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第3章 人と人とが行き交う街 アザレア
3-33(幕間) 冒険者ギルド職員デイジーの目論見
しおりを挟む私はデイジー。
人と人とが行き交う街アザレアの冒険者ギルドの職員です。
……え? 元職員じゃないかって?
誰です? そんなうさみちゃんみたいな、キレッキレのツッコミを入れる方は。
訂正させていただきますけれど、元職員ではなく、現ギルド職員です。
だって、席はありますから。
……無給ですけれど。
………………………………。
うっうっうっうっ。
わかってますよ、本当は実質的な解雇宣告だってことは。
でも、でもでもでも!
いいんです、席さえあれば。
だっていつかは、戻れるかもしれないってことでしょう?
公的職種に就きながら『酒乱』っていう醜聞を世に広めてしまいましたが、それ以上の成果か何かをアザレア若しくは冒険者ギルドにもたらすことができるのならば、この無期限長期休暇は、献身的貢献のための準備期間なんですから!
私の言うこと、伝わりますよね?
わかってくれますよね? ねっ? ねっ?
…………。
信用ないかもしれないですが、私一応、ある成果を認められて席を残してもらってるんです。
その成果っていうのは、新たに産まれたアザレアの銘酒、『フェニックス』の誕生に一役買ったからなんです。
それにしても、『フェニックス』っていい名前ですよね。落ちゆくアザレアの復活に掛けて、うさみちゃんが命名したらしいですよ。
私がうさみちゃんに、「いい名前ですね」って言ったら、
「……そ、そうね。デイジーには少し申し訳なくもあるけどねん」
って言って目を逸らしたのは気になりますが。
私はとてもいい名前だと思います。
……っといけない! 話が逸れてしまいました。
そう、それで、話を元に戻しますと、『フェニックス』の誕生に一役買ったっていうのは、私がミミリちゃんたちに酒の名水の採集依頼をお願いしたからなんです。
「採集場所がモンスターの少ないアザレアの森で駆け出し冒険者に適してるからって、未成年に酒の名水の採集依頼を受注させるなんて何考えてるんだ」
って、依頼当初は先輩職員に怒られちゃいましたし、ミミリちゃんたちが一晩経ってもアザレアに戻ってきていないって聞いた時には血の気がひいたりもしましたけれど。
結局、ミミリちゃんたちは採集依頼を達成してくれて、汲みたての酒の名水を依頼主に直接納品できるというのですから、私の株は急上昇したわけなのです。
私を注意してくれた先輩職員も、周りの方々も、良くやったなって褒めてくれました。
それにたくさん質問も受けたんですよ。
「未成年に敢えてこの依頼を勧めるなんて、こうなることがまるでわかっていたみたいだな」
「すごいな」
なぁんて。
だから私は言ったんです。
「私の中のもう1人の私(酔拳闘士デイジー)が、ビビッときたと言ったんです」
って。
そうしたら、みんな「ははは……」って引き笑いしてましたけど……。
でも本当に、私の中のお酒をこよなく愛する私が告げたんです。
美味しいお酒の予感がする。
依頼すべきだ~って。
見事私の勘は当たってくれて、そのご褒美といいますかなんといいますか、
「ギルド職員として納品に立ち会ってこい、その後はそのまま上がっていいぞ」
っていう上席のお計らいをありがたくお受けした結果……、あとはみなさんご存知のとおりの顛末を迎えたというわけなのです。
そんなこんなで、ミミリちゃんたちへのお詫びも兼ねてC級冒険者としてアンスリウム山までの護衛をすることとなったのですが……。
お酒の力を借りないと何もできない私は、ただただ冒険して温泉を楽しんで帰ってきてしまいました。貢献できたことといえば、ミミリちゃんのご飯作りを手伝ったことでしょうか? それと、うさみちゃんの背中についたバッタを追い払ったこと? その程度かもしれません。
そんな感じでしたから、お礼はいらないって再三ミミリちゃんに申し上げたのですが、そんなわけにはいきませんって、今回の冒険で手に入れた素材を半分こしようとしてくれたんです。
ルフォニアの綿花に、スリウムの原石、一角牛の素材などですね。
あと、一角牛の討伐成功の報酬もくれようとしたんですよ。
そこは兄さんが必死になってお断りしたので、全部ミミリちゃんたちの手柄となりましたが。一応、冒険者としても生きた年数としても先輩なので、面目が丸潰れにならずに済んでよかったです。
そういえば、ミミリちゃんは冒険から帰ってきてからというもの、工房にこもって錬成してるみたいなんです。時折悲鳴も聞こえてくるとかなんとか。錬金術って悲鳴あげるほどホラーなんでしょうか。心配です。
心配といえば……。
ミミリちゃんたちってば、ほろ酔いハニーも含めてまだ依頼達成報告してないんですよ。報告したのは酒の名水の直接納品だけ。
いくつか達成報告できる依頼が貯まっているので、まとめて報告された日には冒険者ギルドはさぞ賑わうことと思います。
「超大型新人が現れた~!」
とかなるんじゃないでしょうか。
一角牛なんて、強いモンスターですからね。
……というわけで。
兄さんのおかげもあって、なんとかミミリちゃんたちへの償いも済みましたので、これからは冒険者として成果を上げて、アザレア若しくは冒険者ギルドに貢献して……なんとか冒険者ギルド職員に返り咲かなければなりません。
……と言っても、お酒の力がなければ何もできない私は地道に頑張るしかないのですけれど。
何か、いい案ありませんかね?
思いつくのはお酒に関することばかり……。
あぁ、どうして私ってこうなんでしょう。
寝ても覚めても、お酒お酒お酒~!
……そうだ!
お酒といえば!
大変らしいですよ。
……何が大変かって?
お酒が底を尽きそうらしいんです。
今『フェニックス』の酒造でてんやわんやしているので、普段飲んでいるお酒の酒造が停滞しているっていう環境下……、高確率で出現するらしいんですよ! 例のあの人が。
――そう、酒豪のローデさんが!
連日連夜現れて大変らしいんです。
まったく、困っちゃいますね、ローデさんにも。
……人のこと、言えないですけど……。
酒豪のローデさんを食い止めることができて、アザレアのお酒の供給量確保に貢献できたら、私の株は上がるでしょうか。
と言っても、お酒好きの一定層のみに貢献するだけでしょうけれど。
ローデさんを食い止める……。
ローデさんを……。
…………ふふふ。
いいこと、思いついちゃったかもしれません。
早速、行動に移さないと。
兄さんにはバレないようにしなくちゃですね。
……あ、みなさんも、兄さんにはくれぐれも内緒にしてくださいねっ。
さぁ、そうと決まれば早速、下準備をしないと。
各所へ根回しに行ってきます。
どうか、うまくいきますように。
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