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第2章 審判の関所
2-28 ゼラと相棒(仮)
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――ピロン!
『卒業おめでとうございます。
貴方たちパーティーが歩む未来が輝かしい世界でありますように』
教壇に立つくまゴロー先生の横。ピロンのポップアップに綴られたのは、新たな世界へ旅立つミミリたちへ贈る言葉。ピロンのポップアップは、今日は桜の木に芽吹いた若葉のような色だ。
一方で、今日のくまゴロー先生は、紳士的な装いに磨きがかかっている。白のワイシャツの上に真っ黒なスーツを羽織り、首元でキュッと締めたピンクのネクタイで遊び心を覗かせることも忘れない。
「はぁん、素敵……」
うさみはやはり、くまゴロー先生に釘づけだ。
ミミリは恋する小さな乙女を見て顔を綻ばせ、「うさみも素敵だよ」とニコリと微笑む。
そんな2人の装いも、可愛らしさを引き立てるものだ。紺色ワンピースは上下でセパレートされている。襟に白のラインが2本入った上着に、可愛らしい細めのプリーツが入ったスカート。真っ赤なスカーフはリボンのように結ばれ、可愛い襟元を更に際立たせている。紺のハイソックスに白の上履き。この服装は、『セーラー服』と呼ぶらしい。
ミミリの髪型は今日もポニーテールで、ほんの少しの後毛がかえって白いうなじを目立たせていた。
「……? 先生?」
うさみは、くまゴロー先生が困り顔を向けている先がゼラであることに気がつき、同じく視線を向けてみて困り顔の理由を知った。
ゼラは紺のパンツに茶のカーディガンを羽織り、赤いネクタイを締めて服装自体はバッチリとキメているものの、ぽけ~っとミミリを見つめている。そうかと思えば、目を閉じて手を合わせ始めた。おそらく新しい服装への感謝だろう。
その姿を見てうさみは片肩をすくめて呆れ顔でため息をつく。
「相変わらずなんだから」
『まったくですね』
うさみとピロンは顔を見合わせてため息ひとつ。
「『……なんて憐れな弟分』」
と、息ぴったりに憐れんだ。
――そして、卒業の時。
卒業証書の授与式だ。
「ゼラくん!」
「……ハイッ!」
ゼラはスクリと立ち上がり、緊張感たっぷりに教壇へ向かう。その姿を見て、うさみはクスリと笑ってしまう。
「……ゼラ、右手と右足、一緒に動いてるんだけど」
くまゴロー先生とゼラは、教卓越しに向かい合う。
「アタッカーとして、よく頑張りましたね。貴方のこれからのご活躍を心よりお祈りしています。……貴方が背負うモノも、いつか下ろせる時がきますように」
「……ありがとうございます、先生」
くまゴロー先生は両手でゼラに紙を差し出す。それは、分厚い紙だった。紙の端は金色で縁取られている。
「これが、卒業証書か……」
と呟くゼラにとっては、この「審判の関所」における全てが初めての体験だった。感慨深さを感じながら、ゼラは卒業証書を受け取った。
『卒業証書
見習い冒険者ゼラさんの、審判の関所(錬金術士ルート)の卒業をここに証します』
「ありがとうございます、先生」
先生はにこりとゼラに微笑み、更にアイテムをゼラに手渡した。
「先生、これは……?」
「錬金術士ルートをクリアした貴方へ贈る、クリア報酬ですよ」
――ピロン……
『……』
ゼラはピロンの若葉色のポップアップが一瞬枯れ葉色に変わったことも気になったが、それより今は両手にすっぽり収まったアイテムに心が奪われている。
茶色の革の、ウエストポーチ。ベルトもポーチも革製で見栄えも良い。茶色とオレンジ色の中間くらいの明るい色味。オシャレな装いで身につけるだけでテンションが上がりそうな予感がする。そしてなぜか、手にしっくりと馴染んでくれる。
喜びも束の間、ゼラに物騒な言葉が聞こえてきた。
……俺様に、血ヲ、ヨコセ! 契約、シテヤル!
「……? なんだ? どこからか、生意気そうなしゃがれ声が聞こえてくるけど……。こんな声、心当たりもないしなぁ」
ゼラは辺りを見渡すが、見慣れたメンバーしかそこにはいない。ミミリもうさみも、ゼラの不審な行動を心配そうに眺めていた。
そもそも、知ってる限りでこのようなおかしげな声を出すモノなど、ゼラは知らない。
……コノッ! オ前ノ目ハ節穴カ! 俺様ヲ両手ニオサメラレテイルコトヲ誇ニ思エ! コノッ! ポンコツ!
「……うわっ! なんだコイツ、喋るのか⁉︎」
……ヤットワカッタカ! コノッ!
ゼラは思わず、両の手のひらで包むように持つのをやめて、ベルト部分を親指と人差し指だけでつまんで持った。
ゼラは右手を掲げてウエストポーチのバッグ部分と目線を合わせる。
……オイ! 俺様ハ偉大ナル【マジックバッグ】様ダゾ! コノッ!
ゼラは白けた目でバッグを見る。脳内に直接響いてくる声がなんともうるさいことか。
「……でっかい声。耳、じゃなくて頭に響くからボリューム下げてくれないか」
と言うゼラにピンとこれないうさみは、
「……? 私には何も聞こえないけど?」
と言って辺りをキョロキョロ見渡し始めた。
「――!」
ミミリはひとり、ピンとくる。
「ゼラくんにしか聞こえないって、先生、もしかして……」
「えぇ、さすがミミリさん。これは錬成アイテム。気性の荒さから主が不在の【マジックバッグ】ですよ。それに、武器専用というこだわりも持っています」
ゼラはミミリが雷のロッドと使用者登録を行った一連の流れがふと頭に浮かんだ。しかし、新たな疑問も浮上する。
「使用者登録って、錬金術士特有じゃ……」
「えぇ、ですから……」
と言いかけたくまゴロー先生に被せるように、ウエストポーチがゼラの脳内に再び語りかけてくる。
……使用者登録ダト? 俺様ヲ認メサセタケレバ、力ヲ示セ。マズハ契約ダ! 「仮」契約ナ!
ゼラは思わずククッと笑う。
この【マジックバッグ】の悪態も揺らぐことなく一貫すればむしろすがすがしい。
……いずれ認めてもらえるように頑張るよ。俺はゼラ。「仮」契約でも嬉しいよ。よろしくな。
ゼラは鞘から短剣を出し、人差し指をシュッと切って、ポタリと一滴、【マジックバッグ】に血を垂らした。
ミミリはゼラが傷つく様を見て、ギュッと目を閉じて顔を逸らす。
【マジックバッグ】にポタリと一滴垂らした血は、みるみる吸収されて跡形もなくなった。途端、【マジックバッグ】からクツクツと不気味な笑い声が聞こえてくる。
……オ前、面白イ闇ガアルジャナイカ。気ニイッタ。「仮」契約、成立ダ! ヨロシクナァ、相棒(仮)
「……そりゃどうも。でも、これからよろしくな」
「この【マジックバッグ】って少し……」
と気まずそうに言いかけたミミリの言葉を、くまゴロー先生が継いだ。
「えぇ、かなりの変わり者ですよ。錬金術士以外が使用するなどあまり前例がないでしょう。それにかなり気性が荒い。血の契約、しかも仮契約だなんて普通はありませんからね」
「やっぱり……」
「ですが私は、期待を込めてこの錬成アイテムを託します。ゼラくんならきっと認められるでしょう。貴方には、様々な武器を扱う才能を感じます」
ゼラはくまゴロー先生の言葉を聞いた後、少しだけ笑顔を向けてから、誰にも聞こえない声量でポツリと呟く。
「……闇を好むアイテムか。俺にピッタリかもしれないな」
『卒業おめでとうございます。
貴方たちパーティーが歩む未来が輝かしい世界でありますように』
教壇に立つくまゴロー先生の横。ピロンのポップアップに綴られたのは、新たな世界へ旅立つミミリたちへ贈る言葉。ピロンのポップアップは、今日は桜の木に芽吹いた若葉のような色だ。
一方で、今日のくまゴロー先生は、紳士的な装いに磨きがかかっている。白のワイシャツの上に真っ黒なスーツを羽織り、首元でキュッと締めたピンクのネクタイで遊び心を覗かせることも忘れない。
「はぁん、素敵……」
うさみはやはり、くまゴロー先生に釘づけだ。
ミミリは恋する小さな乙女を見て顔を綻ばせ、「うさみも素敵だよ」とニコリと微笑む。
そんな2人の装いも、可愛らしさを引き立てるものだ。紺色ワンピースは上下でセパレートされている。襟に白のラインが2本入った上着に、可愛らしい細めのプリーツが入ったスカート。真っ赤なスカーフはリボンのように結ばれ、可愛い襟元を更に際立たせている。紺のハイソックスに白の上履き。この服装は、『セーラー服』と呼ぶらしい。
ミミリの髪型は今日もポニーテールで、ほんの少しの後毛がかえって白いうなじを目立たせていた。
「……? 先生?」
うさみは、くまゴロー先生が困り顔を向けている先がゼラであることに気がつき、同じく視線を向けてみて困り顔の理由を知った。
ゼラは紺のパンツに茶のカーディガンを羽織り、赤いネクタイを締めて服装自体はバッチリとキメているものの、ぽけ~っとミミリを見つめている。そうかと思えば、目を閉じて手を合わせ始めた。おそらく新しい服装への感謝だろう。
その姿を見てうさみは片肩をすくめて呆れ顔でため息をつく。
「相変わらずなんだから」
『まったくですね』
うさみとピロンは顔を見合わせてため息ひとつ。
「『……なんて憐れな弟分』」
と、息ぴったりに憐れんだ。
――そして、卒業の時。
卒業証書の授与式だ。
「ゼラくん!」
「……ハイッ!」
ゼラはスクリと立ち上がり、緊張感たっぷりに教壇へ向かう。その姿を見て、うさみはクスリと笑ってしまう。
「……ゼラ、右手と右足、一緒に動いてるんだけど」
くまゴロー先生とゼラは、教卓越しに向かい合う。
「アタッカーとして、よく頑張りましたね。貴方のこれからのご活躍を心よりお祈りしています。……貴方が背負うモノも、いつか下ろせる時がきますように」
「……ありがとうございます、先生」
くまゴロー先生は両手でゼラに紙を差し出す。それは、分厚い紙だった。紙の端は金色で縁取られている。
「これが、卒業証書か……」
と呟くゼラにとっては、この「審判の関所」における全てが初めての体験だった。感慨深さを感じながら、ゼラは卒業証書を受け取った。
『卒業証書
見習い冒険者ゼラさんの、審判の関所(錬金術士ルート)の卒業をここに証します』
「ありがとうございます、先生」
先生はにこりとゼラに微笑み、更にアイテムをゼラに手渡した。
「先生、これは……?」
「錬金術士ルートをクリアした貴方へ贈る、クリア報酬ですよ」
――ピロン……
『……』
ゼラはピロンの若葉色のポップアップが一瞬枯れ葉色に変わったことも気になったが、それより今は両手にすっぽり収まったアイテムに心が奪われている。
茶色の革の、ウエストポーチ。ベルトもポーチも革製で見栄えも良い。茶色とオレンジ色の中間くらいの明るい色味。オシャレな装いで身につけるだけでテンションが上がりそうな予感がする。そしてなぜか、手にしっくりと馴染んでくれる。
喜びも束の間、ゼラに物騒な言葉が聞こえてきた。
……俺様に、血ヲ、ヨコセ! 契約、シテヤル!
「……? なんだ? どこからか、生意気そうなしゃがれ声が聞こえてくるけど……。こんな声、心当たりもないしなぁ」
ゼラは辺りを見渡すが、見慣れたメンバーしかそこにはいない。ミミリもうさみも、ゼラの不審な行動を心配そうに眺めていた。
そもそも、知ってる限りでこのようなおかしげな声を出すモノなど、ゼラは知らない。
……コノッ! オ前ノ目ハ節穴カ! 俺様ヲ両手ニオサメラレテイルコトヲ誇ニ思エ! コノッ! ポンコツ!
「……うわっ! なんだコイツ、喋るのか⁉︎」
……ヤットワカッタカ! コノッ!
ゼラは思わず、両の手のひらで包むように持つのをやめて、ベルト部分を親指と人差し指だけでつまんで持った。
ゼラは右手を掲げてウエストポーチのバッグ部分と目線を合わせる。
……オイ! 俺様ハ偉大ナル【マジックバッグ】様ダゾ! コノッ!
ゼラは白けた目でバッグを見る。脳内に直接響いてくる声がなんともうるさいことか。
「……でっかい声。耳、じゃなくて頭に響くからボリューム下げてくれないか」
と言うゼラにピンとこれないうさみは、
「……? 私には何も聞こえないけど?」
と言って辺りをキョロキョロ見渡し始めた。
「――!」
ミミリはひとり、ピンとくる。
「ゼラくんにしか聞こえないって、先生、もしかして……」
「えぇ、さすがミミリさん。これは錬成アイテム。気性の荒さから主が不在の【マジックバッグ】ですよ。それに、武器専用というこだわりも持っています」
ゼラはミミリが雷のロッドと使用者登録を行った一連の流れがふと頭に浮かんだ。しかし、新たな疑問も浮上する。
「使用者登録って、錬金術士特有じゃ……」
「えぇ、ですから……」
と言いかけたくまゴロー先生に被せるように、ウエストポーチがゼラの脳内に再び語りかけてくる。
……使用者登録ダト? 俺様ヲ認メサセタケレバ、力ヲ示セ。マズハ契約ダ! 「仮」契約ナ!
ゼラは思わずククッと笑う。
この【マジックバッグ】の悪態も揺らぐことなく一貫すればむしろすがすがしい。
……いずれ認めてもらえるように頑張るよ。俺はゼラ。「仮」契約でも嬉しいよ。よろしくな。
ゼラは鞘から短剣を出し、人差し指をシュッと切って、ポタリと一滴、【マジックバッグ】に血を垂らした。
ミミリはゼラが傷つく様を見て、ギュッと目を閉じて顔を逸らす。
【マジックバッグ】にポタリと一滴垂らした血は、みるみる吸収されて跡形もなくなった。途端、【マジックバッグ】からクツクツと不気味な笑い声が聞こえてくる。
……オ前、面白イ闇ガアルジャナイカ。気ニイッタ。「仮」契約、成立ダ! ヨロシクナァ、相棒(仮)
「……そりゃどうも。でも、これからよろしくな」
「この【マジックバッグ】って少し……」
と気まずそうに言いかけたミミリの言葉を、くまゴロー先生が継いだ。
「えぇ、かなりの変わり者ですよ。錬金術士以外が使用するなどあまり前例がないでしょう。それにかなり気性が荒い。血の契約、しかも仮契約だなんて普通はありませんからね」
「やっぱり……」
「ですが私は、期待を込めてこの錬成アイテムを託します。ゼラくんならきっと認められるでしょう。貴方には、様々な武器を扱う才能を感じます」
ゼラはくまゴロー先生の言葉を聞いた後、少しだけ笑顔を向けてから、誰にも聞こえない声量でポツリと呟く。
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