上 下
45 / 207
第1章 まだ見ぬ世界へ想いを馳せる君へ

1-44(回想) 『名探偵うさみの事件簿 1推理目』

しおりを挟む
 私はうさみ。
 見習い錬金術士ミミリのぬいぐるみよ。
 見た目は、可愛い可愛いうさぎのぬいぐるみなんだけど、実は凄腕の魔法使いなの。

 それに今まで内緒にしてたけど、私ってば、絵も得意なのよねん。
 この本は、ミミリから自由に使っていいよってもらったんだけど、早速表紙に私たちの似顔絵を描いてみたわ。あまりの出来の良さに、私自身ピョンッと飛び上がって驚いたくらいよ。
 そう、さっきミミリにちょっぴり見せてあげたら、「よく描けたね~」って言って頭を撫でてくれたわ。ミミリのナデナデは至福の時よ。

 そう、それで、この本の使い道なんだけど……。
 ミミリに倣って、私なりに冒険を振り返ってみようと思って。
 ミミリは、『見習い錬金術士ミミリの冒険の記録』、として錬成レシピや錬金素材アイテムなんかを記録してるでしょ?
 私も記録を残すことで、冒険を振り返りやすくしたり、冒険で得た気付き、疑問点なんかも残していけたらな、と思ってね。

 し・か・も!
 ただの、メモじゃないわよん!
 可愛くて知的なスーパー魔法使い、うさみさんの頭脳を活かした、冒険の記録。
 その名も、『名探偵うさみの事件簿』ってのはどうかしら。
 ホラ、私の持ち前の推理力を活かして冒険の謎を解き明かしていく、その過程を記せたらなって思うのよね!

 あ、そうそう。この本を書くにあたって、私は今アルヒ女教師の黒縁眼鏡を着けているわ。形から入るって大事でしょ?
 この本を読んでくれている貴方に、私の眼鏡姿を見せてあげられなくて残念。とっても知的でセクシーよん。私ってホント、罪なうさぎなのよね~。

 ……それにしても、重たいわね、この眼鏡。

 あ、そうそう。私ってば持ち前の分析力を活かした表現をしちゃうから、男性諸君にはちょっぴり刺激が強いかもね?心してよねん!

 では早速、これまでの冒険を振り返ってみるわ。
 見た目はうさぎ、中身は乙女な名探偵うさみの推理力、とくとご覧あれ~!


 《登場人物》
 ◎ミミリ
 見習い錬金術士よ。13歳の可愛い少女。私の親友ね!ん~、まぁ、ぬいぐるみ的な観点から言うと、私の持ち主よ。
 晴れた空色の瞳にウェーブがかったピンク色の髪の毛をしているわ。性格は穏やかそのものだけど、芯はしっかりした子よ。ちょっとゆっくりさんだけどね!
・後に説明する、アルヒたちのご主人様の錬金術士に似ているらしいわ。私は会ったことないからわからないけどねん。

 ◎アルヒ
 錬金術によって作られた、機械人形(オートマタ)の美少女剣士よ。見た目は18歳で見目麗しく憂いを帯びた感じね。
 新緑のボブヘアと瞳、陶器のような肌。注目すべきは、胸よ、胸!一度アルヒに抱きしめられたらもう逃げられないわ。身も心もアルヒの虜よ。
・活動範囲が山陵の中と制限がある代わりに範囲内でとてつもない戦闘力を発揮できるわ。
・生命維持には錬成アイテムの【アンティーク・オイル】が必要なんだけど、もう在庫がなくなってしまったの……。

 ◎ゼラ
 面倒見が良くて、意外と頼りになる15歳の少年。ま、一言で言えばコシヌカシね!またはスケコマシとも言うわ。以上!
 ……というのは冗談で、名探偵なんだからちゃんと紹介してあげなきゃね。ゼラってどうしてもからかいたくなっちゃって。金の短髪に赤い瞳。端正な顔立ちの子よ。ゼラが作るはちみつパンケーキは絶品ね!
・本人は隠しているけど、生い立ちに秘密がありそうなの。
・暗くて狭いところが苦手そうだわ。見てられないくらい、苦しそうなのよね。

 ◎ポチ
 希少種のモンスターかと思うくらいの大きな犬。アルヒを作った錬金術士と、アルヒの家族よ。私たちが住んでいた家の近くの森の主的な存在にまで登りつめたらしいわ。年齢は100歳くらいみたいよ。

 ◎スズツリー=ソウタ
 アルヒとポチのご主人様兼家族よ。職業は錬金術士ね。ミミリに言わせると、神様みたいな技術を持った錬金術士みたい。人間らしいけど、生きているなら300歳を超えているわ。長寿の理由は錬金術が関係ありそうだけど、未だ謎に包まれているわね。
・100年前くらいに行方不明になっているわ。いくつかの要素から推測するに、アルヒたちを「何か」から守るために1人でどこかへ行ったみたい。
・その来たる「何か」を待ち受ける日まで、時間がなかったみたいよ。

 ◎雷竜
 雷属性の頂点、黄金色の鱗のドラゴン。雷様とかライちゃんって呼ばれてるわね。んまー高圧的な性格なのよね。それにあざといわ。猫の姿は母性本能をくすぐるために、絶対わ・ざ・と!やってるのよ。油断ならないわ。まぁ、『ドラゴンの郵便屋さん』をやってくれる件については感謝してるけどねぇ。

 ◎ミミリの両親
 過去、ゼラの窮地を救ったゼラにとって女神様のような存在の魔法使いの母と騎士の父。アルヒを救うために、スズツリー=ソウタと【アンティーク・オイル】を探すために旅に出たわ。私に魔力を吹き込んで、生命を与えてくれたのはミミリの母よ。
・ミミリをアルヒに託して旅に出た理由は他にもありそう。でも、謎に包まれているわ。
・「審判の関所」をどうやって越えてきたのか、謎は深まるばかりだわ。

 ◎アユム
 私の弟分の、灰猫のぬいぐるみ。体内に【生命のオーブ】を有しているわ。ミミリに聞いた話によると、朧月夜の日に森の近くで出会ったことがあるみたいなの。なんでも、朧月から、優しそうな家族を探していたんだって。私のポジションを悪意なく狙う油断ならない猫ね。ま、見た目は可愛いわよ?私ほどじゃないけど。大事だからもう一度言うわね。私ほどじゃないけど。

 ◎うさみ
 大トリは私!スーパー魔法使いで名探偵のうさぎのぬいぐるみよ。体内に【生命のオーブ】を有しているから、錬成アイテム【大切な貴方へ】っていう手紙のメッセンジャー的役割を果たせるわ。ミミリの母から魔力の上限値を譲渡されているから、魔法も使えるわよん。可愛いらしさに惚れないでよね?


 《主要な用語》
 ◎大賢者の涙
 私たちの家の周りを流れる川に、スズツリー=ソウタがモンスターが嫌がる成分を付与させたらしいわ。だから、森にたくさんいるモンスターはよっぽどのことがない限り川を渡って来られないの。過保護なスズツリー=ソウタがアルヒのためにやったことじゃないかと推察されるわ。

 ◎審判の関所
 私たちが住む家を囲む山陵と、まだ見ぬ世界へと繋ぐ唯一のダンジョン。山陵は勾配のキツさから越えることができないとされているの。だから、審判の関所をクリアする他に道はないわ。ま、ゼラは【再会のチケット】っていう錬成アイテムを使ってやってきたからそれは例外としてね。
・名を馳せるほどの実力者か、特定の条件下でないと通過できないダンジョンらしいわ。


 《これまでにわかった事柄の時系列》
 ・スズツリー=ソウタ200歳。アルヒを作る。
 ↓
 ・心無い者に、錬金術の本や【アンティーク・オイル】を含む錬成アイテムを盗まれる。(犯人はアルヒたちと顔見知り?)
 ↓
 ・スズツリー=ソウタ、家の周りの川に「大賢者の涙」の成分を付与する。
 ↓
 ・スズツリー=ソウタ、雷竜にアルヒたちを託し、行方不明に。(この時から現在までに100年経過しているわ)
 ↓
 ・スズツリー=ソウタを探すため、アルヒとポチはしばしの別れ。(しばしと言っても100年間よ?)
 ↓
 ・ミミリの両親、この地にやってくる。なお、ミミリが既に産まれていたかは不明。
 ↓
 ・幼いミミリをアルヒに託し、ミミリの両親が旅に出る。
 ・うさみの生命活動開始‼︎(拍手~!)
 ↓
 ・ミミリの両親、ゼラの窮地を救い、いくつかのアイテムを託して頼み事をする。
 ↓
 ・ミミリ13歳、ゼラ15歳の時、ゼラがこの地へやってくる。
 ↓
 ・ポチとアルヒの再会。
 ↓
 ・ミミうさ探検隊、プレ冒険をする。
 ↓
 ・旅立ち。←今ココ!

 ん~。複雑に絡まり合ってるわねぇ。


 《主要なアイテム》
 ◎マジックバッグ
 小さなバッグの中は亜空間領域。錬成前の素材アイテムや生活雑貨、食糧など、生き物以外の物を保管することができるわ。しかも、個数と大きさの制限はないの。それに、収納時点から劣化が止まるという優れもの!温度や状態はキープされるし、バックに重量は加算されないわ。冒険の重要アイテムね!……ちなみに、このバッグはスズツリー=ソウタが作ったものらしいわ。ミミリが作るのはまだ難しいみたい。

 ◎雷様のブレスレット
 ミミリの右手首に着けられた華奢な黄金色のブレスレット。小さな紅い猫のチャームも付いているわ。雷竜からのプレゼントね。雷神の加護が付与されているみたい。雷様が姿形を変えても、このブレスレットを通じて正体や居場所がわかるみたいよ。

 ◎エメラルドグリーンのイヤリング
 アルヒからミミリへ、冒険の無事を祈って託されたイヤリング。ミミリはアルヒが身につけていたように左耳に着けているわ。ミミリの母も身につけているはずなの。親子を結ぶ重要なアイテムとなるはずよ。

 ◎【大切な貴方へ】
 雷電石(らいでんせき)の地下空洞の緑の扉の部屋からミミリが拝借……じゃなかった、雷竜に許可を得てもらってきたアイテムよ。私とアユムがいれば、ミミリとアルヒが文通することも可能だわ。メッセンジャーだなんて、最高の役回りよね?


 《まとめ》
 複雑に運命が絡まり合って、たくさんの謎が浮き彫りになってきたわね。
 この謎を解き明かしていくのも、冒険の醍醐味になりそうだわ。
 まぁ、この、名探偵うさみさんがいれば難事件も迷宮入りさせずにバッチリ解決よん!うさみさんに、任せなさ~い!



 アルヒがどんな気持ちで私たちを送り出してくれたのか、痛いほど、わかっているつもりよ。本心は、一緒に冒険したかったっていうのもね。
 だから私は、アルヒの代わりに、全力でミミリを守るわ。ついでにゼラもね?

 アルヒは優しい子。
 自分のために、人の自由を縛りたくない、そう考えているはず。だから私は、アルヒが気兼ねしないよう、自分自身の冒険を楽しみつつ、目標達成のために頑張るの。

 待っててね、アルヒ。
 必ず見つけてくるから。
 スズツリー=ソウタも、【アンティーク・オイル】も。
 もし、アルヒが眠りについてしまっているなら、叩き起こしてあげるから、覚悟しなさい⁉︎

 また会えた日には、私の素敵な冒険譚を聞かせてあげるからね。そしたら貴方は、少しはホッとしてくれるかしら。


 この本が、私たちの冒険の謎を解く、一助となることを願って。


 ミミリのぬいぐるみ うさみ

しおりを挟む

処理中です...