上 下
134 / 207
第4章 ゼラの過去

4-13(終話)パズルのピース

しおりを挟む

 ここは、アザレアの森。
 うさみの探索魔法を頼りに、行方不明になってしまったマール、そして蛇頭のメデューサを探しているところ。

 捜索中、ゼラは今まで秘めていた過去を包み隠さず教えてくれた。ミミリとうさみの目には、自然と涙が浮かんでしまう。

「ゼラ……」
「ゼラくん、話してくれてありがとう」

 ゼラは、一瞬目を合わせてスッと逸らした。

「あはは……。自分の過去を話すのって恥ずかしいもんだな」

 照れるゼラの横で、涙が止まらないバルディ。
 さすが「人情屋」のバルディとしては、ゼラの過去の話に涙も止まらなくなるのは想像できたものの……、ここまで泣くものなんだろうか。

「あの……バルディさん、大丈夫ですか? すみません、俺の話で……」

「違うんだ……。……ン、と……アは……俺の……俺の……」
「え?」

 耳のいいうさみは、驚きを隠せない。

「――まさか、そんなことってあるの? 奇跡のようね」
「俺も……信じられない。デュランとトレニアは、俺の弟と妹だ……!」

「「ええっ……!」」

「アザレアでももちろんたくさん調べたさ……! でも、目撃情報から蛇頭のメデューサが絡んでいるんじゃないかっていう推測にとどまっただけで、その先までは……。だから俺は、冒険者になったんだ。2人を探しに行きたくて」
「バルディさん……」

 バルディは両手で顔面を押さえて嗚咽する。

「ゼラ……ゼラ……デュランとトレニアは、無事だったんだな……」

「……はい。トレニアは俺が教会を出た時はまだ喋れませんでしたけど、デュランは元気ですよ! 剣術の練習もしてましたから。トレニアもバルディさんに会えたら、……きっと……」
「そうか……そうか…………」

「バルディさん……」

 ミミリは、バルディを心配しつつも、まっすぐ前を向き、顔を上げて……森の木々から透けて見えるミミリと同じ瞳の晴れた青い空を手をかざして透かして見ている。

「ねぇ、ゼラくん。バルディさんの家族もそうだけど……冒険を続けていけば……きっと、会えるよね。パパとママに」
「俺はそう、信じてる。なによりあんなに強いんだ。絶対どこかの地で、元気に冒険しているさ!」
「そうね。そして、スズツリー=ソウタも探して、【アンティーク・オイル】も探して、帰りましょう! アルヒの元に」
「うん!」 「ああ!」

 その前に……、とゼラは言う。

「マールを探して、蛇頭のメデューサを倒して。父さんと母さんの墓参りをしたいんだ。そして……バルディさんと一緒に教会へ行く。……迎えに行きましょう、バルディさん! デュランとトレニアを」
「あ、ああ!」

 今までバラバラだったパズルのピース。

 ミミリの両親、
 ゼラの過去、
 バルディの過去、
 蛇頭のメデューサ……。

 まるでそのピースがカチリと枠にはまるように、点と点が繋がった……。

 目標は立った。
 道筋は見えた……!

 あとは……手がかりを探して目標を遂げるのみ。
 ミミリたちの心は、更に1つにまとまった。


「おお~い!」

 遠くから、聞き慣れた声が聞こえる。
 長い赤髪を無造作に後ろでまとめ、深い緑色の目をした褐色の肌の持ち主。瞑想の湖の方角から筋肉の流れが美しい馬を駆けてきたのは、コブシだった。

「コブシさんっ! どうしたんですか?」
「はあっ、はあっ」

 一旦馬から降り、腰を折り、両膝に手をつきながら呼吸を整えるコブシ。状況を察するに、緊急事態のようだ。

「はあっ……俺は捜索専念班として、他の冒険者たちとチームを組んで、アンスリウム山に向かっていた。そのっ、頂上で見つけたんだ! マールが大事にいつも持っている小さな猫のぬいぐるみを……!」
「――! じゃあ、マールはアンスリウム山を越えて?」

 コブシは馬に給水させながら、フルフルと首を振る。

「いいや、アンスリウム山は切り立った崖のような山だ。こちら側から登れても、反対側に降りれはしない。一方通行のような山なんだ」
「じゃあ……」

 コブシは緊張感はそのままにほんのりと笑う。

「見つけたんだよ、アンスリウム山の頂上から地下へ続く隠れ穴を。蓋がしてあったが、マールの猫のぬいぐるみが挟まってたんだ。あの子は……聡い子だ。あの子のお陰で発見できた……!」
「なんて頭のいい子なのかしら」

 うさみは、まだ3歳だというマールの賢さに感嘆の声を上げた。こわいだろうに、機転をきかせて、捜索の大きなヒントをくれるとは。

「それに、朗報だ……! 頂上にヒナタがいた」
「「ええっ! アザレアの街を目指していたヒナタさんが?」」

 コブシは逆に驚いた。

「はぁっ? アザレアの街とは正反対だろうがよ。……まぁ、いい。ヒナタだからな。俺はこのまま、街へ帰って状況報告する。そして体制を整えてまた山へ向かうよ。ミミリちゃんたちは、悪いが……」

 ミミリは、力強く首肯し、両手をギュッと握った。

「はい! 私たちは山へ向かいます」
「行きましょう! ゼラ、バルディ。準備はいいわね?」
「俺は弱いけど、せめて邪魔にならないよう、後方支援に徹するよ。ただ、引け腰にはならない。やっと弟たちの手がかりを見つけたんだ! 俺だって、やってやる……!」

 ゼラは瞳を閉じて深呼吸する……。

「やっと……、やっとこの時が……。俺は絶対……蛇頭のメデューサヤツを討つ」

 ミミリは肩を震わせるゼラの背中を優しく叩き、

「大丈夫だよ。私たちがついているから」

 と言い、うさみは、

の私が守ってあげるから、任せておきなさいッ! ……新しい魔法も試してみるわ」

 と励ました。

「「「「行こう……!」」」」

 それぞれの決意を胸に。

 アンスリウム山目掛けて、ミミリたちの冒険は、今、幕を開けた。

 ――今来たる――決戦の時だ――!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...