上 下
110 / 207
第3章 人と人とが行き交う街 アザレア

3-33(幕間) 冒険者ギルド職員デイジーの目論見

しおりを挟む

 私はデイジー。
 人と人とが行き交う街アザレアの冒険者ギルドの職員です。

 ……え? 職員じゃないかって?

 誰です? そんなうさみちゃんみたいな、キレッキレのツッコミを入れる方は。
 訂正させていただきますけれど、職員ではなく、ギルド職員です。

 だって、席はありますから。
 ……無給ですけれど。


 ………………………………。


 うっうっうっうっ。
 わかってますよ、本当は実質的な解雇宣告だってことは。

 でも、でもでもでも!
 いいんです、席さえあれば。
 だっていつかは、戻れるかもしれないってことでしょう?

 公的職種に就きながら『酒乱』っていう醜聞を世に広めてしまいましたが、それ以上の成果か何かをアザレア若しくは冒険者ギルドにもたらすことができるのならば、この無期限長期休暇は、献身的貢献のための準備期間なんですから!

 私の言うこと、伝わりますよね?
 わかってくれますよね? ねっ? ねっ?


 …………。

 信用ないかもしれないですが、私一応、ある成果を認められて席を残してもらってるんです。

 その成果っていうのは、新たに産まれたアザレアの銘酒、『フェニックス』の誕生に一役買ったからなんです。

 それにしても、『フェニックス』っていい名前ですよね。落ちゆくアザレアの復活に掛けて、うさみちゃんが命名したらしいですよ。

 私がうさみちゃんに、「いい名前ですね」って言ったら、

「……そ、そうね。デイジーには少し申し訳なくもあるけどねん」

 って言って目を逸らしたのは気になりますが。

 私はとてもいい名前だと思います。

 ……っといけない! 話が逸れてしまいました。

 そう、それで、話を元に戻しますと、『フェニックス』の誕生に一役買ったっていうのは、私がミミリちゃんたちに酒の名水の採集依頼をお願いしたからなんです。

「採集場所がモンスターの少ないアザレアの森で駆け出し冒険者に適してるからって、未成年に酒の名水の採集依頼を受注させるなんて何考えてるんだ」

 って、依頼当初は先輩職員に怒られちゃいましたし、ミミリちゃんたちが一晩経ってもアザレアに戻ってきていないって聞いた時には血の気がひいたりもしましたけれど。
 結局、ミミリちゃんたちは採集依頼を達成してくれて、汲みたての酒の名水を依頼主に直接納品できるというのですから、私の株は急上昇したわけなのです。

 私を注意してくれた先輩職員も、周りの方々も、良くやったなって褒めてくれました。
 それにたくさん質問も受けたんですよ。

「未成年に敢えてこの依頼を勧めるなんて、こうなることがまるでわかっていたみたいだな」
「すごいな」

 なぁんて。
 だから私は言ったんです。

「私の中のもう1人の私(酔拳闘士デイジー)が、ビビッときたと言ったんです」

 って。
 そうしたら、みんな「ははは……」って引き笑いしてましたけど……。
 でも本当に、私の中のお酒をこよなく愛する私が告げたんです。

 美味しいお酒の予感がする。
 依頼すべきだ~って。

 見事私の勘は当たってくれて、そのご褒美といいますかなんといいますか、
「ギルド職員として納品に立ち会ってこい、その後はそのまま上がっていいぞ」
っていう上席のお計らいをありがたくお受けした結果……、あとはみなさんご存知のとおりの顛末を迎えたというわけなのです。

 そんなこんなで、ミミリちゃんたちへのお詫びも兼ねてC級冒険者としてアンスリウム山までの護衛をすることとなったのですが……。

 お酒の力を借りないと何もできない私は、ただただ冒険して温泉を楽しんで帰ってきてしまいました。貢献できたことといえば、ミミリちゃんのご飯作りを手伝ったことでしょうか? それと、うさみちゃんの背中についたバッタを追い払ったこと? その程度かもしれません。

 そんな感じでしたから、お礼はいらないって再三ミミリちゃんに申し上げたのですが、そんなわけにはいきませんって、今回の冒険で手に入れた素材を半分こしようとしてくれたんです。

 ルフォニアの綿花に、スリウムの原石、一角牛の素材などですね。
 あと、一角牛の討伐成功の報酬もくれようとしたんですよ。

 そこは兄さんが必死になってお断りしたので、全部ミミリちゃんたちの手柄となりましたが。一応、冒険者としても生きた年数としても先輩なので、面目が丸潰れにならずに済んでよかったです。

 そういえば、ミミリちゃんは冒険から帰ってきてからというもの、工房にこもって錬成してるみたいなんです。時折悲鳴も聞こえてくるとかなんとか。錬金術って悲鳴あげるほどホラーなんでしょうか。心配です。
 
 心配といえば……。
 ミミリちゃんたちってば、ほろ酔いハニーも含めてまだ依頼達成報告してないんですよ。報告したのは酒の名水の直接納品だけ。

 いくつか達成報告できる依頼が貯まっているので、まとめて報告された日には冒険者ギルドはさぞ賑わうことと思います。
「超大型新人が現れた~!」
 とかなるんじゃないでしょうか。
 一角牛なんて、強いモンスターですからね。


 ……というわけで。
 兄さんのおかげもあって、なんとかミミリちゃんたちへの償いも済みましたので、これからは冒険者として成果を上げて、アザレア若しくは冒険者ギルドに貢献して……なんとか冒険者ギルド職員に返り咲かなければなりません。

 ……と言っても、お酒の力がなければ何もできない私は地道に頑張るしかないのですけれど。

 何か、いい案ありませんかね?
 思いつくのはお酒に関することばかり……。
 あぁ、どうして私ってこうなんでしょう。
 寝ても覚めても、お酒お酒お酒~!

 ……そうだ!
 お酒といえば!
 大変らしいですよ。

 ……何が大変かって?

 お酒が底を尽きそうらしいんです。
 今『フェニックス』の酒造でてんやわんやしているので、普段飲んでいるお酒の酒造が停滞しているっていう環境下……、高確率で出現するらしいんですよ! 例のあの人が。

 ――そう、酒豪のローデさんが!

 連日連夜現れて大変らしいんです。
 まったく、困っちゃいますね、ローデさんにも。

 ……人のこと、言えないですけど……。

 酒豪のローデさんを食い止めることができて、アザレアのお酒の供給量確保に貢献できたら、私の株は上がるでしょうか。
 と言っても、お酒好きの一定層のみに貢献するだけでしょうけれど。

 ローデさんを食い止める……。
 ローデさんを……。

 …………ふふふ。
 
 いいこと、思いついちゃったかもしれません。
 早速、行動に移さないと。
 兄さんにはバレないようにしなくちゃですね。

 ……あ、みなさんも、兄さんにはくれぐれも内緒にしてくださいねっ。

 さぁ、そうと決まれば早速、下準備をしないと。

 各所へ根回しに行ってきます。
 どうか、うまくいきますように。



 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

神の甲虫は魔法少女になって恩返しします

中七七三
児童書・童話
【児童書で小学校3年年生以上くらいを対象に考えた物語です】 いつか、どこか―― それは遠いむかしか未来か、どこの世界かは分かりません。 ただ、そこではアイウエ王国とカキクケ皇国の間で長い戦争が続いていました。 アイウエ王国の兵隊となったサシス・セーソは、タチツ峠にある要塞に向かいます。 要塞に向かう行進の途中でサシス・セーソは大きなどろ団子のような丸い玉を転がす甲虫に出会いました。 「このままでは、兵隊に踏みつぶされてしまう」 やさしいサシスは、甲虫を道のわきにどけてあげたのです。 そして、要塞にこもったサシスたちは、カキクケ皇国の軍隊に囲まれました。 しかし、軍勢は分かれ、敵の大軍が王国に向かっていくのです。 サシスは伝令となり、敵が迫っていることを王国を出て、山野を走りました。 そんなときでした。 「ボクが助けてあげる。ボクは魔法少女さ」 漆黒の髪をした美しく可憐な少女がサシスの前に現われたのです。 表紙画像は「ジュエルセイバーFREE」さんの画像を利用しました。 URL:http://www.jewel-s.jp/

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

処理中です...