森じゃない。あの、木のウロじゃない。あの時みたいに……無力だった俺じゃない……!」
ゼラの決意は、固かった。
ゼラは既に、アンスリウム山の隠れ穴を見据えている。
大人がやっと一人通れる大きさ。やはり、雷電石の地下空洞と似通っている。
今までのゼラであれば、降り行く途中で体調を崩していたに違いない。
しかし、表情を見れば、あの時のゼラではないことがわかる。……手は、少し震えてはいるけれど。
「恥ずかしいけど……手は震える。ははは。情けないけれど。でも、俺は行くよ。これは、俺の闘いだから」
「違うよ、ゼラくん」
「え……?」
「この闘いは、私たちの闘いだよ」
ミミリたちは、大きく頷いた。
「ありがとう……。さぁ、行こう……!」
乾いてひび割れた大地にポッカリと空いた隠れ穴。やはり雷電石の地下空洞と同じで、下へと続く階段があった。
ただの穴ではなく階段がある以上、人為的に作られたことは明白だ。昔はあちら側とこちら側の行き来があったのかもしれないが、今となってはそれはもう、わからない。
「良かった。明かりがあるね」
「ああ」
先遣隊が灯して行ったのかもしれない。至る所に、松明が置いてあった。明るさがあれば、ゼラのトラウマも少しは緩和される。
下へと続く階段は、さほど長くはなかった。しばらく進むと。開けた踊り場のような場所へと降り立った。
「「「「――――――――――!」」」」
ここは……この踊り場は――
「ミミリ! うさみ! バルディさん! 戦いの準備を! うさみとミミリは、介抱に専念してくれ」
「「「了解!」」」
先遣隊のメンバーは、何者かに敗れ、そこかしこに倒れていた。
――暗闇で、ギョロリと赤い瞳のようなものが5つ光る。
それも、異様なまでにギラリとした嫌な光。
松明の明かりに照らされて明らかになったソレはなんなのか、うさみが叫んで教えてくれた。
「いややああああ! せ、せ、節足動物~!」
うさみが既に戦闘不能に近い。
「ううう、私も苦手だよ……」
女子2人が怯むとなると、この戦いは苦戦を強いられるだろう。
――謎の節足動物、蜘蛛との闘いの火蓋は、今、切って落とされた。
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