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第3章 人と人とが行き交う街 アザレア
3-5 図らずも「凡人」は伝説になった
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――ゴーン! ゴーン!
雲一つない快晴の下、鳴り響く鐘の音。
門扉の内側から、開門を告げる笛の音が聞こえると、扉は大きく広場に向かって開かれた。
「おーい! おはよー!」
眩しい陽の光に負けないくらい元気いっぱいのバルディが、大きく手を振りながら門をくぐってやって来た。
公私をはっきりと区別するものの、基本的に礼儀正しいバルディは夜間勤務の先輩門番へ深々と頭を下げることも忘れない。
「あっ、バルディさん、おはようございます~!」
「あら、早いのねバルディ」
ミミリは【マジックバッグ】にちょうど小屋をしまい終わったところ。バルディと約束した待ち合わせの時間が何時かわからなかったので、早めに朝食を済ませ、これから食後のティータイムをしようと思っていた。
「あれ? ゼラは?」
「あ、ゼラくん、今、ケンカ中なんです」
「ケンカぁ?」
ミミリが指差した方、少し離れた芝生の上にいたゼラを見つけたバルディは、いろんな意味でゼラが心配になった。
「だーかーらっ、俺は斧の練習がしたいんだって」
「お前にはまだ早い? だから練習するんだって話。どっちの斧がいいとか我儘言わないから、出してく……コイツ!」
全部ゼラの独り言。
ゼラは自身の腰につけた茶色とオレンジ色の中間くらいの明るい色味のウエストポーチに向かって話しかけていた。ポーチに手を突っ込もうとしては、まるで噛みつかれたかのように慌てて手を引っ込めるのを繰り返している。
「早く仲良くなってくれたらいいんだけど」
「まぁ、だ……。……あ」
ミミリがあまりに心配そうにしているので、まぁ大丈夫でしょ、と返答しようと思ったうさみは決定的な場面を見る。
「お前なー。 ――! それを言うなあああぁぁ!」
ゼラは悔しそうに膝を折り、芝生に肘をついて項垂れた。うさみはその姿を見て、ミミリへの返答を180度方向転換させる。
「残念だけど、しばらく無理かもしれないわねん」
「う~、心配だなぁ……」
「うううっ、ゼラ、お前……」
「「え?」」
バルディの嗚咽にも似た声を聞いたミミリとうさみは、目を疑った。バルディの目から、一筋の涙が頬を伝ってポタリと落ちたのだ。バルディは胸を押さえてゼラを見つめている。
「過酷な環境で、ゼラはもしかして病んでしまっているのか。まだ精々15歳くらいだっていうのになぁ」
「あの、バルディさん? ゼラくんは……」
と、すかさず説明しようと思ったミミリを、うさみはため息混じりに手元のコーヒーカップの湯気にふうっと息を吹きかけてから、冷静に静止した。
「その『人情屋』は落ち着くまで放っておきなさい、ミミリ。まったく人間の男どもって、一癖も二癖もあるんだから」
◆ ◆ ◆
昨日別れた後、バルディが一夜にして話を通してくれていたので、ミミリたちは身分証不携帯のまま街の中に入れることになった。
――門をくぐると、そこは、別世界だった。
門の入り口、すぐそばには門番たちの詰所があった。
内側の門番を務めるのは、門扉の端、左右に1人ずつ、計2名。バルディに片手を上げて挨拶をしている。それを受けてバルディが返すのは、腰を折った丁寧な挨拶。やはり「公」のバルディは礼儀正しい。
「わぁ……」
ミミリは眩い世界に胸を踊らせながら、うさみを抱き、隣のゼラと。先導するバルディの背中を見ながら一歩一歩、これは現実のことなのだと、確かめるように進んでいく。
足元に広がるのは、歩きやすい石畳の道。しかも、花を思わせるような模様を計画的に敷き詰めて整地されている。
太い道の左右には楽しげな露店と、活気ある呼び込み。そして、行き交う人々。露店の後ろには道の端に沿うように建物が並び、道を進んだ開けた広場には、大きな噴水があった。
噴水の噴き出す水は、陽の光を浴びながらキラキラと輝く飛沫を上げ、緩やかな弧を描いて円形の水受けへ落ちていく。噴水の周りを花壇が囲み、花壇の前には等間隔でベンチが置いてある。寄り添って座るのは恋人だろうか。2人が食べているあの美味しそうなベーグルサンドは、先程見た露店で売っていた。
ミミリにとってはどれも新鮮。先程から、腕の中のうさみは楽しそうに足をパタつかせている。ミミリたちよりは外の世界が詳しいはずのゼラも、赤い瞳を輝かせて、右へ左へと顔を動かし、とても忙しそうだ。
「ここだよ! 到着!」
広場の中央に位置する噴水の右奥で、バルディは右手を広げてある建物を指し示した。
通りに並んでいた建物よりも一回りは大きいその建物は『アザレア街役場』と記した看板を掲げていた。
数段の階段を登り、役場の入り口の前の踊り場に立つバルディは、ミミリたちに笑顔を向けて手招きをしている。
「さぁ、行こう! 身分証を作らないと」
◆ ◆ ◆
「おはようございます。お待ちしておりました。バルディさん。そして、ミミリさん、うさみさん、ゼラさん。ようこそ、アザレアへ」
街役場の中へ入るとすぐ、色素が薄めの黄色をしたショートカットが印象的な、凛々しい女性が挨拶をしてくれた。清楚な白ブラウスに、青地に白の小花柄のスカーフを首元に巻き、紺色のスラックスと白色のヒールが高いパンプス。首から提げたネームプレートには、『ローデ』と書かれていた。
「おはようございます、ローデさん。急な調整すみません」
「大丈夫ですよ。応接室にご案内いたしますね」
バルディとローデの後を着いていくミミリたち。
バルディと同じくらいの歳の頃に見えるローデに、ミミリは釘付けになった。勝ち気な目元に泣きぼくろ。赤すぎないリップ。ミミリにはない、大人の色気がローデにはある。ヒールをカツンカツンと鳴らして歩くところも何もかもがカッコいい。
「素敵……」
ミミリの横を歩くゼラは、ミミリの発言を聞き逃さなかった。ミミリの視線がバルディに向いていると思ったゼラは、胸がモヤモヤしてしまう。
色々な想いが交錯する中、ミミリの腕の中で全ての状況が見えているうさみは、うんうん、と頷いていた。
……多感な時期ね。結構、結構。でも、ミミリはあげないわよ?
◆ ◆ ◆
建物の3階、いくつか部屋を素通りして応接室に通されたミミリたち。中で待っていたのは、黒髪で40代くらいの1人の男性だった。
男性は、赤いソファーからすくっと立ち上がり深々とお辞儀をした。ミミリたちもつられて深々とお辞儀をする。
「はじめまして。私はペラルゴ。この街の町長を務める者です」
「はじめまして! 私はミミリです。この子はうさみ。そしてゼラくんです」
「ご丁寧に。どうぞ、おかけください」
ペラルゴに勧められ、ミミリたちは着席した。
ペラルゴは、応接室の入り口で立って待機しているローデに指示を出す。ローデは予め準備していた3枚の用紙をペラルゴとミミリたちの間の楕円形のテーブルに並べ、一歩下がってバルディの横へ立ち並んだ。
「昨日はこの街と旅人たちを救ってくださりありがとうございました。聞けば身分証でお困りとのこと。お礼と言っては何ですが、身分証作成にご協力したい」
「わぁ! ありがとうございます」
「身分証には職業を記す必要があるのですが……、ミミリさんは錬金術士というのは本当ですか? そして、うさみさんは魔法使いだというのは」
「はい、そうです」
ペラルゴがミミリとうさみだけに触れることについて、ゼラは心の中で自嘲する。
……俺は、第一印象のつかみも失敗してるしな。「凡人」ことなんて覚えてないだろうなぁ。……俺もきちんと鍛錬を積めば、「凡人」の域を超えることができるんだろうか……
「そして、ゼラさんは雷を操る短剣使いだそうですね?」
「――! は、はぃ!」
ゼラは予想外の喜びに声が裏返ってしまった。
その様子を見てバルディの未来が予想できたローデは、さっとハンカチを取り出し、バルディに手渡す。バルディは、ありがとう、と言って熱くなった目頭をハンカチで押さえた。
「こんなに有望な人材、逃すわけには……」
と言いながら、ペラルゴはバルディを見て顔を合わせて大きく頷き合った。
「ミミリさん、うさみさん、ゼラさん。古い書物によると錬金術士がアイテムを錬成するためには、大釜が必要だとか」
「はい、そうです。錬金釜っていうんです」
「もしよろしければ、アザレア内に大釜付きの工房を差し上げたいのですが、つきましては……」
「……」
ゼラは破格の待遇に喜ぶのではなく、警戒心を剥き出しにした。ただの人助けの礼にしてはあまりにできすぎている。この話は裏に何かあるはずだ、とゼラは勘繰った。
その瞬間、ゼラの腰の【マジックバッグ】から、嫌みたらしいしゃがれ声が脳裏に響いてくる。
……ダァカラ、俺様ハ、オ前ノソウイウトコロガ気ニ入ッテルンダヨォ、相棒(仮)
ゼラはふうっとため息をつく。
……ったく、だったら朝みたいに出し惜しみしないで、最初から……
「武器を寄越せよな。――ハッ!」
「ゼ、ゼラくん?」
「どうしたの、ゼラ。人助けしたのは好意でしょ? なに、反抗期なワケ? 多感にもほどがあるわよ! 突然脅迫したらダメでしょッ! すみません、うちの子が……」
ミミリもうさみも突然のゼラの暴漢っぷりに驚きが隠せない。
「いや、違うんだ! 俺はそんなつもりは……」
と、弁明をするも、時はすでに遅かった。
「ゼラ、やっぱりお前、過酷な環境で精神を病んで……」
「武器、ですか……。すぐにご用意できるかどうか……」
更にハンカチを涙で濡らすバルディと。突然の脅迫にハンカチを汗で濡らすペラルゴと。
――ゼラが巻き起こしたこの騒動により、図らずして、ゼラは「凡人」ではなく――伝説の「暴漢」となった。
雲一つない快晴の下、鳴り響く鐘の音。
門扉の内側から、開門を告げる笛の音が聞こえると、扉は大きく広場に向かって開かれた。
「おーい! おはよー!」
眩しい陽の光に負けないくらい元気いっぱいのバルディが、大きく手を振りながら門をくぐってやって来た。
公私をはっきりと区別するものの、基本的に礼儀正しいバルディは夜間勤務の先輩門番へ深々と頭を下げることも忘れない。
「あっ、バルディさん、おはようございます~!」
「あら、早いのねバルディ」
ミミリは【マジックバッグ】にちょうど小屋をしまい終わったところ。バルディと約束した待ち合わせの時間が何時かわからなかったので、早めに朝食を済ませ、これから食後のティータイムをしようと思っていた。
「あれ? ゼラは?」
「あ、ゼラくん、今、ケンカ中なんです」
「ケンカぁ?」
ミミリが指差した方、少し離れた芝生の上にいたゼラを見つけたバルディは、いろんな意味でゼラが心配になった。
「だーかーらっ、俺は斧の練習がしたいんだって」
「お前にはまだ早い? だから練習するんだって話。どっちの斧がいいとか我儘言わないから、出してく……コイツ!」
全部ゼラの独り言。
ゼラは自身の腰につけた茶色とオレンジ色の中間くらいの明るい色味のウエストポーチに向かって話しかけていた。ポーチに手を突っ込もうとしては、まるで噛みつかれたかのように慌てて手を引っ込めるのを繰り返している。
「早く仲良くなってくれたらいいんだけど」
「まぁ、だ……。……あ」
ミミリがあまりに心配そうにしているので、まぁ大丈夫でしょ、と返答しようと思ったうさみは決定的な場面を見る。
「お前なー。 ――! それを言うなあああぁぁ!」
ゼラは悔しそうに膝を折り、芝生に肘をついて項垂れた。うさみはその姿を見て、ミミリへの返答を180度方向転換させる。
「残念だけど、しばらく無理かもしれないわねん」
「う~、心配だなぁ……」
「うううっ、ゼラ、お前……」
「「え?」」
バルディの嗚咽にも似た声を聞いたミミリとうさみは、目を疑った。バルディの目から、一筋の涙が頬を伝ってポタリと落ちたのだ。バルディは胸を押さえてゼラを見つめている。
「過酷な環境で、ゼラはもしかして病んでしまっているのか。まだ精々15歳くらいだっていうのになぁ」
「あの、バルディさん? ゼラくんは……」
と、すかさず説明しようと思ったミミリを、うさみはため息混じりに手元のコーヒーカップの湯気にふうっと息を吹きかけてから、冷静に静止した。
「その『人情屋』は落ち着くまで放っておきなさい、ミミリ。まったく人間の男どもって、一癖も二癖もあるんだから」
◆ ◆ ◆
昨日別れた後、バルディが一夜にして話を通してくれていたので、ミミリたちは身分証不携帯のまま街の中に入れることになった。
――門をくぐると、そこは、別世界だった。
門の入り口、すぐそばには門番たちの詰所があった。
内側の門番を務めるのは、門扉の端、左右に1人ずつ、計2名。バルディに片手を上げて挨拶をしている。それを受けてバルディが返すのは、腰を折った丁寧な挨拶。やはり「公」のバルディは礼儀正しい。
「わぁ……」
ミミリは眩い世界に胸を踊らせながら、うさみを抱き、隣のゼラと。先導するバルディの背中を見ながら一歩一歩、これは現実のことなのだと、確かめるように進んでいく。
足元に広がるのは、歩きやすい石畳の道。しかも、花を思わせるような模様を計画的に敷き詰めて整地されている。
太い道の左右には楽しげな露店と、活気ある呼び込み。そして、行き交う人々。露店の後ろには道の端に沿うように建物が並び、道を進んだ開けた広場には、大きな噴水があった。
噴水の噴き出す水は、陽の光を浴びながらキラキラと輝く飛沫を上げ、緩やかな弧を描いて円形の水受けへ落ちていく。噴水の周りを花壇が囲み、花壇の前には等間隔でベンチが置いてある。寄り添って座るのは恋人だろうか。2人が食べているあの美味しそうなベーグルサンドは、先程見た露店で売っていた。
ミミリにとってはどれも新鮮。先程から、腕の中のうさみは楽しそうに足をパタつかせている。ミミリたちよりは外の世界が詳しいはずのゼラも、赤い瞳を輝かせて、右へ左へと顔を動かし、とても忙しそうだ。
「ここだよ! 到着!」
広場の中央に位置する噴水の右奥で、バルディは右手を広げてある建物を指し示した。
通りに並んでいた建物よりも一回りは大きいその建物は『アザレア街役場』と記した看板を掲げていた。
数段の階段を登り、役場の入り口の前の踊り場に立つバルディは、ミミリたちに笑顔を向けて手招きをしている。
「さぁ、行こう! 身分証を作らないと」
◆ ◆ ◆
「おはようございます。お待ちしておりました。バルディさん。そして、ミミリさん、うさみさん、ゼラさん。ようこそ、アザレアへ」
街役場の中へ入るとすぐ、色素が薄めの黄色をしたショートカットが印象的な、凛々しい女性が挨拶をしてくれた。清楚な白ブラウスに、青地に白の小花柄のスカーフを首元に巻き、紺色のスラックスと白色のヒールが高いパンプス。首から提げたネームプレートには、『ローデ』と書かれていた。
「おはようございます、ローデさん。急な調整すみません」
「大丈夫ですよ。応接室にご案内いたしますね」
バルディとローデの後を着いていくミミリたち。
バルディと同じくらいの歳の頃に見えるローデに、ミミリは釘付けになった。勝ち気な目元に泣きぼくろ。赤すぎないリップ。ミミリにはない、大人の色気がローデにはある。ヒールをカツンカツンと鳴らして歩くところも何もかもがカッコいい。
「素敵……」
ミミリの横を歩くゼラは、ミミリの発言を聞き逃さなかった。ミミリの視線がバルディに向いていると思ったゼラは、胸がモヤモヤしてしまう。
色々な想いが交錯する中、ミミリの腕の中で全ての状況が見えているうさみは、うんうん、と頷いていた。
……多感な時期ね。結構、結構。でも、ミミリはあげないわよ?
◆ ◆ ◆
建物の3階、いくつか部屋を素通りして応接室に通されたミミリたち。中で待っていたのは、黒髪で40代くらいの1人の男性だった。
男性は、赤いソファーからすくっと立ち上がり深々とお辞儀をした。ミミリたちもつられて深々とお辞儀をする。
「はじめまして。私はペラルゴ。この街の町長を務める者です」
「はじめまして! 私はミミリです。この子はうさみ。そしてゼラくんです」
「ご丁寧に。どうぞ、おかけください」
ペラルゴに勧められ、ミミリたちは着席した。
ペラルゴは、応接室の入り口で立って待機しているローデに指示を出す。ローデは予め準備していた3枚の用紙をペラルゴとミミリたちの間の楕円形のテーブルに並べ、一歩下がってバルディの横へ立ち並んだ。
「昨日はこの街と旅人たちを救ってくださりありがとうございました。聞けば身分証でお困りとのこと。お礼と言っては何ですが、身分証作成にご協力したい」
「わぁ! ありがとうございます」
「身分証には職業を記す必要があるのですが……、ミミリさんは錬金術士というのは本当ですか? そして、うさみさんは魔法使いだというのは」
「はい、そうです」
ペラルゴがミミリとうさみだけに触れることについて、ゼラは心の中で自嘲する。
……俺は、第一印象のつかみも失敗してるしな。「凡人」ことなんて覚えてないだろうなぁ。……俺もきちんと鍛錬を積めば、「凡人」の域を超えることができるんだろうか……
「そして、ゼラさんは雷を操る短剣使いだそうですね?」
「――! は、はぃ!」
ゼラは予想外の喜びに声が裏返ってしまった。
その様子を見てバルディの未来が予想できたローデは、さっとハンカチを取り出し、バルディに手渡す。バルディは、ありがとう、と言って熱くなった目頭をハンカチで押さえた。
「こんなに有望な人材、逃すわけには……」
と言いながら、ペラルゴはバルディを見て顔を合わせて大きく頷き合った。
「ミミリさん、うさみさん、ゼラさん。古い書物によると錬金術士がアイテムを錬成するためには、大釜が必要だとか」
「はい、そうです。錬金釜っていうんです」
「もしよろしければ、アザレア内に大釜付きの工房を差し上げたいのですが、つきましては……」
「……」
ゼラは破格の待遇に喜ぶのではなく、警戒心を剥き出しにした。ただの人助けの礼にしてはあまりにできすぎている。この話は裏に何かあるはずだ、とゼラは勘繰った。
その瞬間、ゼラの腰の【マジックバッグ】から、嫌みたらしいしゃがれ声が脳裏に響いてくる。
……ダァカラ、俺様ハ、オ前ノソウイウトコロガ気ニ入ッテルンダヨォ、相棒(仮)
ゼラはふうっとため息をつく。
……ったく、だったら朝みたいに出し惜しみしないで、最初から……
「武器を寄越せよな。――ハッ!」
「ゼ、ゼラくん?」
「どうしたの、ゼラ。人助けしたのは好意でしょ? なに、反抗期なワケ? 多感にもほどがあるわよ! 突然脅迫したらダメでしょッ! すみません、うちの子が……」
ミミリもうさみも突然のゼラの暴漢っぷりに驚きが隠せない。
「いや、違うんだ! 俺はそんなつもりは……」
と、弁明をするも、時はすでに遅かった。
「ゼラ、やっぱりお前、過酷な環境で精神を病んで……」
「武器、ですか……。すぐにご用意できるかどうか……」
更にハンカチを涙で濡らすバルディと。突然の脅迫にハンカチを汗で濡らすペラルゴと。
――ゼラが巻き起こしたこの騒動により、図らずして、ゼラは「凡人」ではなく――伝説の「暴漢」となった。
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