見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

文字の大きさ
上 下
73 / 207
第2章 審判の関所

2-28 ゼラと相棒(仮)

しおりを挟む
 ――ピロン!
『卒業おめでとうございます。
 貴方たちパーティーが歩む未来が輝かしい世界でありますように』

 教壇に立つくまゴロー先生の横。ピロンのポップアップに綴られたのは、新たな世界へ旅立つミミリたちへ贈る言葉。ピロンのポップアップは、今日は桜の木に芽吹いた若葉のような色だ。
 一方で、今日のくまゴロー先生は、紳士的な装いに磨きがかかっている。白のワイシャツの上に真っ黒なスーツを羽織り、首元でキュッと締めたピンクのネクタイで遊び心を覗かせることも忘れない。

「はぁん、素敵……」

 うさみはやはり、くまゴロー先生に釘づけだ。
 ミミリは恋する小さな乙女を見て顔を綻ばせ、「うさみも素敵だよ」とニコリと微笑む。

 そんな2人の装いも、可愛らしさを引き立てるものだ。紺色ワンピースは上下でセパレートされている。襟に白のラインが2本入った上着に、可愛らしい細めのプリーツが入ったスカート。真っ赤なスカーフはリボンのように結ばれ、可愛い襟元を更に際立たせている。紺のハイソックスに白の上履き。この服装は、『セーラー服』と呼ぶらしい。
 ミミリの髪型は今日もポニーテールで、ほんの少しの後毛がかえって白いうなじを目立たせていた。 


「……? 先生?」

 うさみは、くまゴロー先生が困り顔を向けている先がゼラであることに気がつき、同じく視線を向けてみて困り顔の理由を知った。

 ゼラは紺のパンツに茶のカーディガンを羽織り、赤いネクタイを締めて服装自体はバッチリとキメているものの、ぽけ~っとミミリを見つめている。そうかと思えば、目を閉じて手を合わせ始めた。おそらく新しい服装への感謝だろう。
 その姿を見てうさみは片肩をすくめて呆れ顔でため息をつく。

「相変わらずなんだから」
『まったくですね』

 うさみとピロンは顔を見合わせてため息ひとつ。
「『……なんて憐れな弟分』」
と、息ぴったりに憐れんだ。


 ――そして、卒業の時。
 卒業証書の授与式だ。


「ゼラくん!」
「……ハイッ!」

 ゼラはスクリと立ち上がり、緊張感たっぷりに教壇へ向かう。その姿を見て、うさみはクスリと笑ってしまう。

「……ゼラ、右手と右足、一緒に動いてるんだけど」
 

 くまゴロー先生とゼラは、教卓越しに向かい合う。

「アタッカーとして、よく頑張りましたね。貴方のこれからのご活躍を心よりお祈りしています。……貴方が背負うモノも、いつか下ろせる時がきますように」
「……ありがとうございます、先生」

 くまゴロー先生は両手でゼラに紙を差し出す。それは、分厚い紙だった。紙の端は金色で縁取られている。

「これが、卒業証書か……」
と呟くゼラにとっては、この「審判の関所」における全てが初めての体験だった。感慨深さを感じながら、ゼラは卒業証書を受け取った。


『卒業証書
 見習い冒険者ゼラさんの、審判の関所(錬金術士ルート)の卒業をここに証します』


「ありがとうございます、先生」

 先生はにこりとゼラに微笑み、更にアイテムをゼラに手渡した。

「先生、これは……?」
「錬金術士ルートをクリアした貴方へ贈る、クリア報酬ですよ」

 ――ピロン……
『……』

 ゼラはピロンの若葉色のポップアップが一瞬枯れ葉色に変わったことも気になったが、それより今は両手にすっぽり収まったアイテムに心が奪われている。

 茶色の革の、ウエストポーチ。ベルトもポーチも革製で見栄えも良い。茶色とオレンジ色の中間くらいの明るい色味。オシャレな装いで身につけるだけでテンションが上がりそうな予感がする。そしてなぜか、手にしっくりと馴染んでくれる。

 喜びも束の間、ゼラに物騒な言葉が聞こえてきた。


 ……俺様に、血ヲ、ヨコセ! 契約、シテヤル!


「……? なんだ? どこからか、生意気そうなしゃがれ声が聞こえてくるけど……。こんな声、心当たりもないしなぁ」

 ゼラは辺りを見渡すが、見慣れたメンバーしかそこにはいない。ミミリもうさみも、ゼラの不審な行動を心配そうに眺めていた。
 そもそも、知ってる限りでこのようなおかしげな声を出すモノなど、ゼラは知らない。

 ……コノッ! オ前ノ目ハ節穴カ! 俺様ヲ両手ニオサメラレテイルコトヲ誇ニ思エ! コノッ! ポンコツ!

「……うわっ! なんだコイツ、喋るのか⁉︎」

 ……ヤットワカッタカ! コノッ!

 ゼラは思わず、両の手のひらで包むように持つのをやめて、ベルト部分を親指と人差し指だけでつまんで持った。
 ゼラは右手を掲げてウエストポーチのバッグ部分と目線を合わせる。

 ……オイ! 俺様ハ偉大ナル【マジックバッグ】様ダゾ! コノッ!

 ゼラは白けた目でバッグを見る。脳内に直接響いてくる声がなんともうるさいことか。

「……でっかい声。耳、じゃなくて頭に響くからボリューム下げてくれないか」
と言うゼラにピンとこれないうさみは、
「……? 私には何も聞こえないけど?」
と言って辺りをキョロキョロ見渡し始めた。


「――!」

 ミミリはひとり、ピンとくる。

「ゼラくんにしか聞こえないって、先生、もしかして……」
「えぇ、さすがミミリさん。これは錬成アイテム。気性の荒さから主が不在の【マジックバッグ】ですよ。それに、武器専用というこだわりも持っています」

 ゼラはミミリが雷のロッドと使用者登録を行った一連の流れがふと頭に浮かんだ。しかし、新たな疑問も浮上する。

「使用者登録って、錬金術士特有じゃ……」
「えぇ、ですから……」
と言いかけたくまゴロー先生に被せるように、ウエストポーチがゼラの脳内に再び語りかけてくる。

 ……使用者登録ダト? 俺様ヲ認メサセタケレバ、力ヲ示セ。マズハ契約ダ! 「仮」契約ナ!

 ゼラは思わずククッと笑う。
 この【マジックバッグ】の悪態も揺らぐことなく一貫すればむしろすがすがしい。

 ……いずれ認めてもらえるように頑張るよ。俺はゼラ。「仮」契約でも嬉しいよ。よろしくな。

 ゼラは鞘から短剣を出し、人差し指をシュッと切って、ポタリと一滴、【マジックバッグ】に血を垂らした。
 ミミリはゼラが傷つく様を見て、ギュッと目を閉じて顔を逸らす。

 【マジックバッグ】にポタリと一滴垂らした血は、みるみる吸収されて跡形もなくなった。途端、【マジックバッグ】からクツクツと不気味な笑い声が聞こえてくる。

 ……オ前、面白イ闇ガアルジャナイカ。気ニイッタ。「仮」契約、成立ダ! ヨロシクナァ、相棒(仮)

「……そりゃどうも。でも、これからよろしくな」


「この【マジックバッグ】って少し……」
と気まずそうに言いかけたミミリの言葉を、くまゴロー先生が継いだ。

「えぇ、かなりの変わり者ですよ。錬金術士以外が使用するなどあまり前例がないでしょう。それにかなり気性が荒い。血の契約、しかも仮契約だなんて普通はありませんからね」
「やっぱり……」
「ですが私は、期待を込めてこの錬成アイテムを託します。ゼラくんならきっと認められるでしょう。貴方には、様々な武器を扱う才能を感じます」


 ゼラはくまゴロー先生の言葉を聞いた後、少しだけ笑顔を向けてから、誰にも聞こえない声量でポツリと呟く。


「……闇を好むアイテムか。俺にピッタリかもしれないな」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

転生チートがマヨビームってなんなのっ?!

児童書・童話
14歳の平凡な看板娘にいきなり“世界を救え”とか無茶ブリすぎない??しかも職業が≪聖女≫で、能力が……≪マヨビーム≫?!神託を受け、連行された神殿で≪マヨビーム≫の文字を見た途端、エマは思い出した。前世の記憶を。そして同時にブチ切れた。「マヨビームでどうやって世界を救えっていうのよ?!!」これはなんだかんだでマヨビーム(マヨビームとか言いつつ、他の調味料もだせる)を大活用しつつ、“世界を救う”旅に出たエマたちの物語。3月中は毎日更新予定!

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

処理中です...