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第3章 人と人とが行き交う街 アザレア

3-30 前フリのロデオボーイと最強のボムガール

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「ぎゅうううう~!」

 一角牛は、ひらめく赤い布目掛けて突進する。
 コブシはすんでのところでヒラリと布を引き、コブシの背後に隠れていたゼラがすれ違いざまに雷を帯びた短剣の一撃を浴びせる。よろめく一角牛へ、更にダメ押しのコブシの一撃も。

「今だ!」

 2体同時に迫り来たタイミングを逃さなかった。
 コブシの巧みな布捌きによって1体の角をもう1体の腹部にズブリと命中させることに成功した。致命傷には至らないものの、腹部に深く刺さった角は引き抜かれれば、見るのも痛々しいほどに凄惨な有様。一角牛は大ダメージを負ったようだ。

 残る1体へも何度か繰り返すうちに、体力を大幅に削ることに成功した。コブシの一撃は通りが悪いようだが、ゼラの雷を纏った一撃は通じている様子。

 あとは、最後のダメ押しで残る体力を削るのみ。

「うおおおおお! いくぞ、ゼラ!」
「はいっ!」

 コブシとゼラは、満身創痍の一角牛の背に飛び乗った。

「ぎゅう~!」 「ぎゅぎゅう~!」

 コブシはすかさず、ミミリからもらった長い赤布を広げ、一角牛の角目掛けて引っ掛けた。

「ぎゅ~⁉︎」

 布はビリリと破けて一角牛の角を貫通してしまうが、おかげでいかなる動きにも布は離れず一角牛につきまとう。布は視覚だけでなく思考も奪ったようで、一角牛は一心不乱に暴れ回った。
 コブシは跨る脚をキュッと締め、前へ後ろへ、左へ右へ。時に勾配キツく弓形になる一角牛に振り落とされないよう布を握って必死で食らいつく。
 ゼラもすかさずコブシを真似た。

 暴れ狂う一角牛の上で揺さぶれても尚食らいつく。渇いた地面は一角牛の蹄で抉られ砂埃となって宙へ舞い上がった。

「ゼラ、お前、やるじゃないか!」
「コブシさんこそ、さすがです!」

 互いの健闘を称え合うコブシとゼラ。
 背後に聳えるアンスリウム山の背景の後押しもあれば、この光景はまさに『荒野を股にかけたロデオボーイ』。

「しら~」

 好き者が見れば垂涎すいぜんものの光景も、うさみのお気には召さないようで、ただひたすらに白けた目を向けている。

「闘牛からのロデオ、素晴らしい流れだけれど……私、漢くさいのって、あんまりなのよねん」
「ふふ、そんなこと言わないで、うさみ。あ! 一角牛、倒れそう……!」

 ――ミミリの言うとおりだった。
 コブシたちがロデオボーイとして汗を流すこと数分、途端に暴れ牛たちの動きが悪くなってきた。
 いきり立っていた弓形の背も、左右にぶるんぶるんと振り乱していた鋭い角も……。

 しだいにどんどん、ゆるやかに…………。

 ………………………………………………。


 …………………………。
 

 そして、一角牛はゆらりと体制を崩した。
 倒れゆくタイミングで、背から跳び降りるゼラとコブシ。2人が地に足をつけると同時に、2体の一角牛も脇腹からグラリと倒れ込んだ。

 ――ドォォォン!

「やったな、ゼラ! 俺たちの勝利だ!」
「やりましたねコブシさん!」

 倒れる一角牛を背景に、パァン! と手を重ねてハイタッチする漢たち。

「すごい! 兄さんたち!」
「いえ、油断は禁物よ、デイジー。見てご覧なさい、ミミリの抜かりのなさを。

 大変! いいから、耳、塞いで! 早く!」

 デイジーはうさみに言われたとおりに耳を塞ぐ。うさみの視線を辿って見た先では、ミミリが少し離れた位置から、倒れる一角牛目掛けて狙いを定め、ナニカを放とうとしていた。

「ゼラくーん! コブシさーん! 避けてくださーい! いっくよー! えーーーーいっ!」

「や、やばい! コブシさん! 早く!」

 ゼラはコブシの手を引きその場を駆け出した。訳もわからず、半ば引きずられるように駆け出すコブシ。

 ミミリが放ったナニカは、倒れる一角牛へと見事に命中し――、

 ――ドォォォン!

 という音ともに、赤い火花を散らして爆発した。

「「うあああああ」」

 爆風をその背に受け、進行方向へ吹き飛ぶゼラとコブシは、うさみとデイジーの足元へ顔面を打ち付けた。

 土まみれの顔を上げた元ロデオボーイたちと、耳を押さえたまま動かなくなったうさみとデイジー。
 4人は、あっけらかんとしているミミリを見て呆然と固まる。

 ミミリは、まる焦げになった一角牛2体に駆け寄り眺めながら、錬成アイテムの分析に熱中している。


「うん! 【弾けたがりの爆弾 (ミニ)】でもいい感じかもしれない! ……今度は、【雷様の思しメシ】試してみちゃおうかなっ! それと、【ぷる砲弾(雷)】と、あとは、メリーさんの……」

 言いながらミミリは、みんなが離れた位置から傍観していることに気がついて、小首を傾げた。

「どうしたんですか? みんな、固まって……。そうだ! 今度、焼肉パーティーしましょうね!」

 焼肉の食材である丸焦げの一角牛を背に、ニッコリ元気に微笑むミミリ。

「は、はい、楽しみです……」
「な、なぁ、ゼラ。もしかしなくても、ミミリちゃんって最強じゃないか? 俺たち、完全なる前フリ……」
「ミミリはいつだって、最強だと俺は思ってます……。お疲れ様です、コブシさん」

「前フリのロデオボーイと最強のボムガール、アンスリウム山に爆誕の巻……」
 
 うさみはボソリと締めの口上を述べた。

 ミミリたちは、
 ・一角牛の革
 ・一角牛の角
 ・一角牛の肉
 を手に入れた。
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