上 下
139 / 207
第5章 宿敵討伐編

5-5 アンスリウム山の入り口

しおりを挟む

 瞑想の湖の美少女に別れを告げ、湖を抜けてアンスリウム山に着いた。

 ミミリは昨晩、夜通し錬成していたものようなので、野営当番からは外れることとなった。ミミリは申し訳なさから「ごめんなさい」と言っていたが、そこはすかさずゼラがフォローする。

「ミミリはみんなのために錬成してくれたんだから気に病む必要はないし、むしろありがとう!」
「ゼラくん……ありがとう」

 何かとやらかしがちなゼラではあるが、こういったさりげないフォローが自然体でできるところが、アザレアマダムを魅了する要因の一つなのかもしれない。

 蛇頭のメデューサ対策として、試行錯誤のうえに新たに錬成された【七色のメガネ】。
 錬金素材アイテムとして使用した瞑想の湖の庇護膜が、シャボン玉のように反射して七色に見える。これは諸刃の剣で、闇に乗じて援護射撃をするバルディにとっては輝く七色は自身の居場所を示すようなもの。これは、ゼラの【忍者村の黒マント】を纏うことで補うこととした。

 一方、ゼラはバルディとは異なり、蛇頭のメデューサの敵対心ヘイトを一身に受けなければならない。
 さすがに、手が霜焼けのままでは闘えないので、ミミリと一緒にうさみに回復魔法、癒しの春風で回復してもらった。

 実はミミリから、【絶縁のグローブ】の氷属性版を作ってみたらいいのかもしれない、と提案を受けたがこれ以上ミミリに負担をかけたくなかったゼラは、これを断った。
 それに――勘ではあるが微量の魔力を通さなければ技が発動しない以上、凍てつく斧に素手で臨むしかないのではないかとゼラは思案していた。

 小細工をしようものなら、斧に認めてもらえない。――そんな気がする。


 ミミリたちは今、アンスリウム山の中腹へ差し掛かったところ。コブシ含む先遣隊が一角牛を倒してくれていたのだろう、辺りには一角牛がバタリと倒れていることが多かった。
 しかし、いくら高級錬金素材アイテムとはいえ、【マジックバッグ】なしでは荷物になる。泣く泣く置いていったのだろう。
 ミミリは一角牛のおこぼれをありがたく、ヒョイヒョイとバッグにしまってゆく。
 アンスリウム山の秘湯の先――頂上に着いた頃には、ミミリはほくほく顔だった。

 ◆

「みんな気をつけて! テールワットがいるわよ!」
「――行けっ!」

 ――シュッ!

「キュウウウウウウ」

 頂上へ着くや否やうさみの声かけよりも少し早く、バルディは矢を放った。矢は見事にテールワットに命中。
 テールワットは比較的討伐しやすいため、ミミリお手製の新アイテム【水魚すいぎょの矢】を使用せず通常の矢を使用した。
 規格外の見習い錬金術士のミミリとはいえど、量産はできないために特別な矢の浪費はできない。テールワット程度なら通常の矢で倒し、そしてそれも回収し手入れをして次戦に備える。

 ――この頃からバルディは思っていた。

 ゼラやミミリ、うさみのように属性を扱えたら、矢を使わなくとも、魔力を矢に変換させた擬似矢が撃てるのではないか、と。そうすればコスパがいいし、身軽である。歩くたびにガシャリと音もしないので、夜陰に乗じる射手にとっては効率もいい。
 ――この戦いが終わったら特訓しよう、とバルディは密かに考えていた。

「キュウ……」
 ――バタッ! バタバタッ!

 バルディの放った矢により。テールワット次々とは頂上に倒れてゆく。

「……? なんだろう、あの、穴みたいなもの」

 ミミリの気づきに、うさみは両足をパカっと開いて腕を組んだ。

「ふふ~ん! これで……がかなり有力になったわね」
「そうだね」
「ええ。でも良かったわ」
「……なにが?」
「本当に仮説……このアンスリウム山の頂上が川上の街と繋がっていたとして……入口が小さくて良かったわ」
「どうして?」

 ミミリが問う。

「だって、モンスターの行き来であちら側とこちら側のの生態系が崩れたり、被害が出たら困るもの。こちら側からはこの穴の大きさから考えるにほろよいハニーが限度よ。あちら側から小型のテールワットが来るようにね」
「たしかにな。テールワットやほろよいハニーなら、D級冒険者の俺でも仕留められるから。一角牛が通れない穴で良かったよ」

 バルディは言う。

 ……けれど、もう一つの心配が……

「ゼラくん、隠れ穴、地下へと続く階段だけれど、大丈夫?」
「………………そうよね、心配ね」

 思い出されるのは雷電石らいでんせきの地下空洞へと続く長い長い暗闇の階段。
 ミミリたちは、ゼラのトラウマをどうしても気にかけてしまう。

「……今だから言えるけど、正直……こわいよ」
「ゼラくん……」 「「ゼラ……」」
「だけれど……」

 ゼラは拳をギュッと握って言う。

「ここは川上の街の近くの森じゃない。あの、木のウロじゃない。あの時みたいに……無力だった俺じゃない……!」

 ゼラの決意は、固かった。
 ゼラは既に、アンスリウム山の隠れ穴を見据えている。
 大人がやっと一人通れる大きさ。やはり、雷電石らいでんせきの地下空洞と似通っている。
 今までのゼラであれば、降り行く途中で体調を崩していたに違いない。

 しかし、表情を見れば、あの時のゼラではないことがわかる。……手は、少し震えてはいるけれど。

「恥ずかしいけど……手は震える。ははは。情けないけれど。でも、俺は行くよ。これは、俺の闘いだから」
「違うよ、ゼラくん」
「え……?」
「この闘いは、の闘いだよ」

 ミミリたちは、大きく頷いた。

「ありがとう……。さぁ、行こう……!」


 乾いてひび割れた大地にポッカリと空いた隠れ穴。やはり雷電石らいでんせきの地下空洞と同じで、下へと続く階段があった。
 ただの穴ではなく階段がある以上、人為的に作られたことは明白だ。昔はあちら側とこちら側の行き来があったのかもしれないが、今となってはそれはもう、わからない。

「良かった。明かりがあるね」
「ああ」

 先遣隊が灯して行ったのかもしれない。至る所に、松明が置いてあった。明るさがあれば、ゼラのトラウマも少しは緩和される。

 下へと続く階段は、さほど長くはなかった。しばらく進むと。開けた踊り場のような場所へと降り立った。

「「「「――――――――――!」」」」

 ここは……この踊り場は――

「ミミリ! うさみ! バルディさん! 戦いの準備を! うさみとミミリは、に専念してくれ」
「「「了解!」」」

 先遣隊のメンバーは、何者かに敗れ、そこかしこに倒れていた。

 ――暗闇で、ギョロリと赤い瞳のようなものが光る。
 それも、異様なまでにギラリとした嫌な光。

 松明の明かりに照らされて明らかになったはなんなのか、うさみが教えてくれた。

「いややああああ! せ、せ、節足動物~!」

 うさみが既にに近い。

「ううう、私も苦手だよ……」

 女子2人が怯むとなると、この戦いは苦戦を強いられるだろう。

 ――謎の節足動物、との闘いの火蓋は、今、切って落とされた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

処理中です...