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第2章 審判の関所

2-6 授業は真面目に受けましょう

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 ーードムドムッ!

「ーー終了! お疲れ様でした。【筆マメさんの愛用ペン】を机に置いてください」

 ーーカタ!

 くま先生の両手を叩く鈍い音にて、入学テストの終了が告げられたミミリたち。3人揃ってペンを置いた。

 くま先生は教壇から降り、ミミリたちのテストを回収しながら、1人ずつ労いの言葉を掛けて回った。

「ゼラくん、最後までよくテストと向き合いましたね」
「ありがとうございます。テストの出来は置いておいて、褒められるって嬉しいもんだなぁ」

 着席した状態で見えるくま先生の横腹。ぽってりと前に突き出したお腹はお世辞抜きで可愛いらしい。
 ゼラは、先生のお腹に癒やされた後、顔を上げて先生を見た。横顔から推測するに、先生も微笑んでくれていそうだ。

「ミミリさん、さすが錬金術士ですね。先生は採点が楽しみです」
「えへへ……、まだ見習いだけど。ありがとうございます、先生!」

 全問正解できるかはわからないが、テストにそれなりの手応えを感じていたミミリ。先生にも褒められてホッと胸を撫で下ろした。

 そして。

 くま先生は、うさみの前でピタッと止まる。

「せん……、せい!」

 うさみは期待に満ちた目で先生の顔を見るが、途端に顔を曇らせた。

 出会い頭、2人の間に桃色の風が吹いたというのに、今はその残り香すら残っていない。

 くま先生は眉間に皺を寄せ、小さな黒い瞳の奥には紅く燃え上がる炎が見える気がする。歯を噛み締めながら上げる口角。その隙間から、くまらしい牙が垣間見える。
 明らかに先生は怒っていた。

「うさみさん、先生は残念です。テスト内容がわからなくても、向き合う姿勢を見せて欲しかった」

「ーー‼︎ ……ごめんなさい」

 うさみは憧れの人を失望させてしまったことにとても落ち込んだ。

「あの……!」


 ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

 挽回の機会が欲しい、とうさみが口を開こうとした時、明るかった教室は暗転した。

 いつのまにか深い紺色をしていた窓から差し込む光は、ふっと消えて暗闇に。
 明かりの代わりに勢いよく天井から現れた、灯りのついたいくつものランタン。ランタンの灯りは、赤に黄に青に黒に……、何色あるだろうか。
 腹の底まで響き渡る地響きでランタンは激しく揺れて、何色もの光が壁や天井で錯綜する。
 異様で異質な光景に、ミミリたちは言葉が何も出ない。


 ーートンッ!
 ーードンッ!
 ーーポフッ!

「うひゃあ‼︎」
「痛(い)ッテェ!」
「キャア!」

 ミミリたちは勢いよく尻もちをついた。

 突如教室の床中央に現れた大きな黒い穴。渦を巻き、先が見えない底闇に、ミミリたちが腰掛けていた椅子も机も原形を無くしてグニャリと吸い込まれていった。
 途端に無くなった椅子に、座位のままの体制で床に思い切りお尻を打ち付けたミミリたち。お尻の痛みは最初の衝撃だけだった。
 それよりも、巻き込まれてゆく異様な世界に頭の整理が追いつかず、今はただただ傍観するのみ。

 床一面に広がる闇。
 ミミリたちを残して、床上の全てが飲み込まれていく。くま先生の、教壇も。
 壁や天井も飲み込まれていくものかと思ったが、そうではなかった。

 ……バリバリバリバリ‼︎

 くま先生の背後、緑の板書は引きちぎられたように割られていく。
 それだけではない。
 緑の板書を皮切りに、天井までも亀裂は及ぶ。
 まるで、分厚い紙をゆっくり左右に破り千切るかのように教室が左右に割れていく。

「割れ……た……? ううん、裂かれた……? こ、こわい……!」

 ミミリは思わずうさみを抱き上げる。
 傷心のうさみは、尚更この異様な状況についていくことができない。

 そんな中、意外にも冷静なのはゼラだった。

「ミミリ、うさみ、俺の近くに! 俺の背中に隠れるんだ!」

 ゼラは腰に提げた鞘から短剣を引き抜き戦闘体制をとった。
 くま先生越しに見える、裂かれた教室の、その先に見える者たちに向かって。


「審判の関所で選ぶことのできるルートはパーティーにつき1つまで。つまり一蓮托生ということ。仲間の落ち度は、連帯責任です」


 喋りながら、床の底闇へとゆっくり沈んでゆくくま先生。

「失態は戦闘で贖ってもらいます。お手並拝見といきましょう」

 そう言い残し、くま先生もグニャリと姿を歪めて底闇へと吸い込まれていった。



 完全に裂かれた教室に残ったのは、ミミリたちだけだった。
 いや、最早ここは教室ではない。

「ううぅ……ダンジョンって、こんなに怖いもの⁉︎ 雷電石(らいでんせき)の地下空洞はこんな不思議なこと、なかったのに……!」
「いや、他の地から来た俺にとっては、すでに不思議は普通だな」
「……だからって、いきなりこれはないでしょう⁉︎」

 背景は紺一色。
 上も下も、右も横も、境目という概念はここにはなさそうだ。
 異様な出来事に似つかわしい、驚くほどに大きな三日月。
 月の光に照らされて、縦に横にとゆるゆる蠢(うごめ)く生き物たち。

 ミミリたちは、気づけば周りを囲まれていた。


 ーースライム状の、たくさんのモンスターたちに。

「ーー‼︎ 囲まれるまで気づかないなんて私としたことが! 頭お花畑も、傷心も、一旦お預けね!……聖女の慈愛!」

 うさみの保護魔法が、ミミリたちをじんわりと包んだ。そしてうさみなりに、ケジメをつける。

「巻き込んでゴメン、2人とも」

 ゼラは短剣を構えながらフフッと笑う。

「うさみ、誰だってそういう時はあるさ! 大丈夫、みんなで乗り越えればいい」
「そうだよ! ミミうさ探検隊は仲良しパーティーだからね! みんなで闘えば、こわくないっ!」

 そう言って、ミミリも肩から提げた【マジックバッグ】の中から、新しい武器、雷のロッドを取り出して構えた。

「ありがとう。貴方たちのことは、私が守るわ。必ずね」

 うさみはその小さな身体に、2人分の命を背負った。


 ーーピロン!

『貴方のパーティーはペナルティにより、『三日月の反省部屋』へ強制転移されました。全モンスター討伐終了まで、この空間から抜け出すことはできません。

 至急、下記ペナルティ概要を確認してください。

 《ペナルティ概要》
 ▶︎入学テストの成績だけでなく受講態度にも審判は下ります。くま先生の審判により、貴方のパーティーには反省が必要であると認められました。

 《今回のペナルティの原因》
 ▶︎受講態度

 《ピロンのワンポイントアドバイス》
 ▶︎授業は真面目に受けましょう

 《ペナルティモンスター》
 ▶︎スライム状モンスター、ぷるぷる 50体
 討伐難易度は低いですが、油断せずに闘いましょう』

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