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第4章 ゼラの過去
4-13(終話)パズルのピース
しおりを挟むここは、アザレアの森。
うさみの探索魔法を頼りに、行方不明になってしまったマール、そして蛇頭のメデューサを探しているところ。
捜索中、ゼラは今まで秘めていた過去を包み隠さず教えてくれた。ミミリとうさみの目には、自然と涙が浮かんでしまう。
「ゼラ……」
「ゼラくん、話してくれてありがとう」
ゼラは、一瞬目を合わせてスッと逸らした。
「あはは……。自分の過去を話すのって恥ずかしいもんだな」
照れるゼラの横で、涙が止まらないバルディ。
さすが「人情屋」のバルディとしては、ゼラの過去の話に涙も止まらなくなるのは想像できたものの……、ここまで泣くものなんだろうか。
「あの……バルディさん、大丈夫ですか? すみません、俺の話で……」
「違うんだ……。……ン、と……アは……俺の……俺の……」
「え?」
耳のいいうさみは、驚きを隠せない。
「――まさか、そんなことってあるの? 奇跡のようね」
「俺も……信じられない。デュランとトレニアは、俺の弟と妹だ……!」
「「ええっ……!」」
「アザレアでももちろんたくさん調べたさ……! でも、目撃情報から蛇頭のメデューサが絡んでいるんじゃないかっていう推測にとどまっただけで、その先までは……。だから俺は、冒険者になったんだ。2人を探しに行きたくて」
「バルディさん……」
バルディは両手で顔面を押さえて嗚咽する。
「ゼラ……ゼラ……デュランとトレニアは、無事だったんだな……」
「……はい。トレニアは俺が教会を出た時はまだ喋れませんでしたけど、デュランは元気ですよ! 剣術の練習もしてましたから。トレニアもバルディさんに会えたら、……きっと……」
「そうか……そうか…………」
「バルディさん……」
ミミリは、バルディを心配しつつも、まっすぐ前を向き、顔を上げて……森の木々から透けて見えるミミリと同じ瞳の晴れた青い空を手を翳して透かして見ている。
「ねぇ、ゼラくん。バルディさんの家族もそうだけど……冒険を続けていけば……きっと、会えるよね。パパとママに」
「俺はそう、信じてる。なによりあんなに強いんだ。絶対どこかの地で、元気に冒険しているさ!」
「そうね。そして、スズツリー=ソウタも探して、【アンティーク・オイル】も探して、帰りましょう! アルヒの元に」
「うん!」 「ああ!」
その前に……、とゼラは言う。
「マールを探して、蛇頭のメデューサを倒して。父さんと母さんの墓参りをしたいんだ。そして……バルディさんと一緒に教会へ行く。……迎えに行きましょう、バルディさん! デュランとトレニアを」
「あ、ああ!」
今までバラバラだったパズルのピース。
ミミリの両親、
ゼラの過去、
バルディの過去、
蛇頭のメデューサ……。
まるでそのピースがカチリと枠にはまるように、点と点が繋がった……。
目標は立った。
道筋は見えた……!
あとは……手がかりを探して目標を遂げるのみ。
ミミリたちの心は、更に1つにまとまった。
「おお~い!」
遠くから、聞き慣れた声が聞こえる。
長い赤髪を無造作に後ろでまとめ、深い緑色の目をした褐色の肌の持ち主。瞑想の湖の方角から筋肉の流れが美しい馬を駆けてきたのは、コブシだった。
「コブシさんっ! どうしたんですか?」
「はあっ、はあっ」
一旦馬から降り、腰を折り、両膝に手をつきながら呼吸を整えるコブシ。状況を察するに、緊急事態のようだ。
「はあっ……俺は捜索専念班として、他の冒険者たちとチームを組んで、アンスリウム山に向かっていた。そのっ、頂上で見つけたんだ! マールが大事にいつも持っている小さな猫のぬいぐるみを……!」
「――! じゃあ、マールはアンスリウム山を越えて?」
コブシは馬に給水させながら、フルフルと首を振る。
「いいや、アンスリウム山は切り立った崖のような山だ。こちら側から登れても、反対側に降りれはしない。一方通行のような山なんだ」
「じゃあ……」
コブシは緊張感はそのままにほんのりと笑う。
「見つけたんだよ、アンスリウム山の頂上から地下へ続く隠れ穴を。蓋がしてあったが、マールの猫のぬいぐるみが挟まってたんだ。あの子は……聡い子だ。あの子のお陰で発見できた……!」
「なんて頭のいい子なのかしら」
うさみは、まだ3歳だというマールの賢さに感嘆の声を上げた。こわいだろうに、機転をきかせて、捜索の大きなヒントをくれるとは。
「それに、朗報だ……! 頂上にあのヒナタがいた」
「「ええっ! アザレアの街を目指していたヒナタさんが?」」
コブシは逆に驚いた。
「はぁっ? アザレアの街とは正反対だろうがよ。……まぁ、いい。あのヒナタだからな。俺はこのまま、街へ帰って状況報告する。そして体制を整えてまた山へ向かうよ。ミミリちゃんたちは、悪いが……」
ミミリは、力強く首肯し、両手をギュッと握った。
「はい! 私たちは山へ向かいます」
「行きましょう! ゼラ、バルディ。準備はいいわね?」
「俺は弱いけど、せめて邪魔にならないよう、後方支援に徹するよ。ただ、引け腰にはならない。やっと弟たちの手がかりを見つけたんだ! 俺だって、やってやる……!」
ゼラは瞳を閉じて深呼吸する……。
「やっと……、やっとこの時が……。俺は絶対……蛇頭のメデューサを討つ」
ミミリは肩を震わせるゼラの背中を優しく叩き、
「大丈夫だよ。私たちがついているから」
と言い、うさみは、
「年長者の私が守ってあげるから、任せておきなさいッ! ……新しい魔法も試してみるわ」
と励ました。
「「「「行こう……!」」」」
それぞれの決意を胸に。
アンスリウム山目掛けて、ミミリたちの冒険は、今、幕を開けた。
――今来たる――決戦の時だ――!
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